W大佐

謁見!ライガの女王
〜4〜


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チーグル族とエンゲーブでの話し合いは大体はうまくいった。人に問題を押し付けたチーグル族の長はライガ達との話し合いがうまくいったことに満足そうであったし、ミュウを私達と共に行かせることにしたと言った。
恩返しの為だと言ってはいたがゲームと違って直接的な命の危機を救ったわけでもないのにミュウが仲間になったのは厄介払いも兼ねているのではないかと勘繰りたくなった。
聖獣とこの世界で称されてはいるもののチーグルは魔物であり、炎が出せても個としての力が弱く知恵で生き残ってきたタイプで本来のところ狡賢い種族だと私は考えている。
チーグルについては聖獣というフィルターがかけられているせいで本にも好意的なことばかり書かれていて実際の生態と少し離れているのではないだろうか。いや、それすらも聖獣の神秘性となっているのかもしれない。
私はチーグルが嫌いではない。弱い生き物であれば利用できるものを利用し、群にとって邪魔になる個体がいれば放り出すだろう。それを恩返しのためと理由をつけたのはチーグルの長の優しさだろうと推測できる。
種族全体の恩人になるからとソーサラーリングまでミュウに預けたままなところは甘いと思うけどその甘さは嫌いではない。
チーグルの長との話し合いの後に戻ったエンゲーブでの反応は今回のことを頼んできたチーグル達の反応よりも強硬だった。主に魔物であるライガが話し合いの言葉を守るとは思えないという意見が多く、退治するべきだという意見ばかりで話し合いは難航したからだ。
ただ卵が孵化するのが近日であることから軍に要請しても間に合わないことと、私達は協力する気がないことは告げた。その時には村人よりもティアが難色を示したが私達がライガとの約束を破るのは魔物より人間が卑劣だということになると言えば引き下がってくれた。
他に方法はないということで私の主張するライガに貢ぎ物を渡して去ってもらうということで決定したが、私から言わせれば村人が総出でライガに立ち向かうということも出来た。それを選択しなかったのは我が身が可愛いかったからだろうに多くの村人からはまるで私が悪人であるかのように見られ、その仲間として認識されているルーク達にもまたあまり好意的な視線を向けられなかったのは私の責任だ。話し合いの後にやや俯き加減で居心地が悪そうなルークを隠すように前に常に立っていた。
早朝に私達とローズ夫人を含む村人数名が家畜を乗せた馬車2台で出発することを決めた後、村人達の態度から私達が宿屋に泊まるのは問題だと考えたのか今夜はローズ邸で泊まることとなった。ルークの様子からして大変にありがたがったので感謝し素直に泊まらせてもらうことにした。



話し合いで遅くなった夕食をご馳走になった後に改めてローズ夫人と話す機会があり、私は話し合い決定後から考えていたことを私はたずねる。
「本当によろしいんですか?あんな安値で家畜を売ってしまって」
中身は前世のことも足したなら私が上だろうが外見上は私が年下なので敬語を使って喋った。相手によって態度を変えるのは別に悪いことではないと私は考えているしね。
「損はしていないからね」
得があるか心配になる数値であったし、労力分を考えれば損をしているはずなのにローズ夫人は気にしていないみたいだ。
提示された家畜の値段は通常よりもだいぶ安かったので正直なところは助かったけどね。
「心配いらないさ。それに私に言わせればあんたが金を出すのはおかしいと思うんだけどねぇ」
「そうですか?私が望む結果のために支払うのは当然だと思いますが?」
本来であれば彼らはライガに対して何かをする必要がなかったことを知っている身としては最低限の出費は必要だと覚悟していた。
それを知らないローズ夫人は家畜を無料で出すことをためらった村人に支払いを約束したことを気に病んでいるようだ。
「今回のことがうまくいってもあんたに得はないんじゃないかい?」
「気分がいいというのは理由になると思いますよ。後味が悪いのは好きではありませんから」
「気分って!、後味が悪いからって今回のことを決めたの?」
ティアが私の言葉を聞いてすぐにそう言ったのは話し合いの結果を納得していなかったからだろう。
