鬼は鬼でも……


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心機一転、頑張ろうと考えていたのに早々に神様失格となったのではないかと悩んではみたものの幸せそうに私の頭を撫でる妖怪の姿に馬鹿らしくなったので落ち込むのをやめることにした。
しかし、大神や大神伝をプレイした時に出てきた天邪鬼達は個性があったので彼らの個性はおかしなことではないが、大神の世界とは違う世界へときたはずなのに彼らという存在があることが不思議だ。
今のところは私に危害を加える様子もないし、それどころか持っていなかった武器すら貰ってしまったのだから恩人ではなく恩妖怪なので敵対するかもしれないとは考えないでおこう。妖怪に対して甘いかもしれないけど常に気を張っていることなど私には無理だ。
「うぉん!」(外に行くよ)
目的だろう武器はゲットしたので元来た道を戻ることにした。黒天邪鬼はどうするのかと思い振り返れば彼もまた私の後に続いて歩き出したので外へと行くのだろう。
戸惑いながらついて行った時よりも足取り軽く進み洞窟を出ると思ったよりも時間を過ごしていたらしく太陽がだいぶ動いていた。
太陽の動きなど人であった頃は気にしたことなどあまりなかったが、松寿丸君達との暮らしでは時計がなく陽の動きで予定をたてていたので何となく大体の時間を把握できる。
日が落ちるまでは4時間弱といったところだろうと予測をたて、今日のところは鏡があったこの洞窟を寝床にすることにしてお腹を満たすために食べられるものを探す。
山の中ということもあり簡単にキノコを見つけることが出来たので前足で掘ろうとしたところで黒天邪鬼が取ってくれた。ありがとうと一声鳴いたが、山菜やら食べられるものを見つけるたびに彼が取ってくれるどころか手に持ってすらくれている。
何故、彼がいつまでも私に着いてきているのかはわからないけど親切な行為に感謝というか、このまま調理までお願いしたい。川へと向かえば黒以外の天邪鬼の姿があり、彼らが焚き火をしているのは好都合だとそちらへと近づいていく。
「黒、戻ッタカ」
一番に気づいたのは青天邪鬼でこちらへと視線を向けたが、声をかけてくれたのは黄天邪鬼だった。
「何ヲ持ッテイル?」
赤と緑の天邪鬼は焚き火の周りで踊っていたが黒天邪鬼が持っているものが気になったのかこちらへと近づいてくる。
「山菜ダベ」
「犬ガ見ツケタ」
「焼クカ?」
「わんっ!うぅーわぁん」(待て!私のご飯を奪うつもりですか?)
わけてあげることは拒否しないが全部は無理だと抗議の声をあげると黒が私の頭を撫でる。
私は普通の犬ではないからいいけど、吠える犬に無造作にて手を伸ばすのは危険なので止めたほうがいいのにと考えていると。
「生ハ食エナイ。少シ待ツ」
黒の様子からして採った山菜やキノコを何とかしてくれるようだ。
ゲームでも料理を作る天邪鬼はいたのだし、生でかじるよりはマシだろうし量が減るのは我慢だ。
「出来ルマデ、遊ブベ」
「棒切レ、投ゲルカ」
緑と赤の天邪鬼が食べ物から気をそらすためにか私に棒切れを追いかけさせるつもりのようだ。私としてはお腹がよけいに空きそうなことはしたくはないが、今日のところはお世話になるのだからと彼らに付き合うことにする。
彼らが投げて、私が取ってくるの繰り返しだが木々の間に落ちて落下地点がわからなかったり、川の中に落ちて流れていったのを追ったりとかなり身体を動かすことになった。
これがまた意外と楽しかった。見つけて持っていけば喜ぶ二人の天邪鬼、二刀流とか叫んで二本の棒切れを持ってこさせようとしたりとかなりフリーダムだし、血の匂いに気になってそちらへ視線を向けたところ黒天邪鬼だけでなく青天邪鬼も調理に加わって、魚をさばいていた。
調理した魚を分けてくれると嬉しいと期待して見ていたら赤天邪鬼に頭を叩かれたのは理不尽だと思う。棒切れを見ていなかった私に腹を立てたらしいけどさ。
焚き火を囲んで味付けらしい味付けなく焼いただけではあるけれど、魚やキノコを食べて天邪鬼達が浮かれ騒いで夜が更けて、朝日が昇る頃に彼らの宴が終わる。
「寝ルベ」
「ソウダナ、ジャアナ。犬」
私の頭を軽く叩いた赤天邪鬼が緑天邪鬼と連れ立って去っていき、青、黄と続いて背を向けて離れていく様を眺めていると黒天邪鬼だけがその場に残っている。
「白」
「くぅん?」(何?)
「……我等ハ闇ニ潜ム者……ケレド……光ガナケレバ……闇モマタナイ」
抑揚のない黒天邪鬼の声に視線を顔らしきところへと向けた。
「……白、コノ世ヲ……照ラセ……」
黒天邪鬼の手が私の頭を優しく一度だけ撫でて彼もまた背を向けて、朝日が昇る前の山の木々達が作り出す闇の中へと消えていくその彼に私は声を張り上げる。
「照らすよっ!生まれたてでちっぽけな弱い神様だけど私は陽の神だからっ!」
振り返らないままに去ってしまったもう見えない黒天邪鬼に声をかけたが彼は私の言葉を白の物と理解できただろうか。
この言葉を言うだけで人から山犬の姿へと戻ってしまうような弱い力しか持っていないけど。こんな陽の神でもこの世界は必要としているのは確かだ。
「わおぉぉぅぅ!」(ありがとう!)
天邪鬼達に感謝の気持ちで吠えて私もすっかりと火が消えてしまった焚き火跡へと背を向けて駆け出す。
ちょっとばかりおかしな彼等に会いたくなったらまたここに来ればいい。今は陽の神として信仰を頑張って集めないとね!



