W大佐

ドキッ! チーグルだらけのチーグルの森
〜5〜


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「……おや、お気付きでしたか」
「わわっ!大佐ぁ〜」
一呼吸程度の時間をおいて出てきたのは見覚えのある青い軍服を着た男と私が貶したことになる守護役の少女。
私と同じ色の髪と瞳をしている男と私は見つめあいその男の目が瞳が見開くのを見た。
彼は気付いたのだ。私の瞳が彼と同じように血のように赤いものだということに。
気付くだろうことを予測していたので私は動揺することもなく彼を見ていることができた。
「なっ!誰だよ」
「私はマルクト帝国軍第三師団所属ジェイド・カーティス大佐です。話をされているようで話しに入るタイミングをうかがっていたんですが……貴方がたは?」
叫ぶルークの言葉に彼の視線は動き私達を確認するように見つめる。
隠れている間にもこちらを観察していただろうが近距離で正面から観察できるのならするべきだとでも思っているのだろう。
いや、思うことなく研究者である彼は癖で観察をしているだけかもしれない。
「私達は旅の者です。私は、彼はルーク、彼女がティアといいます」
二人に名前を名乗る機会を与えずに彼の質問に私が答える。
必要以上に何かを言えばボロが出てしまうし、そもそも私のイオンへの態度から疑いはもたれているだろう。
ただの旅人が導師イオンに意見するようなことがあってはおかしいことなのだから。
「……ジェイド。すみません。勝手なことをして。アニスにも迷惑をかけました」
「イオン様、次は私も連れていって下さいね!」
イオンの謝罪にそう元気よく返答をするアニスだがこちらに意識を向けているのがわかる。
隠れていたために何も言い返せないのは理解しているのだろうが自分のことを悪く言った人間に好意的感情は向けられないのだろう。
「貴方らしくありませんね。悪いことと知っていて、このような振る舞いをなさるのは」
「チーグルは始祖ユリアと共にローレライ教団の礎……彼らの不始末は僕が責任を負わなくてはと……」
イオンに対するジェイドの発言に少しばかり疑問を感じる。
本来の物語を知っているからこそ私はイオンの行動を不思議に思わなかったにせよ。
イオンはジェイド達と共にダアトを抜け出してきたのだ。今回の件とそのことは同じ行動原理であるように思う。
「そのために能力を使いましたね?医者から止められていたでしょう?」
イオンがジェイドの前でダアト式譜術を使う機会があったということは抜け出す時に使用した可能性が高い。
医者から使用を止めるように言われてからそれほど経っていなはずと考えれば無茶をするとは思わなかったのか。
ジェイドは頭が良いと考えていたが、彼は人の感情に疎そうだ。
経験から人はきっとこういう時はこうするだろうという予測を経てているに過ぎないのかもしれない。
「……すみません」
「しかも民間人を巻き込んだ」
正確には勝手に巻き込まれに来たが正しいけれどね。
「おい。謝ってんだろ、そいつ。いつまでもネチネチ言ってねえで許してやれよ、おっさん」
何も知らないからこそ言えるおっさん発言だがピオニー辺りが聞いたら喜びそうだ。
しかし、ゲームでは気付かなかったがおっさんという発言にジェイドが僅かに反応した。
私と同じなら周囲に年を取らないとか言われてただろうから、おっさん発言は意外とダメージだったのかも。
「巻き込まれた方がそう仰られるのなら……しかし、それにしてもよくわかりましたね?」
にこやかな笑みを浮かべながらルークの言葉によって引き下がった彼は後半は私へと問いかけてくる。
彼が何を問いかけたいのか理解できないふりをするのは止めておく。
「導師守護役の方の話をしていた時に動揺されたのか気配がしました。イオン様の護衛の方かと……」
「そうですか」
万が一違ったとしてもルーク達のことは守るつもりではいた。
チーグルの巣穴という限られてる空間では相手が大人数でも直接的には少数しか戦えないだろうし。
「さて、それでは戻りましょうか」
「ジェイド、僕はライガのところへ行かなくてはいけないません。ローレライ教団の導師として聖獣チーグルに約束をしたのです」
「そうなんですのっ!」
それ以上の質問を彼はせずにイオンへと声をかけるがイオンは頷かず、それに同意するようにミュウが声を出す。
空気を読んでか大人しくしていたがライガのところに行かないかもしれない状況に会話に加わることにしたようだ。
「……チーグルが人間の言葉を?」
「ソーサラーリングの力です。このミュウを連れてライガと交渉をしなければいけません」
この様子だと森のどこかで追いつかれていたかもしれない。彼はチーグルが話すところは見ていたようだ。
「魔物と交渉ですか」
「イオン様、無理ですよぅ」
アニスが左右に首を振っている。
「でも……」
「私達には時間がありません」
「……ジェイド」
二人の言葉にイオンが理解してもらおうと口を開くが言葉となる前にジェイドが被せるように発言した。
「カーティス大佐、それはライガの元には行かれないということでよろしいですか?」
ここで行きましょうと同意を示さなかったのは私としては正しいと思う。
彼の今の立場からするとチーグル達の問題に関わっている暇はない。