今までローズさんとの会話に参加していなかったのも、私へとの不満の表れといった様子だった。指摘したところで無意識そうだったので意味はなさそうだと放置しておいた。
私から言わせれば食事中もルークが落ち着かない様子のほうが心配だったし、突付けば割れてしまいそうな危うい感覚が感じられる。
「まぁね?今回のことはライガのせいだと言い切れないからさ」
怒るティアの気持ちをなだめようと口調が強くならないように気をつけたが彼女には逆効果であったようで。
「村人達の命が危機にされされるかもしれないのよ?」
「じゃあ、お前はにライガを皆殺ししろって言いたいのかよ!」
ティアの言葉によってルークの気持ちが弾けたようで勢い彼が立ち上がったことで椅子が倒れた。
「そんなことは言ってないでしょう。変な風に人の言葉を曲解しないで!」
「だったら、何が言いたかったんだよ?」
「それは……」
彼女としては誰から見ても正しいと思える答えを言いたいんだろうとは思う。
でも、今回のようなことは答えとして正解はなく自分自身で選ばなければならないことだ。
「俺が何か言えば俺を馬鹿にしたように見るクセにお前ってだって文句ばっかりじゃねぇか!」
「私は意見を言っているだけで文句なんて言ってないわ!」
「ちょっと二人共、ここは人の家だし夜中に大きな声は……」
二人のぶつかり合いを私が間に入って回避させていたせいで今回の衝突は起きたっぽいので私の責任か。
緩和剤の働きをしていた私の行動に対してそれぞれ思うことがあり、ルークはティアの言動が受け入れられなかったのだろう。
「……」
「すみません」
押し黙るルークと謝罪するティアという対照的な二人にローズ夫人は首を振り。
「いや、気にしないでおくれ。私達の村のことですまないね」
「ライガのことは村のせいではありませんしお気になさらずに。今回の件をご了承頂けただけで大変にありがたいことでしたし」
ばつの悪そうな表情のルークに変わって私は言葉をローズ夫人に返した後に立ち上がってルークへと近づく。
こちらへと視線を向けてはきたものの何も言う様子がなかったので私は倒れたままの椅子を戻し。
「ルーク、疲れてるでしょ?そろそろ寝たほうがいい」
「そうだね。明日は早いし疲れを残すと大変だよ。さっき案内した部屋で休んでおくれ」
「ティアも休まないとね?」
「……そうね」
ルークの腕を取りながらティアへと声をかければ彼女が頷いたのでルークの腕を引いて泊まる部屋へと向かう。
男女で分けられたのでルークと私が泊まる部屋は違うので私が泊まるはずの部屋は隣だ。
「ルーク、ベットは整えてるしすぐ寝れるよ?」
二人で部屋に入ってすぐにルークの腕を放して声をかける。
ベットが整っているのはルークには出来ないだろうとローズ夫人から貰ったシーツなどの寝具は私が整えたからだ。
ティアからは私が甘やかしているかのような視線を受けたが、ルークが私の行動を眺めている様子からしてまったくの無駄ではなかったと思う。
まったく知らないことはどれだけ簡単なことでも出来ないことだし、逆に何となく知っているのなら出来ることは多いはずだ。ルークに足りない知識や経験を今回の旅で私から少しでも学ぶことができたのなら私の行動は無駄じゃないし。
「なぁ、
「うん?」
「どうしてライガ達を助けるんだ?」
ルークの言葉に視線を向ける。ただの興味といった軽いものではないようで真剣な様子が伝わる。
やはり原作であるゲームに近いこの世界であってもゲームとは違った様子を見せるのは私が現れたせいだろうか。
少なくともルークとティアの仲はゲームよりも速い速度で悪化しているのは気のせいじゃなさそうだ。
「個人的な理由なんだけどね」
「話せないことか?」
ほんの少し低くなった声にルークが拒絶されたと感じたようだ。
すべてを話すことは今は出来ないけれど今回に関することは話しておいたほうがいいか。
「そういうわけじゃないよ。私は今回のライガクイーンとは違うライガクイーンと私は知り合いなんだよね」
「違うライガクイーン?」
個人的に魔物と知り合いになる機会なんて普通はありえない。アリエッタのことがなければ私は人と魔物の違いによって魔物のことを拒絶しただろう。
そう考えればかつての時のアリエッタを探そうと決意した私の判断は悪くはなかったんじゃないかな。
「そっ、私の家族がお世話になっていた時期もあったし、ライガクイーンが討伐されるのは嫌なんだよね」
