君護り
なだらかなるもの
珍しく体調の良い『母』がルークを茶会に招いてくれた。
秋とはいえ肌寒いから部屋の中だけれどそれでも『母』が好きなルウは大喜びだ。
「ルークはどのお菓子を食べたいかしら?」
『母』が自らお茶を入れてくれてお菓子まで取り皿に取り分けてくれるらしい。
何が良いかとルウに尋ねようとした私の口が開いた。
「るう、ははうえとおなじあかいのがいい」
舌足らずの可愛らしい口調だ。それが幼児であれば。
ルウが言っているのはイチゴタルト、イチゴの色が母上の髪と一緒と言いたいのだろう。
「……ルーク?」
呆然と『母』がこちらを見ている。
部屋の中に居るメイドもこちらを見ている。
その雰囲気に何を感じたのかルウが縮こまった。
ずっと私が表に出ていたのでルウが表に出ることを考えていなかった。
これは私の失態だ。
「彼はルウです。もう一人の私です母上」
だから私は笑顔で『母』に言う。
「もう一人の貴方?」
何を言われたのか理解できないというように尋ねる彼女に頷く。
「はい、弟みたいな存在です」
ルウを隠すことも考えた。でも、私にとってルウは恥ではない。
決して隠すような存在ではないから私は『母』に。
「ルウは母上が大好きだから母上とお話したかったのだと思います」
「……そう、そうルウは私が大好きなのね」
『母』が何を思ったのかはわからない。
泣きそうに顔を歪めながらもすぐに優しい微笑みで覆ってしまった。
また傷つけたのかもしれない。いや、きっと傷つけた。
「ルウはイチゴのタルトが食べたいのね。では、ルークは何が食べたいの?」
「イチゴのタルトだけで……」
「それはルウが食べたいものでしょう?二つも食べられないのなら私と半分こしましょう」
「はんぶんこ?」
貴族らしい言葉遣いがわからない私は敬語を喋るようにしているのと
ルークではないことで変に見てくる使用人には力を入れてしまうところがあるので
良くも悪くも以前のルークと変わらないように見られているところがある。
「ええ、そうよルウ。母上と仲良く半分こしましょう。
もう一人の貴方も好きなものを食べられるように」
「うん、るう。ははうえとなかよし、はんぶんこする」
自分に優しく微笑んでくれる『母』にルウが頷く。
その返答を聞いた母が嬉しそうに笑うから……これは言わないとダメだろう。
「ガトーショコラでお願いします」
「ええ」
(はんぶんこ、はんぶんこ)
明るいルウの声が聞こえる。
ああ、嬉しそうだ。その楽しげな声に私は笑う。
「半分こですね」
『母』と私とルウで半分こ。
イチゴタルトとガトーショコラを仲良く食べる。
その穏やかな空気が愛しかった。
「がい!」
「うわっ!」
どーんっ!と勢い良くぶつかった塊の所為で廊下でシーツを運んでいたガイは吹っ飛んだ。
かなりの勢いで吹っ飛んだ彼だが受身をとってそれほど被害がないようにしていた。
「なっ!ル、ルーク様っ!」
自分を突き飛ばした犯人が仇の息子であり、今は主人と仰がねばならない存在だと知って驚きの声をあげている。
驚きだろう以前のルークでは考えられないし、戻ってきたルークとてこんな行動はとらない。
ただルウが遊びたいというので歳の近いガイをいじ……いや、遊び相手に推薦したのだ。
ルウの精神は幼くその遊び方も身体を使ったものなので『母』だと大変だし、
他の人間はルークのこの姿にどのようなことを言い出すかわかったものではなかった。
その点でガイは良い。何を言われても結局は仇と狙っている人間なのだ。
下手なことを言って心証を悪くして辞めさせられたくないだろう。
ラスボスの髭にはバレルかもしれないが逃げるのでどうでもいい。
「がい、あそぼっ!」
「えっ、あのルーク様?」
可愛らしく頼むルウのお願いをガイは理解できなかったらしい。
「私の半身のルウです。話相手には私はなれるけれど遊び相手にはなってあげられない。
だからガイがルウの遊び相手になってくれませんか?」
このような物言いは貴族らしくないとラムダスに叱られるが
今は執事である彼がいない時を見計らって頼んでいる。
「ルウ?遊び相手ってお……私は使用人で」
一人称で素が出そうになったが慌てて直している。
あー、なるほどゲームでの彼の性格は赤ん坊同然だったルークに対する気安さか。
あれでよく仇と狙う人間の屋敷に仕えられたものだと思ったが及第点はやれるのか。
「世話役になってくれるように頼むつもりだから断らないでほしい。
私は無理を言うつもりはないし、きっと自由な時間が増えると思う」
他人に触れる生活に馴れていなかったのだ。メイドに着替えさせられるのとか今もかなり抵抗がある。
ガイを気に入ったからと彼に世話役をしてもらって、最初から着替えとかノータッチにさせればいい。
ベットメイキングも微妙な気持ちだけどホテルだと思えばいいし、
紅茶とか運んでもらって体力作りとしてルウと遊んでもらえるのは大きい。
まだ身体が完全に出来ていないガイでは手加減を知らないルウの相手はかなり辛いだろうけどね。
……同じ年頃と言うことでルウに興味を持ったれたガイに嫉妬なんかしてない。していないったらしてない。