君護り
さしづめ、うそつき
公爵である父に執事ラムダスを通してガイを世話役にするように頼んだ。
戻ってきて変わってしまった息子を見ることのない彼はその願いを受け入れた。
その為、ガイは今までとは違って屋敷の中に居ることが多くなった。
今までは下働きの仕事が基本で合い間に剣の修行をしていたらしいが、
近頃はまとまった修行が出来るようになったと言っていた。
その修行の成果がその視線かと思うとため息がつきたい。
「ガイ、お茶を頼めますか?」
勉学の為に読んでいた本にしおりを挟んで閉じる。
一呼吸置いてから振り返って部屋で立っているガイとへ声をかける。
「はい、ルーク様」
彼は私には使用人としての態度を崩さない。私自身が崩させない。
これで彼が私を、ルウを仇と思ったままだとしても
ルウを彼の態度で周りに舐めさせるわけにはいかないからだ。
しばらくして運ばれてきた紅茶の香りを私は楽しむ。
「ありがとう。ガイ」
「いえ」
ここに毒が入っていれば私は死ぬのだろう。でも、飲まないという選択肢はない。
彼を世話役にすると決めた時にリスクを負うと決めたのだ。
ガイ、君は知らない。私が君の正体を知っていることに。
「ルウのこともありがとう。あの子は君のことが好きなんだ」
そして私はルウをガイの前に出している。
絆されたガイを知っているという頼りにもならない情報の為に。
「えっ、あっ……そのルウ様は?」
彼は戸惑いの声をあげた。
「眠ってます。難しい内容の本を読んだりするとルウは眠くなるみたいで」
ルウの気持ちを言えば絆される可能性が上がるかという考えなので
それ以上何か言うこともなくルウが眠っていると答えれば
ガイは驚いたようにこちらを見ているのが目に映る。
「……」
「どうかしました?」
ルウのことを考えて自然に笑っていたが驚かれるような顔だろうか。
「いえ、ルーク様はルウ様が大切なんですね」
「大切です。ルウが居なければ私は生きていませんし」
「どういう意味ですか?」
正直なところを言えばガイが聞いてきた。
当初の頃を思えば私に対しても気安くなった気がしますが、
誰も居ないところなのでこれぐらいは許しておきましょう。
「ルウは母上が大好きです。ガイが大好きです。その気持ちが私に伝わります。
それでやっと私はこの世界が好きになれるんです」
「ルーク様?」
戸惑いというよりもこれは恐怖だろうか。
理解できないものに対する恐怖感を彼は感じているのかもしれない。
「私にとってはルウが物差しです。ルウが好きな人なら好き、ルウが嫌う人なら嫌いです」
笑う笑う。私は笑う。これは嘘だでも本当でもある。
これを彼はヴァンに教えるだろうか?
ルウのことを教えるなら、教えたのなら教えるだろう。
「だから、ガイを私も好きですよ」
「あっ、ありがとうございます?」
本当に礼を言っているのかどうかは知らない。
仇の息子に好きだと言われて苛立っているのではないだろうか。
そんなことは色々と想像できるけれど私はそんな思考を放棄する。
「ガイの淹れてくれる紅茶も好きです」
「……淹れてきます」
私の催促に素直に動く彼に私は笑顔を向ける。
にこにこ、にっこり。
負の感情ではなく正の感情を向けられて彼はどう思うか。
それもまた私が知ることが出来ないものの一つだ。