夢の歯車
〜5〜
まどろんでいると心地良い風が頬を撫でた。
その風は太陽と草の香りを運び…――あれ、私は布団の中のはずなのに何故風を感じるのだろう?
これほど気持ちがいい眠りはそうはないのでそのまま眠っていたかったのに疑問が私の思考に浮かべば、意識は急速に覚醒していく。
「えっ?」
薄っすらと目を明ければ青々と茂る草。少し視線を動かせば木陰を提供してくれている大きな木。
その木の葉の間から見えるのは良く晴れた空で私は布団の中で眠ったつもりが実は違ったのだろうか。
ピクニックでも来ていたかと上半身を起すと自分の状況に気がついた。
「なんで、パジャマ」
薄い一枚の布なパジャマで普通は外にはでないし私も出たことはない。それなのに此処にいるのは夢遊病にでもなったのだろうか。
幸いな事に外はポカポカ陽気なので寒くはないが今の姿を誰か人に見られたら変な人だと思われてしまうだろうから、まずは家に帰ろうと辺りを見回してやっと気付く。
「ここ、何処?」
素敵な木陰を提供している木は数十本もあった。もしくは、それ以上?見覚えのない場所にいるのがはじめてではないものの建物ではなく外というのははじめてだ。
前と同じなのは何もない……と、思おうとしてもしかしたらと私は辺りにクワイエットがいないか探す。
記憶にある二度とも彼の近くに自分は現れていたようなので今回もそうではないかと期待したのだけれど彼どころか誰一人、見つからない。
一人でこの森なのか林なのかわからない場所にいつまでも居たくはないのだけど……。
「あれー、おねーさんはなにをしてるんですか?」
子ども特有の甲高い声が聞こえて私は声がした方を見る。
そこには綺麗な紫の髪の持っている子どもがいた。
私はその子どもと視線を合わせようと身を屈めたものの生憎と彼はそれよりも背が低い。
「何してるように見える?」
にっこりと微笑んで尋ねてみると彼は『んーと、んーと』と難しい顔して考え始め。
「きのこがりっ!」
あぁ、確かに此処には素敵にキノコが生えてそうだ。
「ちょっと違うかな。僕はキノコ狩り?」
「そうですっ!」
ビシッと決めポーズっぽい姿で子どもは答えた。
可愛らしいんだけどこんな子を一人で放置してる親御さんはどなたですかね?
私は子どもの頭を撫でようとして彼の髪に触れた時に……。
「――…」
「どうしたの?」
髪に触れた瞬間に固まった私に彼は首を傾げている。
さながら人のように話す彼と同じように、目の前の子どもは『ロボット』だった。
感情表現は此方の方がとっても豊かだけど。
「んんっ、何でもないよ。迷子になったり逸れたりしたらいけないから一緒に来た人のところに帰りなさいね」
いくらロボットといえども彼のように可愛らしいというか頼りなさげなロボットを一人?でこのようなところには来させないだろう。
そう考えて言った私だったけれど、紫髪のロボっ子は急に大きな涙の粒を溜めはじめた。
「えっ、どうした?」
今度は此方が訊ねる番だった。
私の言葉を聞いた後でこの反応は私が何か彼にとっていけないことを言ってしまったのか。
「のぶひことはぐれちゃった」
びっ、びえーん。そんな擬音すら聞こえてくるほどの大声量で彼は泣き始めた。もはや逸れ済みだったらしい。
人の子であるのならいつか泣き疲れるだろうけど、ロボットであるこの子が泣き疲れるとは限らない。
そうすると私が離れるか子どもを泣き止ませるしか解決方法はない。
流石に泣いてる子どもを放置して去っていくのは、自分が困っている状況でも心理的に無理だったので私は彼の頭を撫でて。
「よしよし、おねーちゃんが『のぶひこ』さんを一緒に探してあげる」
すぐには泣き止まなかったもののしばらくずっと頭を撫でていると泣き声は少しずつ小さくなり。
「ひぐっ、えぐ……本当?」
「うん、本当」
約束するように頷けば、ぱぁっと彼は笑顔を見せ。
「ありがとうですー」
私に飛びついた彼を抱きとめればとっても軽い。
下手をすると赤ん坊より軽いかもしれないほどだった。
「それじゃあ、探しに行こうか」
彼の言う『のぶひこ』という人を探しに。
私は彼を抱きながら人がいないかうろうろと歩く、腕の中の彼は探し人の名を呼ぶので私も『信彦さーん』と時々は声を出した。
「あっ、のぶひこのこえですーっ!」
しばらくして嬉しそうに言った彼の言葉だったがそんな私の耳には何の音も聞こえなかった。
「あっちです」
私がわからないことに気付いたのだろう彼が指差したのでその指差す方向へと向かう。
「ちびーっ!どこだよーっ!!」
少年の声が誰かを探していると言うことは私が腕に抱いているのが『ちび』君ではないだろうか。
私は聞こえたその声があるだろう方向へと走り出すとどんどん声は大きくなっていく。
「のぶひこーっ!」
木々が疎らとなって少し開けた視界。
離れたところに黒髪の少年、その少年が見えた瞬間に腕の中のちび君が飛び出していく。
「ちびっ!」
黒髪の少年がちびを抱きしめた。
ちゃんと出会うことが出来てよかったとほっと胸を撫で下ろす。
「どこ行ってたんだよ。心配したんだぞ」
「おねーさんがいっしょにさがしてくれたんですっ!」
それ、話がかみ合ってないからっと心の中で突っ込む。
「お姉さん?」
首を傾げた少年にちび君が私のほうを指差した。
彼とちび君の視線が此方に向いたと思ったときに私の視界がぶれる。
――そうか。時間切れ…だ。