去り行く小さな白い山犬を見つめていたのは去ったはずの天邪鬼達。
「オヤ、本当ニ神ダッタンダ」
「……少シ、驚イタ……」
黄の鬼がどこか楽しげに呟けば黒い鬼はもうとっくに消えてしまった山犬が去ってしまった方向を見つめながら抑揚無く言った。
「神器ヲ与ウタノハ黒ダロウ」
感情の色を表していない黒い鬼に呆れたのは青い鬼。
「ソレモ仕方ナイ神ニシテハ脆弱ダ」
赤い鬼が黒い鬼を庇うためというよりも青い鬼の言葉を否定するために言えば、それを受けて青い鬼は赤い鬼を睨みつける。
「ダガ、アノ神ノオカゲデ俺達ニ形ガアル」
緑の鬼が明るく言葉を発す。彼らは天邪鬼ではなく闇の中に潜む異形だ。
本来は人の恐れといった心が生み出し、形を作るはずが人々から神への信仰が薄れこの世から神が去ったことで神秘は薄れてしまった。
それは、神が居なくなったことで一時、力を強めた闇に生きる者達であったが最終的には存在する力を失っていっている。
人の心に目に見えぬものを恐れたり、敬うようなことはなくなり神も妖怪も力を減じてしまった。
「神ノ使イデハナク、神ダッタノハ幸運ダッタノダロウネ」
アマテラスの力を得たがゆえに形なき異形に天邪鬼という形を見たてた。
それは神としての眼が闇の中に潜む異形を見つけ、その意識が妖怪であればそうであるだろうという形を作り出させたのだ。
「シカシ、コノ姿ハマヌケダロウ」
青い鬼が己の姿へと視線を彷徨わせる。
「イヤイヤ、青。オ前ニ相応シイゾ」
「フンッ、俺ヨリモマヌケナ姿ヲシタ奴モ居ルコトダシナ」
「マァ、鬼ト言エバ鬼ダベ」
赤と青の言い合いに緑の鬼が取り成すように言いはしたが当人とてその姿は面白くないのだろう。
彼らは鬼だ。元は神として崇められたものもいる正真正銘の鬼。それがどこか間抜けな印象がある大神の天邪鬼との姿となったことは嬉しいことではない。
「……面白イト思ウガ?」
「黒ラシイ物言イダ」
視線を山犬が向かった方から戻した黒い鬼に楽しげに黄の鬼が笑う。
信仰が神の力を高めるのであれば荒ぶる神でもある鬼は人の恐れの心が力を高める。それゆえに鬼や妖怪の中には神無き世界でも一部は本来の姿を保っていたものも存在した。
疫病の鬼などはその典型であるだろう。変り種は人の世にある闇に中に紛れて生きているアヤカシ。そのアヤカシはその身を人に化けて生きている。
そんな生き方などする気はないとただ闇の中に居た彼ら達は、この世の神の力が薄れると同じく消え行く存在であったのだ。
「今度、会ッタラ名前ヲ聞コウカ」
今はまだ何者も知ることのない陽の神の名。喋れるとは思っていなかったので聞いていなかったのだ。
「モシカシタラ噂デ流レテクルカモシレナイベ」
「ドウダロウナ」
赤い鬼が名前を聞こうと言えば、緑の鬼が噂という形で知るかもしれないといい。
青い鬼はそれが期待できないとでもいうように肩を竦めたが、そんな彼もまた小さき神に期待しているのだ。それはその場に居る鬼達の共通の思いでもあった。





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