夢の歯車

10


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不思議な少女が現れたという場所へオラトリオは信彦に案内されて到着した。
ちびの時に出会ったという幽霊が出現した場所に出向くと途中で知ったシグナルは早くも帰りたそうに辺りを見回している。
「ここだよ。オラトリオ」
「普通だな」
信彦の言葉にオラトリオは少女が消えたという場所の辺りを見回したが特に目立つようなものはない。
彼が少女と出会った場所もまた何の変哲もない空港だったのだからそれはおかしくはないのだが、やはり多少の期待はしてしまっていたのだろう。
「なぁ、早く帰ろうぜ。また出てきたりするかもしれないし」
オラトリオが探しているものが何であれ、シグナルには今のところ関係ないし、彼は関わりたくないのだ。
幽霊やら妖怪やらといった非現実的な存在が過去のトラウマの為に苦手であり、今回の幽霊もシグナルではなくちびが出会ったのだし彼は覚えてない。
早く帰りたいと騒ぎ出したシグナルに視線を向けるとオラトリオは信彦を振り返り。
「信彦」
準備していたこよりを渡した。それを使用した信彦がはっ、はくしょんとクシャミをすればシグナルが光り輝き、ちびの姿と変化する。
変化したちびをオラトリオはひょいっと持ち上げる。今のシグナルと視線を合わせるのはしゃがむよりも此方が手っ取り早いのだ。
「ちび、ここで会った人の事を覚えてるか?」
「んぅー?あー、おぼえてますよ」
えへへって嬉しそうに笑い。
「エララちゃんみたいにやさしかったですー」
シグナル達にとっては最上級な褒め言葉だ。覚えているだろうと思っていたオラトリオだがそれほどに褒めるちびに首を傾げる。
彼と出会った少女の印象はあまり関わって欲しくなさそうに見えたのにちびに対しては態度が違ったのだろう。
「そんなに優しかったのか?」
態度が違うのはおかしくはないとは彼は思いはした。
小さな子ども冷たい態度をとるような少女ではなかっただろうと何となくは彼は納得したのだが、
それならば自分に対してももう少し愛想というものを向けてくれてもよかったのにとオラトリオは不満に思う。
「やさしかったですよー。ねぇ、のぶひこ」
「優しかったかどうかはわからないけど消えていく時は笑ってたよ」
信彦は消えた少女といっても彼よりも年上であっただろうから彼としては消えたお姉さんについて覚えているのは消えていく瞬間ぐらいなもの。
ただ信彦とちびの二人を微笑ましそうに見つめていたのは覚えていて、悪い人ではないだろうとは思っている。
信彦の賛同をえられなかったちびがぷぅっとふくれ面。
「俺だって悪い人じゃないと思うよ?ただちびはあの人と一緒にいたけど俺はちらっと見ただけなんだからさ」
「むぅー」
接してもいない相手の事をいい人とは言えないと正論を言った信彦ではあるがちびのふくれ面は変わらない。
「ちび、帰ったらチョコ買ってあげるからさ」
信彦はふくれ面のちびをオラトリオから受け取るとチョコの購入を約束している。
そのスポンサーは俺の方がいいだろうかとオラトリオは考えながらもう一度、少女が消えたという場所を見た。
「帰るとするか。信彦、此処まで案内してくれた礼としてちびには俺から買ってやるよ」
そう言ってオラトリオは信彦とちびを促してその場を離れる。
彼は思う。彼女の正体は相変わらず不明だというのに焦る心がないのは彼女が害となるような存在ではないからだろうかと。
だが、それを結論付けるのはまだ早い。早いとして彼は彼女を追うことを止めようとはしないのだ。

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