君護り
あきごえひっそり
ファブレ邸の庭は秋だというのに見事なものだった。
秋に咲く花が綺麗に咲いていて風に揺れている。それでも彼は泣き止まない。
(るう、るーくじゃない)
めそり、めそり。
泣いているのがよくわかる私は困ってしまう。
彼に泣かれると私もとても悲しくなるのだ。
(そうだね。ルウ)
元のルークは別に居るので私は安直ではあるがルークをルウと呼んでいる。
(ねーもるーくじゃない)
(うん)
そしてルークは私を『ねー』と呼ぶ。
私は今は肉体は違えど精神は女なのでお姉ちゃんと呼んでもらおうと思ったが
まだ小さなルークにはお姉ちゃんと言えなかったのでねーで妥協した。
妥協したが今ではかなり可愛い呼び方ではないかとかなり気に入っている。
(どーして、ねーとるうがやなの?)
発見されて半年でこれだけ喋れるようになったルーク。
私だけが彼と話すこの環境での成果と考えれば素晴らしいものがある。
そう考える私は親馬鹿だがそれを誰も知らないのだから問題ない。
(私達個人が嫌だというわけではないよ。ただ元のルークに戻ってほしいだけ)
彼らは個人的に嫌っているわけではない。
ただ私達を元から見ていないという最も性質が悪い人間達だが。
(でも、るーくない)
(そうだね)
まだルウは他の人には精神が二つ存在しないとは気付いていない。
心の中で対話が出来る誰かがいるのはおかしなことだとは知らない。
純粋にただ純粋に彼は私を慕いそして優しい『母』を彼は慕っている。
だからこそ私は『母』を愛せているのだと言っても過言ではない。
(ねー、るーくどこ?)
(今は遠いところにいて帰れないの)
嘘だ。彼は私達が居るから帰れないと誤解している。
ルウにこの感情が伝わらないように蓋をする。
純粋に思いを伝えてくれるルウは私が隠し事をしているとは思っていない。
(るーく、かえれないの?)
(いつか……いつか迎えに行ってあげよう)
自分は灰だと言い、過去を捨てたと泣く子ども。
成長を止めてしまうもう一人の聖なる焔の光。
今も10の子どもが怯え嘆いている。
そして、それを私は知りながらも受け入れている。
(むかえ?)
(そう母上がお喜びになる)
(ははうえがうれしい?ねー、すぐにむかえいこ)
醜い私を知らないルウ。私の言葉を素直に聞いてくれるルウ。
(駄目、今は外には出られないって母上に言われているでしょう?)
(うー、わかった)
こんな私に気付かないで。小さなルウ。
私より無力で守ってあげなければならない運命の子。
だから私は生きていられる。
貴方を守るという免罪符をかざして生きているの。
(ねーはルウが大好きよ)
(ルウもねーだいすきっ!)
優しい風が花を揺らす。ゆらりゆらりと揺れている。
その花が歪み、地面が少し濡れた。