「だから助けるのか?」
「そうだね……ひどい話だけどエンゲーブの人達よりもライガクイーンのほうが私にとっては優先的に助けたい相手なんだよね」
ライガクイーンを助けることで今後の流れは変化することだろうがルークをジェイド達と同行させなかった時から原作との剥離は覚悟している。
私の行動によって死なないはずの人が死ぬ可能性だってあるし、逆に意図しないところで救われる命もあるはずだけどその結果を私は受け入れるつもりだ。
最悪、原作では続くはずだったこの世界が預言のとおりに滅ぶ可能性とて私という異分子のせいであるだろうし同時に滅びない可能性もある。どう転ぶかなどわかりはしないし知ることも出来ない。私自身は預言士じゃないしね。
「嫌われてもいいのかよ?」
「んー、嫌われるのは嫌だよ?でも、それは私の行動の結果だからね。ルーク達にまで向けられるのは悪いと思うんだけど」
その点は反省すべきだ。人の悪意に敏感な子どもに対しての配慮が充分に足りているとは言えない。
「別に」
ぶっきらぼうに言い視線を逸らした彼に私は笑みが浮かんだ。
「ルーク、ありがとう。あのさ、今回の私の行動は個人を優先したんだ。私が軍人だとしたらまた別の答えをだしたよ」
「軍人だったらどうしたんだ?」
「きっとエンゲーブの人達が望むようにライガの群を殲滅したと思う」
視線は合わないままにルークが問うてきたので私は・カーティスとして行動しただろうと思うことを述べる。
「ライガクイーンのほうが好きでも?」
「うん、感情よりもしなければならないことを優先させる。軍人であるならば国民の人命を優先すべきだし、その可能性を上げるために行動すべきだ」
人の命の安全のほうを優先させようとしたティアが間違っているわけではないし、不確定要素がある今回のことにエンゲーブの人達が難色を示したのは当然のことだ。
ルークとしてはライガクイーンも人も傷つかない私の計画に人が反対することに納得がいかないのだろう。
「寝る」
ティアのことをフォローするための言葉を言った私にルークはそう言うとベットへと身体を横たえた。
聞く気はないという態度に肩を竦めて私はランプへと手を伸ばす。
「灯りを消してくね」
「……おやすみ」
「おやすみ。ルーク」
部屋の灯りを消して廊下へと出て深呼吸を一つしてから隣室のドアを開けて中へと入る。
ティアはもう横になっていて起きて待っていなかったのは珍しいとは思いつつも声をかける。
「ティア」
横になっているティアは私の声が聞こえなかったわけではないと思うが反応はしてくれなかった。
強張ってみえる背中からは私への拒絶がうかがえてルークとの態度の違いに頭が痛くなった。先程のことでルークを優先したことの結果だ。
若い頃は視野が狭くて頑なで敵か味方で分けてしまうところは誰でもあると思うが、ルークとティアはその傾向が強いのではないだろうか。
同行者としては付き合いづらいことこの上ないがティアについては違う可能性を知っている身としては何とかしたい気持ちはある。
けれど、ルークを優先すると決めている私ではティアを支えることできない。人を変えようとするということはその人の生き方に干渉するということで生半可な覚悟でしてもただ互いに傷つくだけだ。
私と接するうちに変わっていくことは生きていくうえでは仕方がないし当然ことと考えて接して変えていってくれることを願うのは都合がよすぎなんだろう。
「おやすみ、ティア。よい夢を」
頑なな背にそう声をかけて私は灯りを消すと空いているベットへと身を横たえる。
この世界に紛れ込んだ私という異分子はルークとティアの関係を変えてしまっている。私が居ることで少しでも仲良くなって欲しいと考えていたのに悪化したという残念すぎる結果だ。
ローレライもどうして私を選んだのかわからないが、本来ならこんな苦労しなくてもすんだのだと迷惑な音素集合体へと恨みの念を送る。
どうやって戻れるかはわからないが音素を収集し凝固させる音機関を作る機会がほしい。ちょっと改良すれば役に立つから是非とも作りたいんだけどこの世界ではコネも金もないからハードルが高くて嫌だ。でも、帰るためには頑張らないといけないし暇を見つけて設計図だけは記入しとこう。





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