王様稼業っていくら? 答え、プライスレス。
景麒という麒麟は私から言わせると馬鹿だった。六太の字を貰ったほうがいいんじゃないかと思うぐらいに。
まっ、そのお陰で目の前に居るのが慈悲の生き物だと納得もしたわけですけれどね。
元々の性質を教育によって変化させたわけでもないようで彼の真面目さと馬鹿正直すぎる行動は前からのようだ。
「へぇ、王気を前々から感じてたんだ」
「はい。ですが、女仙達が待つように言っておりましたので」
待っていたらしい。それも疑問に思わずに長年待ち続けて女仙達が寿命のことで慌てだして王気を感じないのかと景麒に問うたところでやっと自分で動き出したのだ。
もうそこまで待っていたのならば命尽きるまで待ってればよかったのに、寿命は聞いてる話だとあと5年程度と予測できた。もう今更ではあるけどさ。
規則だからと唯々諾々と従っていたらしいこれは良くも悪くも私の知る原作の景麒よりも悪い。少なくとも原作では陽子を頑張って迎えに行くだけの行動力があったわけだし。
「ずっとお山に居れば良かったのに」
そうしたら私は今も素敵に実体はニートな本読んだり、刺繍したりとかお嬢様生活を満喫してたんだよ。
「お怒りなのですか」
吐き捨てるように言った私の言葉に景麒が一見無表情な不安そうな表情でこちらを見ている。
表情筋が死滅しているんじゃないかと思うほどにこの男は表情が変わらないのだが声は変化するのでそこで理解できるようになってきた。
無表情なクールな子って女の子だから萌えると思うんですよね。男とか残念すぎ。でも、私は女だから女の子でも萌えないけどね。
「当然だと思うけれど?寿命が尽きるかもしれないから来たわけでしょう?もう色々と萎える」
素を見せることにした私は遠慮を取っ払った対応をする。ただ暴言は流石にやり過ぎだと思うのでそこのところは抑える。
彼もまたこの世界の枠組みであり犠牲者でもある。とか、考えてないと手とか足とか出しそうになるんだよ。私ってこんなに暴力的な人間だったのかと自分自身にショックを受けるよ。
「もっ、申し訳ありません」
「何が?」
謝ってきた相手に視線を向ければこちらへと頭を下げている景麒の姿。
それを同情もしないで目を細めて見ている私はどれだけ悪役な顔をしているのだろうか。
「王気を感じてすぐに馳せ参じず……」
「はい、アウト」
私は身を乗り出すと景麒の頭に手刀を繰り出せば、驚いたように顔を上げた彼に私は笑顔で。
「私は王様になりたくなかったの。理解しなさいね?」
「……はい」
私の心情を理解したようでいて理解できていなかったらしい景麒。彼としては国に必要な存在と教えられた王を拒絶されるなど考えたこともないのだろう。
そう考えると昇山とはよいシステムだ。王となりたいと考える人間ばかりが集まり、王と選ばれれば断わることなど考えることなど思いつきもしない。けど同時にそれは諸刃の剣でもあるのではなかろうか。
自分自身が王に成れると信じて昇山し、夢破れればその人間は自分の価値というものを見失うこともあるだろう。もしくは選ばれれば自重することを忘れてしまうこともありそうだ。
泰王に選ばれるだろう男もそういった様子だったような気がする。子どもだから泰麒は彼に必要以上に怯えたのもあるだろうけど、麒麟は民の意思を示すというのならば彼という存在は戴にとっては怯えの対象であったのだ。
「そうだ。私の王気ってどう感じるの?」
「王気?」
いきなりの話題転換についていけないのか戸惑った様子に景麒に頷き。
「麒麟は民意を示すと言うでしょう? 苛烈な王であれば麒麟は怯え、優柔不断な王であれば麒麟は不安を感じそうだと思って」
「……だから、私が貴方に感じている王気はどのようなものかを聞きたいと」
「第一印象がいいと思うんだけど……」
私の説明に納得したらしい景麒に条件を付け加えれば相手が視線を彷徨わせた。
「王気の第一印象というものはわかりません」
「はぁ?」
「貴方が、私の主が居るという漠然としたものは感じてはいましたが怖いとも不安だとも思いはしませんでした」
「何も感じなかったの?」
妙な波動みたいなものを感じたら何かありそうだと思うんだけど。
「正確にはいつの間にか王気を感じていたので、王気だと認識した時にはもう当たり前だったような」
「鈍っ!」
これが慶の民の気質でないことを願う。行動遅くて誰かに言われないとせず、本質を見極めるのも遅いとか最悪じゃないか!
私に鈍いと言われて密やかにショックを受けている景麒を放置。景麒の性格がすべてだとは思わないけど麒麟は国の民に似るらしいからねぇ。期待できない将来がもっと期待できないことを知って鬱になりそうだ。
いっそうのこと鬱になったほうが楽かもしれないところが嫌だ。王様稼業、マジで誰か変わってくれないかな。人間に戻りたいよ。