W大佐

証拠隠滅は重要です。あれ、何かを忘れたような?
〜2〜


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エンゲーブでは食品を扱う店は多い。特産の関係上それは当然のことなのだけれど今の私としては残念なことだ。
たぶん住人相手の物を取り扱っている感じのお店しかないみたいだ。
「ここは衣類関係を取り扱ってるっぽいね?」
私は良いけど今のルークだと生地とかに文句言いそうだし、とはいえやっと見つけた衣料店だ中に入らないとね。
「そうみたい」
「何で服を買うんだよ?」
自分の立場をよく理解していないルークが不思議そうに言う。
身分もそうだが旅支度もしていないことの危機感がないのだ。屋敷から出たことがないのだから仕方が無い。
「旅するには着替えが必要だよ。それにルークの着ている服の生地が良過ぎるから下はともかく上着は変えよう?
 そんな不満そうな顔をしないでよ。少人数の旅だとお金を持ってると思わせるのは危険なの!
 ティアは女の子なんだから一通りは揃えてね? 後で返してもらうからここは遠慮しないこと! わかった?」
「しかたねぇな」
「わかったわ」
二人が納得したのを見届けてから、私はブーツを換えるために手頃な物を探す。
新しい靴では違和感があるのだけれどこのままだと怪しすぎるからなぁ。
もういっそのこと上から下まで服を変えてしまえっ! 乱暴すぎる思考のもと気に入った服を探す。
・カーティスとしては着たことのないパステルカラーな柔らかな色合いの物を選びブーツは丈夫なものを一つ。
他にも自分のものとは別にルークのために幾つかの品物を選んだ。
そこそこ満足いくものを見つけたと納得したところで、一先ず私だけ会計をすませてブーツを先に換えさせてもらった。
後は上着を羽織れば見た目はだいぶ違うのでこの格好ならばジェイドやマルクト兵に見られてもいけるはずだ。
そして勿体無いけどブーツは証拠隠滅のために処分。上着についても同様にした。万が一、荷物検査とかされると面倒だし……
「二人は選べた?」
購入しているとティアが両手に服を持っている。数が多いわけではなく服で何かを包むようにして居る様子から下着類も選んだみたいだ。
ルークがいるのでそのまま持ち歩くのに抵抗感があるらしいと気付く、なるほど若いよね。
私ぐらいになるとまだ着てない物ならいいやって隠すことなく持ち歩きそうだと想像して女としてどうよ?とちょっと落ち込む。
「ええ、一応は」
「気に入ったのが見つからねぇ」
それぞれの返答は予測どおりだったけど、それではいけないので二人に近づく。
「……もう!探す気もなかったでしょ?だと思って特別にルークにはさんが選んであげたよ。
 はい、支払いは済んでるから上着を交換してね。ティアも支払っちゃおうかお金を渡すから足りなきゃ言ってよ」
デザインは今のルークの上着に似たような感じで触り心地がそこそこ良いものを選んだ。
着心地について不満そうに何かを言っているが笑顔で彼の上着を回収。背中のワンポイントって本当にあったのかと感動だ。
ティアが支払いのために店の人間と話している間にルークへと話しかける。
「そうそう、ルークは名前だけしか名乗らないように」
「ああ?何でだよ」
上着をコンパクトになるように畳んで荷物袋の中に入れる。
ネコババする気はないけどルークが気にした様子は無いのはお世話されることの違和感はないっぽい。
「たぶんルークはかなり良いところのご子息様ってやつでしょう?」
「まぁな」
否定せずに頷く。当人は自分の家がどれだけ高貴な御家柄なのかよくわかっていなさそうだ。
父親がしたとされている功績、私からしたら所業を知らないことからも自分の家に興味がないだろうけど。
「これでも観察眼は優れてるのですよ。身分が高いとかお金持ちの子なら名乗らない方が身の安全を得られると思うの。私にも念のためにこのまま言わないほうがいいよ」
ひどい話だが聞いていなければ知らなかったと通せるからだ。
きっと改まって接されるほうが彼は嫌がるだろう。ルークは本音と建前というものをまだ知らない。
「ふーん……俺は別にお前なら教えてもいいぜ」
そっぽを向いたルークが早口でいった。
声もあまり大きくなくてほんの少しの喧騒で消えてしまいそうなもの。
「信用してくれてありがとう。ルーク、でも教えられたら改まらなきゃいけなくなるかもだから言わないでよ。ルークとはこのまま付き合いたいから」
「……ああ」
それでも彼が私のことに好意的に接してくれる事実に嬉しくて自然に微笑む。
「後は綺麗な髪を隠すのは勿体無いけど結んで帽子を……結ぶのは私がするよ。面倒かもしれないけど帽子を被ってね」
「めんどくせぇけど仕方ねぇな」
ルークに被せた帽子を整えて彼の地毛が見えないようにする。
全部の前髪をしまうのは変な感じだから少し前髪を出してしまったが長髪時よりは目立たない。
「うん、よろしくね」
私はお節介といわれるぐらいに世話をやこうと決めた。
まずはルーク生存のためには大爆発現象を起こさせないようにしなければならない。
同調フォンスロットを開けさせないようにするのは当然のことだとして次はどうすればいいのだろうか。
ルークとアッシュの距離も問題だろうと思うし……
、支払いが終わったわ。後で必ず返すから」
