君護り

終りの日にはきっと君と手を繋ぐ


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奇妙なことにガイはあの日から変わった。そう思うのは彼が私達がしたいと思うことを理解すると出来る限りかなえようとするからだ。
言われたことだけをするのではなく、彼が考えてこの方が良いのではないだろうかと思いついたことを伝えてくることもある。
私としては悪い変化ではないので変わったガイを受け入れてはいるが彼は私とルウの名をよく呼ぶようにもなった。ルークと呼ばなければならない時以外はガイは私達の名を呼んで、どちらに何を言ったのかを判断出来るようにしているらしい。
ルウが大きくなれば今のように子どもの相手をする時のような口調ではなくなるのだろうから後々のことを考えれば悪くはないがルウはともかくとして私の場合は不味い。
ルウはルークの愛称と誤魔化せてもは一体何なのだという話になると説明が思いつかないし、無事にルウが運命の時を乗り越えた時にまだ私が存在するのなら私はルウの底のほうで表には出てこないようにするつもりだからルウが二重人格者だと考えている人間も極力少なくしたい。
だというのにルウの世話役であるガイは人の話を理解しようとせず、それどころかルウを味方につけて3人でいる時には名前で呼ぶと取り決めた。ルウからねーと呼ばれるのが好きなのでそちらは死守したが……
現状維持ですらままならなかった時を思い出して顰め顔をしたが室内に居るガイの様子に私は開いてた本を閉じて声をかける。
「ガイ、面白い?」
子供用に少し短めな木刀の手入れをしている彼は楽しそうにみえる。
私の身を護るための術を手に入れる計画は妙な具合になってガイにルウが剣術を習うという形に落ち着いてしまった。
ガイが手入れをしている木刀――木刀も手入れが必要だと彼に教わってはじめて知ったことだが――はルウのために準備されたものだ。
「どんな風に教えようかと考えてな。俺はランバルディア流とは違うから基本しか教えられないし」
「きほんって?」
一度も武術関連のことには触れていないルウは流派の違いを理解していない。
そのためにガイの言葉が理解できず質問をした。ガイに教わるのはルウなので私としてはルウが話したいのなら黙るだけだ。
「剣の持ち方、構え方だな。白光騎士団の訓練に混ざらせてもらう時があるからランバルディア流の基本は俺でも教えてやれるから……本格的なのは正式な先生を探さないとな」
ランバルディア流を覚えるように言うガイにやはりヴァンを剣の師とするのには賛成していなさそうな雰囲気を感じる。
一体全体、彼に何があったのかと問い詰めたいが彼の事情を私が知っているとは言えないので下手に探れない。何が彼をここまで変えた?
「ガイはらいばなんとかりゅーじゃないの?」
「俺の流派はちょっと特殊だからな」
ホド独自の流派とかだったかな。キャラの技とか覚えてないからよくわからない。
ナタリアがランバルディア流弓術の免許皆伝するとかは覚えてるけど。
「えー!ぼく、ガイといっしょがいい」
「……ルウ、ランバルディア流剣術は公爵様とおなじだぞ」
たしかにキムラスカの公爵なのだからそうだろうと思う。
そもそもルークはどうしてアルバート流を習うようになったのだろうか?
「ちちうえと?なら、いいかなぁー」
ルウの中ではガイと公爵であればガイのほうが上のようだ。渋々といった風情で頷いている。
「そうだ。ガイ、白光騎士団の人の中に体術が得意な人はいる?」
話が落ち着いたところでガイに頼みたいことに関係することをきく。
「いるはずだけど?」
「ルウが剣術なら私は体術を習おうかと思って」
理由を知ろうとする視線に答えたがガイが表情を変えて手を止めた。
、いきなり詰め込みすぎるのはよくないだろ」
「……」
「最低3ヶ月はダメだ。2人の身体は一つしかないんだから俺との鍛錬に身体が馴れないと」
ガイの譲歩の言葉に確かにと納得して頷く、私とルウは同じ身体だ酷使しすぎたらルウに迷惑をかけてしまう。
彼の意見に頷いたというのにガイの表情が変わらないので見つめ返せばため息をつかれた。
「はぁ……騎士団の方にはそれとなく話を通しておくよ」
「公爵にはラムダスから伝えてもらっているから返事待ちだけどね」
まずは許可がなければ彼らも公爵の息子に教えるのは大変だろうと許可は求めている。
多少の怪我をするのは仕方がないことだし、それすらも責任問題にされたら彼らが可哀想だ。
「ラムダスからしか伝えられないのか?」
「会話はないね。話しかけられなければ口を開こうとしないし……」
ルウは公爵と話したいみたいだがあの男は笑顔一つ見せないので怯えて口をきかない。私としてはそれは歓迎すべきことだ。
病弱な妻、軟禁状態の息子は逃げられはしないというのに父親であるあの男が逃げ道を持っていることに苛立ちよりも深い感情、憎しみを感じるからだ。
どのような理由があっても妻を裏切り、死に逝く宿命を背負わされた息子から目を逸らす男を許せるものか。
ああ、ゲームをしていた頃の私を殴りたい。息子がそんな運命を背負わされたらどう話していいかわかんないよっとか訳知り顔でいた自分。
「公爵閣下はお忙しいのだろうね」

己の中のドロドロとした感情は嫌いだ。ルウには綺麗なものだけ感じてほしいから……
(ルウ、ガイに木刀の手入れの仕方を教えてもらったらどう?次からルウが使うものでしょう?)
(うん)
しばらく何も考えたくなくてルウへとそう声をかけて奥へと引っ込む。ガイがしていることにルウは興味を持つことが多いので喜んでいるようだ。
「ガイ、ぼくもていれする」
座っていた椅子から立ち上がるとガイに近づいていく。ガイは私が引っ込んだことに気付いたようだが私を呼び戻そうとはしなかった。
「ルウ、それじゃあやり方を教えるぞ」
大した説明はないが一つ一つの作業を丁寧にガイは教える。そういえばこの作業を私達の部屋でする必要はないのだからやり方を元から教えるつもりだったのかもしれない。
彼から言わなかったのは大抵はルウがガイがやっていることの真似をしたがるので自然に覚えさせるにはよい方法だ。私から勧めてしまったけどルウが嫌がってはいないからいいよね。
ルウとガイの仲が良い兄弟のような触れ合いに心が温かくなるとドロドロとした感情がほんの少しだけ消えたような気がして楽になった。
ほんの少し前までガイがルウと一緒に居ることが気に入らない気がしたけど近頃は微笑ましく思えるようになったのはガイの変化のせいかな。
このままこうして2人が仲良くできる世界が続けばきっとルウは幸せになれる。ルウが幸せなら私も幸せ…――




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