W大佐
謁見!ライガの女王
〜1〜
イオン達を見送ったし私達も出発しないとね。そう考えた私はしゃがんでミュウを地面へと下ろす。
ミュウは不思議そうに私を見上げているので真面目な顔になるように頬に少し力をいれ。
「ミュウ、君に重要な任務を与えます」
「みゅう?」
私の言葉に首を傾げるというか身体全体を傾けるミュウ。
「ライガクイーンが居るところまで道案内をよろしくお願いね?」
「はいですの!任せて欲しいですの!」
私の世界では火事が起きなかったのでライガ達がチーグルの森に移動していない。
その為にこちらのライガクイーンがいる場所を知らないので道案内をミュウへと頼めばミュウは勢いよく頷いている。
頼まれたということが嬉しいといった様子は幼い子どもと変わらないので微笑ましい。
「はぁ?こいつにさせんのかよ」
「ルーク、私達はライガがいるところを知らないのよ」
道案内をミュウへと頼んだことに口を挟んだルークとそれを嗜めるティア。
彼女が言っていることは間違ってはいないのに強めな口調の所為で必要以上に厳しく聞こえてしまっている。
「なので、ミュウに頼んで案内してもらうと節約になるかなっとね」
二人の仲が悪化する前にと慌てて発言する。ルークがティアに文句を言えばティアは頑なにルークのことをワガママな人間だと思うだろう。
現在の立場として考えればルークはかなり我慢をしていると思うので私としてはルークのことを責める気にはならない。
そもそも軍人でもなく屋敷でずっと過ごしていたルークにこれだけの距離を歩ける体力があることのほうが驚きだ。
身体を動かすことが好きだからと剣の稽古とかしていたのだとしてもかなり鍛錬をしていたのではないだろうか。彼自身はそれを努力だとか思っていない可能性はあるかもしれないけど。
「節約?」
「時間と労力のね。知らないまま歩いて道に迷ったら嫌じゃない?」
「俺は迷わねーよ」
一緒に行動する時点で私が迷ったらルークも迷うことになると思うんだけど。そう考えてルークを見ていたからかルークが不機嫌そうに顔を顰め。
「何だよ?」
「もう少し考えて。森を知らない貴方が迷わない保証なんてないでしょう?」
ティアの言葉にルークの機嫌が悪くなった。確かにルークはチーグルの森に入ってからは歩きづらくなったせいで速度が遅れたりしていたのだ。
「もう森には馴れた」
村を出て行った少年を探しに行くという目的のために大した文句を言わずにここまで歩いてきたのでティアもそのことで何かを言わなかったので安心していたのに此処にきて不和のタネとなったらしい。
この気の合わないところが気が合いすぎる二人の様子に同行者である私はため息をつきたくなったが、そうすればルークはもっと頑なになるだろうと予測できるので堪える。私は保母さんじゃないんだぞ。
「職業柄でなければ森なんて歩くことはそんなにないからねぇ。それに山とか森は馴れたと思っている時の油断のほうが怖いんだよ」
「俺は油断しねぇよ」
「うん、ライガの縄張りに入るわけだし警戒して進んで行こう!じゃあ、ティアはミュウを抱っこしてあげてね?」
ルークの言葉に頷き、ティアの機嫌を良くするためにミュウを抱かせてみる。これはティアが今のところ戦闘で活躍するようなことがなかったのとミュウの安全面の為だ。
軍人としての訓練をティアは受けているのは確かで身体の動かし方は悪くはないどころか良いほうなので問題ないだろう。
「でも」
「ティアにはさ。戦闘の時とかミュウが怪我したりしないように守ってあげてほしいんだよね。私とルークは前衛だし」
可愛いもの好きというのを隠しているらしいのでミュウを抱き上げたいけど出来ないといったところらしい。
そこはジェイドのイメージに合わないからと人前では可愛いもの好きを隠していた私としては共感が持てる。
何故だか幼馴染達は知っていて個人的な贈物などの時には未だにぬいぐるみとか贈ってくれたりするんだけどね。
「がそう言うのなら仕方がないわね」
「ティアさん、よろしくですの!」
右手を上げてミュウが挨拶をした瞬間にティアの頬が赤く染まり。
「かわっ……コホンッ、私に任せていれば大丈夫よ」
慌てて表情を厳しいものにしたけれどそれを私達はしっかり見ていた。隣に居るルークへと視線を向ければ彼もまた私のほうを見て。
「アレが可愛いってのがワカンネェんだけど」
ティアはミュウとの会話に熱中しているようだ。こちらの話には注意を払っている様子はない。
「んー、一般的には小さくてちょこちょこっと動く感じなのは可愛いと思われると思うよ」
「お前もそう思ってるんだろ?」
よほどチーグルがうるさすぎたようで可愛いと少しも思えないらしい。私としてはミュウの健気さは涙ものだったので好感度かなり高い。
「可愛いと思うよ。プチプリとかも可愛いかな?」
こちらを見つける前ののんびりと跳ねるように動く様子は可愛い。見つけた後の一目散に近づいてくる様は微妙なんだけどさ。
「遠慮なく斬ってたじゃねぇか」
微妙に顔を顰めた様子のルークに突っ込まれた。確かにためらうこともなく攻撃した記憶はあるので彼としては信じられないのかも?