支払いを終えたティアからお金を受け取る。
本当のところはお小遣いとしてあげてもいいんだけどティアは気にしそうだし。
「はいはい、老後のためのお金だからよろしく」
逆に返してねって答えることにした。
「老後ってそんな歳じゃないでしょ?」
「いやいや、人間って意外と老けるのがはやいもんだよ」
老後については君達よりも20年は早く考えないとダメなのなどと正直なことは言えないので曖昧に笑って誤魔化す。
って意外とババアなのか?」
「……ルークぅ?何って言ったのかなぁ?」
ババアという発言をしたルークを睨む。流石にババアはない。まだまだ前線で働けるお年頃なんだからね。
「なっ、何でもねぇ」
「なら、いいけど。あとルーク下着は自分で選びなさい。旅でも最低下着ぐらいは換えないと! お金もこれぐらいあれば足りると思う」
私の視線がどれだけ怖かったのか慌てたようにルークが首を振ったので、それ以上何か言うこともないと思ってルークに少し多めにお金を渡す。
「一人で買うのか?」
一人での買い物に不安そうに私を見てきたルーク。本人はそれに気付いていないのが萌えるね。
「そっ、私達は同じ店内に居るんだから何かあったら呼んで」
萌えても買い物の手伝いはしないで、ルークの背中を軽く叩き、彼の背中が商品の棚に間に見えなくなるまで見送った。
はルークのことを気に入ってるのね」
「うん」
私がティアに話しかける前に彼女から話しかけられた。
その声が不思議そうなのは仕方がないのかな。
「どうして?」
「?」
「私は彼の態度ってあまり褒められたものではないと思うわ」
気に入らないといった様子の彼女に何を言えば良いのかと迷う。
ルークの正体を知らないはずの私がルークの事情など言えないし真実など言えるはずもない。
証拠がないからでもあるが一番の理由は今言ったところでどうしようもないからだ。
「んー、ティアはあまり貴族と関わったことがないのかな?」
真実ではなくティアの心を解す方向で話を進めることにする。
「私はダアトから出たことがあまりないから」
素直に頷いた彼女に私は笑いかけ。
「そっか。ルークの態度だけど貴族としては少し変わってると思うよ」
「やっぱり」
納得したような声を出したのは私の言葉の意味を誤解したからだろう。
「あんなに優しいのは珍しい」
その誤解をとくために言葉を続ければティアが目を瞬かせた。
「優しい?」
「言わないけど態度がね。ルークは優しいんだよ」
「私にはそうは見えないけど」
否定の言葉に私は頷く。確かにルークの態度は褒められたものではない。
私としては知っていることで彼の態度も好意的に見ているのは自覚している。
「ティアはああいうタイプが初めてなんだろうね。
 素直じゃない優しさというかルークは自分でも隠しちゃうタイプかな。
 魔物の命を奪うことですらルークはためらってた」
「それは優しさというより甘さよ」
すっぱりと切り捨てる彼女はルークに自分と同じ価値観を求めている。
「そうかもね。でも、その甘さを私は嫌いじゃない命の尊さを彼が解ってるって証だと思う。
 それにさ、ルークは戦わなくてもいいのに戦ってるんだよ。
 女である私達に守ってもらうのが嫌だという気持ちもあるかもしれないけど、
 本当のワガママな人間なら自分で戦ったりしないし、戦うにしても失敗をすべて人のせいにしたりするんだよね。
 ルークみたいな子は注意すると意固地になっちゃうからなるべくなら優しく言ってあげてね。
 彼と付き合うコツはやんちゃな子どもを相手にするような気持ちかな。ちょっと手のかかる弟的な」
彼女の間違いも全てが間違いとは思わないけれどそれは状況が違えばだ。
真実を知っている身としては少しだけ物事の方向性を変えようと試みる。
「……って幾つなの?」
私の必死の、表面は軽く聞こえるように喋ったことをティアは話をさえぎることなく聞いてくれたがその返答は期待したものではない。
「幾つぐらいに見える?」
でも話を戻すのも不自然と思ってそのまま話を続ける。
「そうね。23ぐらいかしら」
10歳以上も下に見られたよ。雪国の神秘にしてもかなりすごいね。
それとも私の態度からそんなに年上じゃないという判断かもしれないけど。
「そっか。それぐらいに見えるのかぁ」
「教えてはくれないのね」
目を細めて私を見る彼女の視線ににっこりと笑う。
本家本元のジェイドの真似で手に入れた胡散臭い笑顔で。
「女は二十歳になったらそれからずっと二十歳なの」
「違うわよ。まったく」
クスクスっとティアが笑い出した。
「買ってきたぞ……って、何を笑ってるんだよ?」
「おー!よく頑張りましたっ!お釣りはルークのおこづかいね」
足りないと言われたわけではないのでお金は残っているはずだ。
「おこづかい?」
「ん、ルークが好きに使ってもいいお金ってこと。ルーク頑張ったもの」
「ふんっ、これぐらい何てことねぇ」
照れてるルークにきゅんきゅんしますよ。可愛すぎる。
「……の言っていたことが少しわかったかも」
「何だよ?」
「何でもないわルーク」
「なっ!……そうかよ」
笑ったティアを見て赤面するルーク。
何だか今のところは二人の関係が良好っぽくなってきたぞ。
このままいってくれると大変嬉しいんだけどなぁ。

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