夢の歯車
〜16〜
カシオペア博士のホームセキュリティを管理するエモーションの無事が確認された。
そのこと自体は全く問題がないが彼女と共に居るという『』という存在は問題であった。
「オラトリオ、どうしたんだい?」
エモーションとの連絡がついた直後は安堵したように見えたオラトリオの顔が強張っていることに疑問を抱いてオラクルは声をかけた。
声をかけられたオラトリオは視線を向けたが自身の帽子を持ち上げて髪を撫でつける。
現在はCGであるオラトリオには必要ない動作なのだが少し気合を入れようかという時に彼が無意識にする行動である。
「エモーションのところに飛ぶわ」
「何か大変なことになってるのか」
気合を入れたオラトリオにオラクルが何事があったのかと心配を深める。
「違う。いや、違わないんだが……お前が考えているようなことじゃない。エモーションの近くにという女が居るらしい」
心配した様子のオラクルに気付いたオラトリオが軽く説明をする。
そうしないと自分が戻ってくるまでこのまま心配を続けているだろうオラクルの為に。
「へぇ、新しいロボットプログラムだったのか?」
「それはないと思うけどな。計画段階でも情報は此方に流れてくるがそういったのは現段階では<A-T>だけだろ。ということで俺はその正体を調べてくるわけだ」
相棒の的外れな推測にオラトリオは否定的な意見を述べる。
シンクタンク・アトランダム以外にもロボット工学を研究している機関は少なくない。
その少なくない機関にはORACLEへ機密情報を渡さないところも多く、そのうちの中にロボットプログラムの作成というのも入っている事だろう。
けれども、オラトリオはこの場合はそれについて当てはまらないと考えていた。
正確には今までのどの経験上にも当てはまらない未知に近い事柄だと彼は認識している。
「あっ、カシオペア博士の方にはお前からエモーションの無事の連絡を入れといてくれ」
「私からよりもエモーション自身に連絡させた方が……」
「あの空間の出入りをちょっと遮断したもんでね」
カシオペア博士のホームセキュリティなどを含むネットの状態は回復している。
回復しているのにそれを管理しているはずの娘のようなエモーションが顔を出さないことに心配していることだろう。
オラクルでもわかるその事実に気付けないオラトリオではなく、そうであるとするとオラトリオはそれだけ『』という存在を危険視しているのだ。
「オラトリオッ!それは、一体……」
「まっ、頼むわ」
まだ何事かを言い続ける相棒を放ってオラトリオは飛ぶ。エモーション達がいるはずの空間へ、彼が一時的にせよ……牢獄とした空間へと。
消えたオラトリオが先ほどまでいた場所をオラクルが心配と同時に疑問の色を浮かべた瞳で見つめていたことを誰も見てはいなかった。
ORACLEの管理者オラクル。
彼がオラトリオの変化を一番に感じ取るのは当然のことであるのかもしれない。