夢の歯車


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シンクタンクへの正体不明の侵入者は再度、侵入した。そしてまたその姿を確認することは出来なかったという。
侵入者を見たというただ一体のヒューマンフォームロボット、再起動をしたてのクワイエットを除いてだがその情報も確かと言えるかは疑問だと彼、オラトリオは考えている。
よくわからない事態によくわからない証言とはいえ、証言をしたクワイエットとは事情があるとはいえどかつて敵対していた。
だが、信頼できないというわけではなく、その内容が信じるのが難しいだけだ。
ただ彼は本当にそう思っているとオラトリオが信頼するロボット心理学者が保証してくれた。
その証言に偽りは無いだろうと……そう保証してくれた彼女を信じるのならばその証言は真実ではなかったとしてもクワイエットにとっては『真実』だ。
「理解できない」
オラトリオの蓄積されたデータの中からでも答えは出てこなかった。
正確には幾つかの可能性から出した答えを理由をつけて却下し、最後の答えまで打ち消すと思考の袋小路にはまった。
この世の全てを知っているわけではないが普通よりも多くの知識があるはずの彼ですら、今回に該当するだろう推測が成り立たない。
「シンクタンクへの侵入者のことか?」
ORACLEで考えことをするのは邪魔されないという点ではいい。また、話し相手となる相棒がいることもプラスに働いているように彼は思う。
相棒であるオラクルはオラトリオが一人で考えたい時には大抵はそれを察知してか話しかけてこないのだから、マイナスになることはあまりない。
「そう、大抵のことなら理解できる俺だが今回はサッパリだ」
大抵はというようにオラクルの事情が時には優先してオラトリオの思考を乱すことはあるのだが、今回は袋小路からの脱出に繋がるかと彼は相棒に期待した。
「何も盗んでいった様子がないんだよね。何度も進入してるのに」
「あのシンクタンクには宝の山だというのに情報どころかネジの一欠けらすら盗んじゃいないらしい」
そこが彼には理解できないのだということをオラクルは察したものの。
「それじゃあ、幽霊なのかな」
彼の思い当たる可能性がそうだった。
正体不明の侵入者が1度目と2度目が同一人物であるとするのであれば2度目の侵入騒ぎの渦中の人というかクワイエットはその侵入者を見ていた。
再起動した際に傍にいて話した後に消えたという少女のことをクワイエットは日本人だろうと言っていた。
話していた言葉が流暢な日本語で髪や瞳の色、その肌色で判断するならばと。だが、彼らは知らないが実は彼は一つだけ言っていないことがあった。
それは少女が名乗った『』という名については誰にも告げていない。
「あのなぁ。日本人の幽霊がどうしてシンクタンクにでるんだよ」
念の為にとシンクタンクに日本人もしくはアジア系の少女が巻き込まれたことがないかと調べてみたものの。
それはDr.クエーサーが引き起こした事件以外にはなく、その事件での日本人の少女とは当時は少女であった音井みのるというロボット心理学者である。
その他には該当するような事件は起きておらずその少女が幽霊だとしてもシンクタンクに出る理由がわからない。
「観光とか」
「――…へいへい」
彼の相棒は時には呆れることを言うが、それも世間知らずならばしょうがないとオラトリオは結論つけて思考の海へと意識を沈める。
オラクルはそんなオラトリオに肩を竦めて、データの整理をしようとオラトリオの傍から離れる。
ごく簡単なデータは無意識に出来てしまうが重要なデータはそうはいかないのだから、彼はかなり忙しい日々を過ごしているのだ。

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