夢の歯車
〜9〜
一の本線だけでは奥行きとかはない。線が二本、三本と増えて交差していくことで高さとか奥行きとかが出来ていく。
それを理解できるかのような場所に今度は立っていた。
自分が立っているのは真っ黒い床に薄緑色の光る線が無数にはりめぐらされているようなイメージだ。
イメージ、それが大切なのだと思う。何故かこの床はないと思えば通り抜けていけそうな気がするのだ。
こんなにもしっかりと立っているはずなのに……。
「うぅー、よくわかんない」
ただ遠くに綺麗な建物があったので私はその建物を見ようと近付いた。近付いて気付いたのはそれは図書館だということ。
別に図書館と書いてあるわけではないのだけど、そこにはたくさんのデータ…本が保管されていると判った。
入り口はないだろうかと探してみれば大きな扉が見つかったので私はそちらに向おうとしたが後ろが気になって振り返った。
灰色のような違うようなグネグネした何かがナメクジのように床に跡を残して此方へ、図書館へと向ってきているのが見えた。
気持ち悪いと思ったものの、図書館にコレを近付けたらいけないような気がして私は何故か手に持っていた大量の塩入りのバケツを持っていきそのナメクジもどきに塩を振りかける。
ナカナカに大きかったソレは素早い動きでもなかったので塩を満遍なく振りかければジタバタと抵抗してから徐々にシワシワっと縮んでいき最後には動かなくなり残骸となった。
大量の塩とその残骸をどうしようかと考えてバケツで残骸を隠してみたけど、隠しきれてない時点で無意味だと気付く。
「あっ、図書館ならホウキとちりとりあるかも」
貸してくれるかどうかは別だけど司書さんにでも聞いてみよう。
いつもの妙に現実のような夢とは違って今回は線でできた床とかモンスターっぽい巨大ナメクジとかが出てきたことで今回はまぎれもなく夢だろうと判断できた。
塩入りバケツがあったところとかがご都合主義っぽいじゃない。
「お邪魔しまーす」
鍵の付いていない扉を開けて中へと入ればずらーりっと並んだ本の数々。
これだけの本を整理するのにはどれだけの人数が必要なのだろうか。
「ようこそ、ORACLEへ。えーと、お嬢さん」
お嬢さんとそう言ったのは優しそうな一人の青年だ。
確か、この間もお嬢さんというロボット青年と出会ったけれどと思って目の前に青年がその青年とよく似ていることに気付いた。
雰囲気はまるで違うのに、その顔立ちの造形は瓜二つ。
「オラトリオ?」
それに気付いて私がそう言えば彼は瞬きをして。
「私はオラクル、ORACLEの管理者だよ」
どうやら人違い?をしたらしい。それに、ここは図書館ORACLEと言って管理者の人はオラクルということは個人経営の図書館なのか。
そう考えている間もオラクルと名乗った青年は私を見ている。
「おっ、お邪魔してます。です」
そういえば名前を名乗っていなかった。
図書館で名前を名乗る必要性があるのかどうかは別としてこの時の私は名乗らないとっと考えた。
「さん」
そう私の名を呼ぶと彼は困ったように私を見つめ。
「ORACLEへの登録はしてないようだね」
「あっ、はい。してません」
図書館で本を借りるのは登録が必要だとは知ってたけど此処は入る時点で必要らしい。
そうなると私は無断で侵入したというわけで、夢の中ではよく無断で侵入しててもいいわけはないだろうというかそんな夢ばかりで私は何かそんな願望でもあるのだろうかと心配になってきた。
「中を少し見たかったんですけど登録してないとダメなら出て行きます。
……あっ!あの、外に変なゴミがあるんですけどそれを片付けるホウキとちりとりありますか?」
出て行こうと踵を返してから、私はもう一つの目的を思い出した。
そういえばこの図書館前に残骸が放置されたままだった。
「ゴミ?」
「なんかナメクジみたいなのがウネウネしてたので、塩で退治したんですけど」
自分で説明してて謎な言葉なのにオラクルは「あぁ」と納得したように頷き。
「嫌な感じがした後にすぐに消えたからどうなったのかと思ってけど君がしてくれたんだね。
大丈夫、君の言うゴミはもう片付けられているから」
「そうなんですか?」
自分が伝えるよりも先に彼は残骸を片付けた?それとも別に他の人が居てその残骸を片付けたことを報告?
どちらにしても物理的に無理な気がしたけど、そういえばこれは夢だったのだと思った私は納得した。
「退治してくれてありがとう」
彼は本当に嬉しいのだろう此方まで嬉しくなるような笑顔で言った。
「いえ、どう致しまして……それじゃあ」
「あっ、ちょっと待って」
此処を出るところだったことを思い出して私は出て行こうとするとオラクルが呼び止める。
呼び止められて私が立ち止まると彼はいつの間にかその手にティーポットがあり。
「登録してないから情報は見せてあげられないけど、お茶は出すよ?」
お茶に誘われた。この手の顔の人はお茶に誘うのが趣味なのだろうか?
私はそうは思ったけれどあのロボットと違って彼は自然体のようなので裏を探す必要もないだろうとお茶を飲むことを承知する。
お茶の葉はダージリンでストレートはいい香りがしてその味も美味しい。
のんびりとオラクルと話をしながらのティータイムを過ごした後で私はORACLEの後にした。
ORACLEの扉を出たところが今日のところの私のタイムリミットだった。