夢の歯車


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あの時と同じ。同じだけど少し違うのは今の私に記憶があるということと薄暗くても無数の僅かな科学的な光が瞬いたりしている。
「前の時よりはその方がいいんだけどね」
記憶があっても今の状況は説明がつかない。
私はパソコンや機械やらに囲まれた見知らぬ場所に立っている状況に置かれるような生活はしていない。
「まぁ、私は一つの結論が得られたんだけどね。此処は夢の中なのよ」
うんっと頷いて私はその結論に満足する。この間はぼんやりとしていて記憶が思い出せなかっただけなのだと思う。
私の中にある夢の中で現実ではあり得ないことでも疑問に思わずに自分は動いていたりすることもあるということを考えると説明がつく気がする。
あれほど精巧なロボットは壊れていたとしても現実にはあり得ないし、ロボットであれ何であれ物に触れてその感情を理解した気になるのはおかしいことだったもの。
……だから、今回もきっと夢なんだろう。
「綺麗に直ってる」
私の目の前には眠るように目を瞑っている男性の姿。それは、私がこの間夢で見た一体のロボットだった。
むき出しになっていた機械部分も綺麗に直されて彼に接続されているコードのような物を除けば見た目は完璧な人間だと思った。
だからこそ、夢を見ていると私は思うわけだけど。
「これだけ完璧なロボットなんて作れるわけないもんね」
きっと彼は見た目だけではなく、きちんと動き喋ることも出来るだろう。
「動かないかな?」
都合が良い夢であればこういう時はいきなり目をパチッと開けて話し始めると思うんだけどその様子はない。
私は辺りを見回して何かボタンらしき物が無いかと探してみたけれど前回とは違ってあからさまなボタンはなく、パソコンやらそれ以外にも扱いが難しそうな機械が置いてあるだけ。
彼が座っている椅子からして普通の椅子ではないのだから当然かもしれないけど。
此処で何かしたら動いたりするのだろうか?それは、まず…くないかも?
「そうよ。夢なんだし」
今回はたぶん悪夢ではないのだろうから、そう困ったことにはならないはず。
何か機械のスイッチでも弄ればいいかもしれないと私は部屋の中を確認する為に歩き始めたけれど、床にあった無数のコードの一つに足を引っ掛けてしまう。
「…っ!……あっ、危なかった」
慌てて近くの机に両手をつけば、左手の薬指がパソコンのキーボードに触れていた。
ピッ
機械音。
「わわっ!」
何かしたらしく、パソコンの画面が明るくなり何やら緑色の無数の線、人型をとったそれを現し文字が流れるように現れては消えていく。
夢らしいと言えばらしいかもしれないけど、かなり間抜けな状況な気がする。
流れる文字が終わるまでしばらくパソコンへと視線を向けていたけどそれ以上の動きは無い。
「……何か変なことした?」
冷や汗が流れる。今はよくても何かのキッカケで悪夢になったりするかも……。
「起動プログラムを…」
「っ!」
私以外の人がいないはずの部屋で男性の声が聞こえた。慌てて声の主を確認する為に部屋を見回しても誰もいない。
変わっていることと言えば目を閉じていたはずの男性型のロボットの目が開いているだけだ。
先ほど聞こえた声は彼から発せられた?私は確かめるために彼に話しかけることにする。
「ぷろぐらむ?」
「俺のプログラムを起動させたのは君だろう?」
私の問いに答えるように彼は言ってから、まるでその腕を動かすことがとても難しい作業かのようにのろのろと動かして自分の額に右腕を置く。
「何故、俺は……」
その呟きは暗く、哀しい。あぁ、確かにあの時に感じた感情だ。
「また思い出が作れるようになってよかったね」
私は笑みを浮かべて彼に言う。
「……何を?」
「世の中、哀しいことだけじゃないんだよ。誰かが貴方を直してくれたってことは貴方のことを大切に思っている人が居るってことじゃない?」
ロボットの彼、私よりも大きなその姿。なのに世界に取り残されたかのように思える彼。
ちゃんと彼は直されて、また活動できるのだからまた世界に加わればいい。
「だから、楽しい思い出を作らないとっ!そう思わない?……えっと」
「クワイエットだ」
彼の名前を言えずに口ごもった私に名前を教えてくれる。
「よろしく、クワイエット。私は
普段なら初対面の相手を呼び捨てにはしないけど、何となく彼については呼び捨ての方が相応しい気がした。
今更、敬語とかが変だと思う気がするのと一緒だと思う。
「君は何者だ?」
「何者?そうね此処では何者なんだろう……ん〜、クワイエットの友達ってのはどう?」
首を傾げて尋ねる。少しでも可愛いとか思ってもらえると嬉しい仕草だよね。いや、自分が可愛いとかは口が裂けても言わないけど。
「友?……そんな者は俺の記憶にはない」
彼の中にある記憶の中の人はどんな人達なのだろう。
「だったら、友達1号として私の名前を覚えてよ。ねっ?」
「……わかった」
勢い込んで言った私の言葉にクワイエットが仕方が無いなっというかのように僅かな笑みを浮かべて頷いてくれた。
私は嬉しくなって彼の傍に近寄ると思わず手を差し出した。たぶん、握手のつもりだったんだと思う。
普段だったら握手をしようなんて思わなかっただろうけど彼の名前からして日本ではなさそうな気がして握手してみようとかそんなノリだった。
彼も私の意図に気付いたのか手を差し伸べてくれたのに私の手は……何も掴まなかった。
「!」
よく見ると私の手は透けていた。
?」
クワイエットの声に私は視線を向ける。酷く驚いたような表情が見えて、私はそんな彼に触れられなかったことを残念に思う。
「ごめん、時間切れ」
両手を合わせて私は彼に謝った。
「また会えればいいね?」
次に会えた時には笑顔の彼に会いたいと思う。

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