君護り

まさかもしかしてそんなはずは


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私とルウの中にナタリアの求める記憶はなく。
思い出してと願い続ける彼女に応えることなど出来ず、
わからないと言い続ける私のことを彼女は受け入れない。
それが私を否定していることに彼女は気づきもしないのだ。
「ルーク、花の冠が出来ましたわ」
庭に咲く花を彼女は冠にと仕立てあげた。
美しく咲いていた花は少し歪ながらも可愛い冠、作り方を教えたら彼女は嬉々として作り始めた。
もちろんペールにはどの花を摘んでも良いのかは聞きはしたのでそう迷惑ではないはずだ。
「ルークに差し上げますわ」
「ありがとう。ナタリア」
ちゃんと作れたことが彼女は嬉しいのだろう。
楽しそうなその声に私も笑顔で答える。
「私がかぶせてあげますわ」
その言葉に私は編んでいた花の首飾りを崩れないようにテーブルの上に置く。
背はそれほど変わらないし相手が王女様ということも考えて
私は彼女の前に片膝をついて恭しく彼女が掲げる花の冠をかぶせてもらう。
「ふふ、いつか本物をルークはかぶりますのね」
彼女の嬉しそうな声は変わらないのに息が詰まった。
そんなことは起きないと私は知っている。だって、彼女のルークは別にいる。
「ナタリ……」
彼女の名を呼ぼうとして視線を上げた時に見えたのは小さな人影。
薄汚れた布が視界の隅を消えていったことに気付いて私は立ち上がる。
「どうしましたの?」
まさかと思った。それでも確かめなければならない。
「待って!」
もう見えなくなった人影を追って私は駆け出した。
「ルークっ!お待ちになって」
ナタリアが呼ぶ声が聞こえたが無視をする。
答えている間に逃げられてしまうかもしれないと思えば答える時間も惜しかった。
確信しているわけではないけれどもしかして人影は彼かもしれないのだ。
彼が帰ってきたというのなら私は彼にこの場所を返さなけば!
ルウが泣くことになったとしても家に帰ってきた子どもを放り捨てることなど出来るわけがない。
木々の間を抜けて人影を探すも見当たらず立ち止まる。
「ルーク!どこですのっ!」
ナタリアの声が聞こえた。
ルークを探す声、ああこの声は私を探しているのに私を探していないのだ。
「ここです。ナタリア」
探すことを諦めて私はナタリアのほうへと歩き出す。
一度だけ足を止めると振り返って見えないはずの紅を探した。
「ああ……ごめんなさい」
君を見かけた瞬間に『ルーク』と叫んだら君は止まったのかな。
それともあの人影は見間違いで君はここにいなかったの?
そのほうがいいもしも彼がいたというのならひどい光景だっただろう。
彼の大切なナタリアから冠を授かる自分のレプリカ。
そのあまりにもひどい想像に胸が苦しくて痛い。
(ねー?)
その痛みに胸を押さえる。
(ルウ、私は強くなるよ。君を彼を『ルーク』を守れるように)
この胸の痛みが誓いの証。
ルウだけが大切だった私がもう一つ見つけた誓い。
私は『ルーク』を守る存在になる。それが私がここに居る理由。
だって、そうでなければどうして私がここに居るの。
あぁ、そんな大義名分がなければ私は何も出来ない…――

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