夢の歯車
〜13〜
私のCGを見せれるお部屋がいいですわ。エモーションと呼ばれる女性のそんな一言で私達は部屋を移した。
移った部屋は居間だろうと思えた部屋よりも狭いものの全員が中に入っても余裕がある部屋。
ただ窓は小さく、入り口は一つだけでそちらをアトランダム、彼に塞がれれば出入りは不可能。私が逃げることを考えてしたことなら絶望的だ。
私が座るソファの目の前には暖かな紅茶が淹れられているカップ、起してしまったのだろう寝巻き姿のカシオペア博士に彼女の隣にはユーロパで、私の隣には何故かクイックと呼ばれた…最初は敵対的な目を見せていた少年が座っている。
ただ驚いたことにこの家には私と、カシオペア博士以外は人間がいない。もしかしたら此処ではロボットが人間と同じぐらい居るのかもしれない。
もちろん、ロボットとは訊ねたわけではないけれどそうであることを妙に確信を持って言えるのはこれが夢だからだろう。
「何から聞けばいいかしらね」
カシオペア博士が眉尻を下げ困ったように言う。
「私も何から説明すればいいのか」
彼女の困惑は私が想像しても当然のことだろうと推測できた。
自宅に怪しい女が忍び込み、あれよあれよと言う間に話し合いというお茶会が開かれているのだから。
どうしたものかと私も思って室内を見回せばTV画面に映った時も綺麗なCGをしたエモーションが私に笑みを向け。
「どちらからいらっしゃったのかお聞きしたいのですけれど?」
「家です」
住所氏名の確認は大切です。あぁ、犯罪履歴が私の人生という履歴書に記載されるのは近い気がする。
「ご自宅はどちらに?遠いのかしら」
「えっ、あの、此処は何処でしょう」
カシオペア博士の言葉に私は失礼かもしれないが訪ね返す。
遠いか近いかは此処が何処かわからなければ答えられない。
「カシオペア邸ですわ」
それに答えたのはエモーション、ちなみに他のメンバーは一様に押し黙っていてかなり怖い。
クイックはクワイエットに静かにしているように言われているだけなので、実は今にも喋りだしそうな雰囲気があるのでまた別の意味で怖い。
「えーと、場所は東京ですか?」
それにカシオペア博士は日本人ではないとは思うけど日本語が上手い。
「まぁ」
驚いたように私を見ているカシオペア博士とロボット達の視線。
「あの、何か?」
「貴女はシンクタンク・アトランダムを知っているかしら?」
「すみません、不勉強で」
シンクタンク・アトランダムとは何だろう。
個人というよりも会社とかの何かの機関みたいに思うけど、此処では有名なのかもしれない。
「いいのよ。でも、シンクタンク・アトランダムはシンガポールにあるの。
そして、この家もまたシンガポールにあるわ」
「はい?」
もちろん、日本語で話していてもそこが日本であるという保証はない。
保証はないけど、カシオペア博士やロボット達が全員が流暢な日本語話していれば誰だって日本だと思う。
夢だとしても全員が日本語を話しているのは私の中には外国の人も日本語で統一すべきだとでも考えていたりするのかもしれない。
「貴女はどちらからいらしたのかしら」
阿呆な子のようなことを私が考えているとは思ってないだろうカシオペア博士。
「にっ、日本にあるはずの家です」
あぁ、もしかしたら、もしかしたら。
このままだと私は何がしかの誤解を受けて病院なり何なりに連れて行かれるかもしれない。
そんなことになるぐらいならば警察の方がマシかも。
「飛行機に乗って?」
「いえ、違います。気がついたら此処に居ました」
私が色々と考えている間も質問が続く。
昨日はどこにいたのかとか、両親は何をっとか今と関係ないだろうことまで色々と私に関する話を彼女はとっても上手く聞き出していく。
それは強要されたものではなく彼女と話しているとごく自然に言葉が出てきた。
「なぁ、カシオペア博士。どうなってるんだ?」
その独特な雰囲気を壊したのは痺れを切らしたのだろうクイックの言葉。
パチンッと音がしたみたいに私は自分が話していた必要ではないようなこと、
例えば好きな色やら花やらを話していたという事実に首を傾げる。
別に話したくないことは話していないけれど、今の状況でお互いに話すようなことではなかったのは確かだ。
「少なくとも彼女が嘘をついていないだろうことはわかりましたよ」
「はぁ」
先ほどの会話の中でどうやってそれがわかったのだろう。
私が首を傾げたのかわかったのか彼女は口元に笑みを浮かべ。
「引退はしていますけどね。これでも心理学者の端くれなのよ」
なるほど、先ほどの会話の中で私は心理状況を図られていたらしい。
それで様々な話を聞きだしていたということは理解できたけれど、
騙されたような気分にはならないのはカシオペア博士が聞き上手だと思う。
だとすると、優秀な心理学者ということになるのかもしれない。
「貴女がどうして此処にいるかまではわからないけれど悪い方ではないと思いますよ」
「おばあさま?」
「カシオペア博士っ!」
カシオペア博士の言葉に驚いたように声を上げたのはアトランダムとユーロパ。ほぼ同タイミングな彼らは気が合うのかもしれない。
ちなみにクワイエットは安堵したように見えるし、クイックは喜んでいる。
「よかったですわね。様」
拍手をしながらエモーションも笑顔で喜んでくれているらしい。
私はお礼を言うために彼女の姿が現れている近くへと行き軽く頭を下げ。
「ありがとうございます。あの、様というのは止めて頂けるとありがたいのですが」
侵入者ですし、私。
心の中でそう付け足した私にキョトンとした表情を彼女は向けた後に、にっこりと笑み。
「わかりましたわ。さんと呼ばせて頂きますわね」
「お願いします」
最初に呼ばれてた時から気になっていたので様付けでなくなったことにホッとする。
これもまた一般庶民の性なのかも。
「これからどうなさるおつもりなのかしら?」
「……」
エモーションの言葉、それはこの部屋の全員が考えていることかもしれない。
「たぶん、帰れると思います」
少しばかり長い沈黙の後で私は自分の予想を口にした。
今までにもこうやって現実的でいて現実ではないロボット達がいる夢を見たけれど、目が覚めた。
確かに少しずつ此方にいる時間が長くなっているような気もするけど……。
「あっ、ほらっ!消えてきました」
誰の目にも明らかなほどに私の姿はぼんやりとして見えるだろう。
室内を見回せば私の様子に驚いた様子のカシオペア博士とクワイエットを除くロボット達。
これで私の言葉が嘘ではないと信じてもらえ…――
「まぁ、さんっ!」
薄れ始めていた私に驚いたエモーションが私に手を伸ばす。
クワイエットの時と同じように彼女の手が……すり抜けることはなく、彼女の手は私の腕を強く握り。
バチンッ
何かが爆ぜるような音を聞いた。