夢の歯車

18


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荒唐無稽。
その一言に尽きるだろう彼女の説明を彼は時折、質問を挟む以外は黙って聞いていた。
馬鹿にしているのかと怒ることもなく、大変だったと信じたふりをすることもなく。
オラトリオはただ説明を聞き、話の繋がりに矛盾がないかを思考し、不明瞭なところを無くす為に確認する。
一つ一つの作業を当たり前のように彼は行いながらも、その説明が科学では証明されないような不確かさであることに苛立ちを感じていた。
彼とて科学によって解明されていない事柄はこの世にどれだけあるかを知ってはいるが、彼自身は人の科学によって生まれた自然界にはない存在だ。
科学で証明されていないからと否定するのは愚か者がすることだが、やはり科学で証明されている事柄の方がオラトリオは納得するのだ。
「なるほど、お嬢さんの言いたいことは理解した」
聞いた説明を彼は頭の中で整理していく。今までの彼女の夢で訪れた場所は彼が把握しているものと一致している。
修理不可能な状態だったクワイエットに対しては彼女は何もしていないが、起動をさせたのは彼女であるとは認めた。
迷子のロボットであるちびと信彦を探したとも言ったし、オラクルと出会った時……それは電脳空間であったはずだと言えばいつもとは少し違う夢のような気もしたとは言っている。
今回のDr.カシオペアの件に関しては自覚がないようだが、起きる前には前兆として姿は消えていき夢の中の人物は触れることは出来ないはずがエモーションは触れることが出来たとらしい。
彼女の説明をすべて本当のことであると仮定し、話を進めていくとするのであれば彼女は今も夢を見ているはずなのだ。
「すごい、理解したの?」
オラトリオの言葉には声を上げた。
「一応な。お嬢さんの戸籍があるか確認しときたいんだけど名前と国籍、住所を頼みますわ」
「国籍は日本、姓がで名前は、住所は……」
聞いたことをオラクルへと送り、戸籍がないかを調べるようにとオラクルへと彼は頼んだ。
その横では彼の行動を見つめていたが口を開き。
「調べられるのなんかは別にいいんだけど、調べてどうするつもりよ」
別にいいといいながら調べられる事に不服そうな表情をする相手にオラトリオは肩を竦め。
「これも俺のお仕事でね。問答無用で排除したりしないだけ紳士的だろ」
プログラムだろうと人間だろうと、ORACLEに許可なく侵入した存在は排除する。それがオラトリオの存在理由であるのだが今回は処分を保留している。
今回のような特殊なケースであるからそうすることにしたオラトリオだが、彼女の説明が本当であって欲しいのかどうかは判断がついていない。
本当であったとしても電脳空間にいる人間など、どうすればいいというのかはマニュアルにないので彼が考えていくしかない。
「どうするつもりなのかは……」
オラトリオへ送られたオラクルからの結果の知らせ。
それを知ったオラトリオは目を瞑り。
「一先ず、もうしばらく此処で大人しくしといて下さいですかね」
「はぁ?」
の呆れ交じりの怒りの声にオラトリオはため息一つ。
「どうすればいいかを検討してくるまで」
「ちょっ、待ってっ!」
彼がこの空間から離脱することを察知したのだろうは彼を捉まえようとするものの、捉まえる前にオラトリオは消える。
あの空間にただ一人残して……女性を拘束して楽しむ趣味など少しもないというのに、こうなったことに対して何を恨めばいいのか彼にはわからない。

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