夢の歯車
〜20〜
前例がなく、類似する事例もない。その場合に判断を下すのは当事者達、それにより前例が作られる。
今回の当事者とは自身はもちろんだがDr.カシオペアとHFR達だ。
HFR達には彼女についての印象などを話してもらったがクワイエットと何故かクイックまでもが好意的であったし、明らかな悪印象を持っている者がいないという事を確認出来た。
無断で自宅に入られたはずのDrカシオペア自身ですらそうであったのだから、無理からぬことであったのかもしれない。
オラトリオはエモーション以外のメンバーと話しを聞いた時点でをどうするかを一時的な判断を下した。
「――…それでは、彼女については此方でお預かりでよろしいんですかね?」
「ええ、彼女のことは電脳空間をよく知る貴方達に任せた方がいいでしょうから」
Dr.カシオペアはオラトリオの予想通りに反対をせず、言質ではあるがこのことで非公式な今回の事件の一番の当事者である自身が知らぬ間に『電脳空間に初潜入な人間、正体不明のはORACLEお預かり(極秘情報扱い)』と決まった。
ORACLEの情報の一部として扱われるが為に否応なしにオラトリオはORACLEへと彼女を連れて行く予定である。
「では、これで失礼します」
「オラトリオ」
「はい、何しょうか」
予定を実行に移そうとした彼は名前を呼ばれて意識をDr.カシオペアに戻す。
「このようなことになって彼女も不安でしょうから支えてあげて」
「Dr.カシオペア、俺はいつでも女性には優しい男です……それでは」
オラトリオはDr.カシオペアの言葉に僅かながら動揺したことを隠して笑顔で答えて通信を切った。
その僅かな動揺をロボット心理学者であるDr.カシオペアは判っただろうかとオラトリオは考えたが、その考えをすぐに捨てて思ったよりも彼女についての相談が時間が掛かってしまったことに焦りを感じた。
「お嬢さん、怒ってるだろうな」
怒っているを通り越しそうな勢いだったことを知らないオラトリオはまだ悠長に呟く余裕があった。
現時点で話を聞けていないエモーションがと合流し、師匠コードもまたそこにいることを彼は知らないからこその余裕だ。
「オラトリオ、を連れてくるんだろう」
「あぁ、機密情報扱いでな」
オラクルには事後承諾である。ただオラトリオの会話を隣で聞いていた時に反対をしなかったのを考えれば嫌ではないようである。
本来であればORACLE内部には入れたくないが、という存在が世間に知られるほうが面倒になるとオラトリオは判断して『情報』扱いをしているのだがこの相棒はどう考えているのかとオラトリオはオラクルへと視線を向ける。
「棚にしまっておいた方がいいのかい?」
「頼むからしまうなっ!」
彼女をどう扱った方がいいのか考えていたらしいオラクルの言葉にオラトリオは突っ伏しそうになったが、辛うじて持ちこたえると、
特大な棚にお人形よろしく座らされてるを想像してしまったオラトリオは相棒へと大声で怒鳴った。
「機密情報扱いとしてORACLE内部から出ないようにしとくんだよ」
「オラトリオ、それは監禁というんじゃないのかい?」
「仕方がないだろ」
人を棚にしまおうなどと考えている相手からまともなことを逆に言われるとオラトリオとしては胸にくるものがあったのか何故か彼は胸を押さえていた。
オラトリオとしてはその事実を先ほどから考えないようにしていたようで、かなりきたらしい。それでも、彼女を放っておくことは出来ないとオラトリオは思い直して答える。
「あと、一つ気になるのだけれど。ORACLEに留まるように思考を調整されている私はともかくとしてそんなことはされていないだろう彼女にとっては外に出ることの出来ない空間は辛いものじゃないのかい」
「やべぇ」
が、オラクルの言葉に人間の精神状態が電脳世界に慣れているロボットとは違うはずだという可能性を考えていなかったことに気づかされた。
「何が?」
「今まさにORACLE以上に何もない空間に放置中だ」
オラトリオですらORACLEに長時間居た後はそれ以外の場所で過ごしたいと考える。
それは、ORACLE以外の外をしているが為に仕方がないことだと彼は考えていたが守護者である彼がそうであるのだから守護者でもなく電脳世界に慣れていない彼女は何もない空間に一人取り残されて居ることになる。
何か気分がまぎれるような物を用意するかすればよかったと悔やんだが遅い。
「オラトリオ」
オラクルは自分の守護者の失態に思わず、彼の名を呼んで睨みつける。
「わかってる。迎えに行ってくるさ」
流石にこの事は彼としても失態であると考えているようで慌ててを迎えにいく為に空間を飛ぶ。
守護者オラトリオの失態ぶりにオラクルは呆れたものの、一緒に紅茶を飲んだ彼女がしばらくはORACLEで共に過ごすことになったのを一人密やかに喜んだ。