「そりゃ魔物だもの」
「可愛いとか言えるお前がすげぇよ」
「そうかな?」
前世で動物園とかの映像見て、パンダにコアラ、赤ちゃんライオン可愛いとか考えていたが実際考えるとパンダとかはかなり危険な動物だ。
野生動物であるのだからそれも当然だけどあの白と黒の姿は可愛いと大人気だったし、熊とかも危険だけどテディベアとかぬいぐるみ人気だったよね。
何処の世界でも本来の危険性とかは無視して可愛いものは可愛いという感性は変なことではないと思う。直接的な危機的状況に追い込まれれば話は違うだけだ。
「斬ったら死ぬんだぞ?」
「あー……うん。そうなんだけど可愛さよりも自分の命のほうが優先なもので」
一瞬、言葉に詰まった。ルークは可愛いと言っているくせによく倒せるよなっとかそういう意味で言っているのだとは思う。
けれどもこの先に多くの命を奪うかもしれない未来を持つ彼に命について言われると胸にくるものがある。これはただの感傷だ。今現時点において何の役にも立たない。
「ルーク、!ミュウがそろそろ出発しましょうって!」
私達が会話している間に仲良くなったのかティアは両腕でミュウを抱え、ミュウは耳が揺れて楽しそうだ。
彼女としては可愛いチーグルを片腕で小脇に抱えるようなことは出来ないだろうな。私は遠慮なく出来るだろうけどね。
「そうだね。ルーク、行くよ」
顔には隠しきれない喜びを浮かべているティアだがここは見ないふりをして、ルークへと声をかけて一人と一匹のところに近づいていきながら腰に帯びている剣の位置を確認する。
今はこの剣が自分の頼みの綱なのでこういう確認を怠ることは出来ない。今のところは譜術を一度も使用したことがないのでルーク達は私を旅の剣士だとでも捉えているようだ。
譜術については隠しているわけではなくて使用する必要がないほどこの辺りは弱い魔物しか出ないだけだ。ライガクイーンと戦うことになる時には譜術を使用することも考えに入れておかないといけない。
救いたいと思いながらも戦うことになった時のことを事前に考えている自分に苦笑してしまう。前世の自分は当たり前のように戦うことを受け入れている自分など想像できなかっただろう。
「しかたねぇな」
戦うことに今も私は恐怖している。だけど、それを取り繕うことを覚えて表面上は冷徹な軍人というものを手に入れた。
ここに至るまでに前世での価値観を大きく変えなければ私は生き残ることは出来なかった。そうするほどに私は生に執着したという証か。
それを誇りにする気もないが嘆く気も私にはない。私は人としてごく当たり前に死に恐怖し、それを回避しようとしたに過ぎないのだから。
「ルーク、危ないと思ったらね。おねーさんのところに来るんだよ?」
「助けてもらう必要はねぇ!」
振り返って後ろに居たルークへと声をかければ彼は怒鳴り、私を追い越して先に行く。
今回のライガのことだけでなくて今後のことも含まれているんだけどそれを知っているのは私だけだ。
大人であることを強要されている子どもの味方になってあげたいという勝手な同情心、もしくは偽善的な行為だがそれでも彼の味方がいないよりはマシだろう。