夢の歯車
〜12〜
音井宅に帰宅後しばらくした後、家人の人々が休んだだろう時刻。
オラクルの様子を確認しようとオラトリオが電脳世界にあるORACLEへと戻る。
彼の相棒のことはコードに一応は頼んではいたもののコードからの話では呼び出しはなかったとの話なので今日は侵入者達は休んでいたようだ。
そう考えていたオラトリオだが電脳空間に入ってから無意識にORACLEをチェックして障壁にある微かな修復の気配に眉を顰める。
こんなところまで侵入されたのであれば撃退用のプログラムだけでは対処出来ずにコードに要請がかかったはずなのだ。なのに、コードは呼び出しはかからなかったとオラトリオは聞いている。
「オラトリオ、お帰り」
いつものごとく悠長な様子で現れたオラクルにオラトリオは視線を向ける。
「……何を怒ってるんだい?」
「何をって!今日、侵入者が…」
その悠長ぶりとは逆にオラトリオはオラクルへと詰め寄る。
「きたよ」
「だったら、どうして師匠に要請しなかったんだよ」
あっさりと頷いたオラクルにそう怒鳴ったオラトリオだが、彼もコードも来ていないのにどうしてオラクルは無事なのか。
「呼ぶ前に退治してくれたんだ」
そう疑問に思ったオラトリオに気付いたのかオラクルはそう言った。
「誰がだ?」
Aナンバーズといえども侵入者を自分やコード以外が容易く撃退できるとは思えない。では誰が、何が撃退したのか。
撃退したとしても、その撃退したモノはどうしてORACLEの内部近くに居たのかが問題だ。
「が塩で退治してくれたんだよ」
「……はっ?」
ありえないはずなのだが聞き間違いかとオラトリオはオラクルへと訊ね返す。
侵入者を誰が何で退治したとオラクルは言ったのだろうかと。
「巨大なナメクジに塩を降りかけて退治したんだってさ。
たぶん咄嗟に弱点をついた撃退プログラムを作り出したんだと思うんだけど」
ナメクジに塩というのは本当に聞くんだねとのほほんと続けるオラクル。
「今、といわなかったか?」
「あぁ、ここに現れたんだ」
「どういうことだか説明しろ、オラクル」
オラトリオが一番に気になったのはという名前である。
空港で知った少女の名前が此処で相棒が出るのは問題だ。
「ロボットの人格プログラムに近かったけど下手な大学や研究所よりもデータ量が凄かったよ。
最初は何処かの端末に人格プログラムをつけた新しい試みなのかとも思ったけど名乗ったのは個人名だし、
登録はなかったからORACLE内部のデータは見せられないって説明したら納得してくれたんだ」
「それで、消えたのか?」
いつもの情報であれば彼女は姿を消してしまうはずである。
それが電脳世界でもそうなのかはわからないが……。
「お茶を一緒に飲んだよ。少し温めの方が好きみたいだ」
「お茶を飲んだってなぁ……登録してないヤツがORACLE内部に居たら侵入者だろ」
相棒の態度にオラトリオは飽きられた。
彼がとった行動はORACLEを危険にさらすものでしかないはずだ。
「そうなんだけど嫌な感じはしなかったし」
ハッカーに対してのトラウマはなりのものであるオラクルの言葉とは思えないことである。
許可がなくORACLEに居るのだから侵入者として考えるべきだし、そう考えるだろうオラクルが『』という相手に対しては無防備だったのだ。
「まぁ、いい。そのというのはこういうのか?」
こういうという言葉の時に作ったCGをオラクルへと見せた。
「そうだよ。彼女だ」
頷いて笑ったオラクルの笑みにオラトリオはぞくりっと背筋が寒くなるような感覚を覚える。オラクルは無防備だったのだ。
――…そうだ。誰もが彼女を害ある存在ととらえない。目の前に現れ、消えていく不思議な相手であるというのに。
「まずいな」
彼とて例外ではなかった。
正体を突き止めようとはしたけれど彼女が害ある存在であるとは認識していなかった。
それは、ある意味で危険な存在であるといえるのではないか。