ただ事情が事情なので放っておくことも出来ないので後ほど連絡はする考えだろう。
「よんどころない事情がありましてね。それと私のことはジェイドとお呼び下さい。ファミリーネームの方にはあまり馴染みがないものですから」
知ってはいたがジェイドと呼ぶように告げる彼、私としてはあり難いけど養子になってからどれだけ経ってると思ってるのかとも呆れる。
これでは親父殿と折り合いが悪そうな気がする。親父殿はカーティス家第一の人だからなぁ……養子が家の名を馴染みがないと言い切るのは我慢ならないだろう。
「そうですか。次からはそのように呼ばせて頂きます」
「ええ、そうして下さい」
声の質は似ているとは思うが男女の違いのために同一のものとはなりえない。
とはいえ、軍人と話している一般人ということで敬語を使用していると似ているとか思われないかと心配になる。
今のところはそのようなことを指摘する人間はいないが第一印象とかは大事だろうから、もう少し違いをだしたい。
いや、そういう風に演出すれば逆に違和感となって現れるだろうか?
「ライガさんのところには行ってくれないんですの?」
「私は行くよ」
考えていた私の耳に届いた言葉に否定の言葉を返した。
「えっ」
イオンとルークが驚いたようにこちらを見てきたし、軍人組も私の言葉が意外だったのか声を出さなくとも視線は感じた。
「早急に解決できるのなら解決したほうが良いことでしょ?イオンが行けないのならミュウと一緒に行ってこようかと思って」
ライガをそのままにしていいはずがないからではなく、出来ることならばその命をながらえてほしいという思いからだ。
交渉しなければ後に軍が彼らライガの群れを狩ることになるだろう。
それならば多少は生存する可能性がある話し合いという手段をとりたい。
……決裂した場合は私自身がその決着をつけるつもりだ。
「はぁ?」
「あ、ルークが嫌なら私だけ行くよ。ここで待っててくれると嬉しいんだけどな?」
私が交渉に行くと立候補している様子にルークが怪訝そうに見ている。
先程の交渉についての意見で私がライガとの交渉は否定的に考えていると思っていたようだ。
「嫌なんて言ってねぇだろ」
残ると言われるかと思ったが行く気はあるみたいだ。彼が残ると行った場合は不安があるがティアも残ってもらうつもりではあった。
これまで私が戦っていたのでティアは回復術どころか術を使う機会はなかったが使えるはずなので回復役は一緒に居たほうがいいからだ。
それ以上のことを今のティアに期待しようとは思わない。
「ありがとう。ティアはどうするの?」
「あなた達が行くのなら行くわよ」
あからさまに仕方がないという表情をみせるティアに顔が引きつりそうになる。
イオンの時はそういう顔をしていなかったような気がするんだけどなぁ。
「そう?ティアは神託の盾に所属してるんだから護衛として同行したほうがよくない?」
「それは……」
行きたくないのならそれはそれで構わない。
実のところルークが私と一緒に行動してくれるのならば彼女は必要はない。
それどころか守る人間が二人になるという点では面倒だ。
「大丈夫ですよぉ。イオン様は私が守ります」
アニスがジェイドが居るからかぶりっ子口調ではあるが私を見ているその視線はかなりきつい。
「導師守護役がお一人しかいらっしゃらない現状は大変でしょう」
「私だけでなく大佐もいらっしゃいますからぁ」
警護の手は足りていると伝えているつもりかもしれないがその言葉に思わず。
「今回のような事態にならないと?」
、僕が勝手に抜け出したんです」
口に出てしまった言葉に内心で舌打ちをする。
イオンを責めるつもりはなかったがそういう形になってしまった。
「……なるほど、確かに一理ありますね。どんな事情があれどイオン様を私達が見失ったのは事実何と言おうと言い訳にしかなりません」
「大佐ぁ!」
ジェイドが私の言葉を肯定すればアニスは驚いたように叫ぶ。
彼女としては自分達の力量のなさを見知らぬ女に指摘されて彼が受け入れるとは思っていなかったのだろう。
今の状況が気に入らないことではあったとしても事実は事実であると彼は認め。
「しかし、貴女が言うことではありませんね」
それと同時にただの民間人が指摘するべきではないという事実を私に告げる。
「そうですね。軍人ではないというのに差し出がましい口をききました。申し訳ありません」
彼の忠告の言葉に私は謝罪の言葉を返した。しかし、私は今後のことを考えるのであれば同じことをしなければならない。
心情としてこれから起きるであろうことが許せないことであり、彼らが生きていたのであれば違う道もあるだろう。
その為に賭けるのは私自身となるが怪しまれるのならとことんまで怪しまれるのもいい。
「そうだ。貴方にお会いしたのも何かの縁ですしお聞きしたいことがあります。
 軍の方は見掛けたクモをどうされるんですか?」
「えっ、ちょっと
唐突に関係ないことを言いだした私をティアが止める。その瞳が私の行動を非常識だと言っているようだ。
さて、私の言葉に彼はどう反応するだろうか。
この世界が私が・カーティスとして生きていた世界との違いが少ないのなら……

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