君護り

泣きませんあなたが悲しむから


←Back / Top / Next→




ぼくのからだはぼくだけのものじゃなくてもう一人いる。ぼくだけがねーとよび、ガイだけがとよぶ。
ねーはぼくじゃない人がねーとよぶのはイヤだからガイにはって教えたらしいけれどほかの人には教えないのでぼくと同じようにガイはとくべつな名でねーをよぶことになる。
だからぼくもルウではなくてちがう名前をガイに教えたほうがいいかとガイにきいたら、ぼくはルウのままでいいって言われた。
何だかずるいとおもったぼくにガイはねーとぼくはいつもはルークなのにちがう名前があるから、これ以上はふやさないほうがいいっていわれてぼくもそうかもしれないと思った。
ねーはいつもいろいろと思っているからぼくの名前がふえるとたいへんになってしまうかもしれない。ねーがたいへんならこのままでいいと思う。
ねーはぼくが大人になったらからだをかえすって言うけどぼくとねーのからだなのだから、かえすひつようはないと思う。ずっと、はんぶんこでいいと思う。



拙い文字で書かれた内容に瞬きをする。涙腺が緩んで泣きそうになるが泣いては駄目だ。
今この場で私が泣いてしまえばルウは気にしてしまう。
(ねー、じょうずにかけたでしょ!)
(そうだね。ルウ、上手だよ)
ゲームでルークが日記を書いていたことを思い出してルウに勧めてみた。
文字を書くということは必要なことで日記であれば毎日書くことになるから文字の上達に伝わるかもしれないと。
書かれた内容は今日のことというよりも普段考えていることのほうが多い気がするが初めてなら上出来だ。
どうやって書けばいいのかときかれて、その日にあったことや考えていたことをって答えたのだから間違ってはいない。
(母上とガイにも見せてあげたらよろこぶ?)
初めて書けた日記が褒められたことに気をよくしたのだろうルウの言葉。
二人共がルウが日記を見せたら喜ぶだろうかと考えて内容がまずいかもしれないと思い当たる。
(うーん)
(……よろこばない?)
気落ちした様子を感じて心が痛むけれど内容から要らぬ心配をかけそうなので私は少しばかり嘘をつく。
(日記は自分の気持ちとか書くものだから秘密にするものなんだよ)
(そうなの?でも、ねーに見せちゃった)
(ねーはルウと一緒だからいいの。他の人はルウと同じ身体の中にいないでしょ?)
身体を共有するのだから日記を見る可能性は今後もある。
一応は見ないようにしたほうがいいかもしれないけど見たほうがルウを理解できると思うから今後も見たい。
(そっか!ねーだけ見せる。ねーのも見せてね?)
(うん、わかった)
日記の見せ合いをすることになったがそれでルウの内面が少しでもわかるのならいい。近頃は感じようが発達してきたからかルウのすべてを理解できなくなってきた。
何となく嬉しいとか不快だとか表面上な感情は理解できるけど複雑なことはわからない。ルウからしてみれば私の感情はそういうものであったのかもしれないとも思う。
色々と隠そうとはしていたけれどすべてを隠しきれていたわけではないのにルウは私が考えているよりもそれを気にしないのだ。
私の不安感とかは伝わってもルウに訪れるだろう未来に怯えているという事実は伝わっていないと考えていいのではないか。そうであるのならいい。
同じ身体にいる私が毎日毎日、訪れるだろうルウが死ぬだろう未来を考えていると知られたくはない。私にとってルウがすべて、ルウが私が居ることを認めてくれているからこそ私は生きている。
そんなルウを失うかもしれない未来を私は認めない。世界を救うためにルウを失うことになるのなら世界など救う必要はない滅んでしまえ。
「護ってみせる」
この預言というものに縛られた世界から何を犠牲にしてもルウだけは護ってみせる。その決意が言葉として表に出てきた。
(ねー?どうしたの?)
唐突に発せられた言葉にルウが不思議そうにきいてきたけれど素直に答えることは出来ず首を振り。
(何でもないよ。私の大好きなルウ)
大好きだと大事だとルウのことあるごとに伝えるのは私の怯えのため、将来ルウが選ばなくてはいけなかった時に死を選ばないで欲しいからだ。
私と一緒に過ごすこの時が素晴らしい日々であったのならルウは世界のために死を選ばないのではないかと思う。
未練で生きてくれていてもいい。ルウが生きて笑ってくれる先があるのなら臆病者でもいいじゃないか。
私は高貴なる血が流れる者ではないからそう思うのだろうか?王族や貴族であれば世界のために国のために死を選ぶ?
そうだというのならルウは王族でなくていい、貴族でなくていい。生を惜しんで生きてくれる子になってほしい。
(ルウもねー、大好き)
こうして誰かに想いを伝えるのをためらわないままでいて、ルウは笑っていてね?お願いだよ。
いつかきっと異質な私は消えてしまうけれど、ルウのために少しでも未来を残していくからルウが歩む道が途切れてしまわないように……




←Back / Top / Next→