君護り

なんとなく、えんご。


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優雅なティータイムの時間。
テーブルの上には美味しそうなお菓子に紅茶。
そしてそれを入れたのは世話役の少年。
目の前の席に座るのは可愛らしい金の髪をしたお姫様。
彼女は期待に満ちた瞳で私を見つめていた。
「ルーク、思い出してくれました?」
目の前あるその瞳から逸らすことなく私は答える。
「申し訳ありませんが以前と変わらずの答えです。
 私は貴女と交わした約束を覚えていません」
ナタリアにそう答えることには罪悪感は起きない。
だって彼女はルウに怯えられている。
ルークを求める筆頭だものそれは当然か。
「早く思い出して下さい。ルーク」
そういう貴女は目の前の私達を見ない。
それを寂しいと悲しいと感じるルウを撫でる。
彼女は心配したといった口で、早く思い出せと言う。
それこそが本来のルークにどれだけ負担をかけたのか理解をしていない。
仕方がないことなのだとは思う。彼女もまた子どもだ。
「貴女は今の私が嫌いですか?」
「そんなことはありませんわっ!ただあの約束を思い出してほしいのです」
必死のその声には何処か縋るような響きがあった。
いつも明るいその声にある寂しさに……
「なたりあ、だいじょーぶ?」
ルウが彼女の頬にそっと手を伸ばす。
「えっ?」
元気がないことを心配しての行動だろうが、それによってナタリアは驚き瞬きをした。
その表情は可愛らしい気がすると見ていると彼女の頬は赤く染まった。
この様子だと先程のルウの発言はあまり覚えていないかもしれないっと勝手な期待をしておく。
「いつも元気な貴女が落ち込んでいると心が痛みます」
ルウがね。
「ありがとうございます。ルーク、やはり貴方は優しい」
嬉しそうに笑うナタリアは恋に恋する乙女だった。
ナタリアのことは苦手だが嫌いではないルウは
彼女が自分達のことをもっと見てくれたら嬉しいと思っている。
だから彼女が元気がなさそうなのを心配して出てきたらしい。
……ルウの世界は私だけだったのに今はたくさんの人が彼の心に居る。
感じる胸の痛みは気のせいだ。だって、ルウの周りに人が居ることは良いことだ。
「ルーク様、ナタリア様。紅茶のおかわりは如何ですか?」
この雰囲気は居辛いのだろうガイがお茶のおかわりということでここから離れようとしている。
二人きりではなかったことを思い出したナタリアの頬が赤い。
まぁ、何だか良い雰囲気な感じになっていたのでそれを打ち壊してもらって私としては万々歳だ。
「ガイっ!私達は幼馴染なのですわよ。私のことはナタリアとお呼びなさい」
その頬の赤さを誤魔化す為か立ち上がるとガイへと詰め寄っている。
「えっ!いや、その私は使用人ですし」
女性が苦手な彼としてはナタリアに近づいて欲しくはないので後ずさりながら答えている。
その顔色は面白いほどに青ざめておりその憐れさがおかしい。
これで女は嫌いじゃないどころか好きなのが笑える原因だ。
女恐怖症というトラウマがなければナンパな男に育ったことだろう。
世の中の為にもそのトラウマはそのままにしといたほうがいい。
勝手にそう結論付けているとは知らずにガイが私のほうを見ている。
助けてほしそうに3Gが見つめているっとでもメッセージが表示されてそうだ。
「ガイ、ナタリアと私しかいない時なら良いでしょう?」
「ルーク様?」
彼に一度もそんなことは言ったことはなかった。
私以外に人目がある時に少しでもミスをすれば私は彼を見た。
それを知っている彼が意外だとでもいうように私を見る。
王女の言葉を公爵の息子が否定できないだけなのだけれど。
それをどう思われようと私は気にしないので笑ってみせる。
「ルークっ!私はいつでもガイの幼馴染で」
彼女としては友情を隠すというところが気に入らないのだろう。
「ナタリア、人目がある時はガイに何か咎めがあるかもしれません。
 それは彼のためにはならないでしょう?」
「そう……ですわね」
私の言葉に落ち込んだ彼女にルウが反応する前にガイへ言う。
「お茶のおかわりを。それともう一つカップを追加して下さい」
「あっ、はい」
慌てて頷いて紅茶のおかわりのために去るその背を見送る。
ナタリアがそんな私に不思議そうに見つめてくるので。
「友人なら3人でお茶会でしょう?」
彼女が疑問に思っているだろう言葉に答えを出した。
「ええっ!」
まさに華のように彼女は笑って頷く。
お茶会を3人で、彼女以外にとっては4人で再開することを楽しみにしていた。
けれど私はナタリアにトラウマを突かれた彼がどれだけ早く戻れるかと計算する。
遅すぎるときっと彼女が詰め寄るぐらいには遅いだろう。
でも、一度助けたのだから次は見捨てるつもりだ。
いつでも助けてもらえると思ったらガイは成長しないだろうからという親切心だ。たぶん。

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