W大佐

証拠隠滅は重要です。あれ、何かを忘れたような?
〜1〜


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「お前って最初に値段交渉した上に値切るなんてケチなんだな」
「ルークっ!私達はお金を借りたのよ」
エンゲーブで辻馬車から降りたところでルークが呆れたように言った。
オールドランドは物価が安くない世界なので少なくない金額を持ち歩いていた。その為三人分となる36000ガルドを持ってはいたが、今後のことを考えると無駄遣いはしたくない。
そのために最初に値段交渉し、エンゲーブで降りることにした時も多少のガルドを返してもらったのだ。
「お金は湧き水の如く湧きでるものじゃないからね。無駄遣いはダメ。ティアもお金のことは気にしなくていいよ。超振動で飛ばされて荷物とかないんでしょ?」
そのためケチというのは外れてはいないのでルークの言葉を否定はしない。とはいえ、お金を借りている身である人間の態度ではないとティアは判断したのだろう。
彼女はルーク以外のことに関しては察しがいいのだが、ルークとのことは相性とかの問題なのかな。
「ごめんなさい。
「俺が金を借りるハメになったのはお前のせいだろ」
「……」
私に謝るティアの横で文句を言っているルーク。
彼の言葉も間違いじゃないけど流石にその態度が続くのは困る。
「ルーク、人の好意を当然のことと受け入れないの。
 親切にされた時には感謝して次に自分が困ってる人を助けてあげる気持ちを持たないと」
「うるせぇ、俺は……」
説教癖がつくのは私としては嫌。
ただルークの将来を考えれば口うるさく言うことも必要だ。
「今はよく解んなくてもいいよ。ルークは頭の良い子だから理解してくれるでしょうし」
0からのスタートで7年でそれだけ喋れるようになったのは優秀だ。
ただその口調からして手本にした人物は口が悪い人なのかもしれない。
……あれれ、そうするとガイって口が悪いわけ?それとも他に要因があったのか。
「どうでしょうね」
私の言葉に照れて何も言えなかったルークの隣で否定的なことを言うティア。
「なっ、好き勝手に言ってるんじゃねぇ」
「先に行ったらダメだよルーク」
「俺の勝手だろ放せよ」
ルークが怒り先に歩き出したので彼の服をつかむことでその歩みを止めさせる。
「やだ。おいて行かれると私が寂しい」
「はぁっ?」
「そういうことだから一緒に3人で見てまわろ」
素っ頓狂な声をあげるルークの目は気にしない。奇妙なものを見るような目はザクザクと私の心を抉るけどね。
ルークの服を放すと先導するようにルークの前に出て進む。
渋々ながらも私の後からついて歩くルークの後ろを歩くティアが恥ずかしそうに見えるのはもしかしなくとも私達の会話の所為だ。
実は私とルークの会話に周りの人から注目されていたんだよね。
「寂しいって俺より年上だろ」
肉体年齢としては約2倍、精神年齢としては前世の分を入れなくても約5倍。私の身体は技術はともかくとして身体能力のピークは下がっていくばかりだ。
前線で戦えるのもあと10年ぐらいかね。その頃には早めの引退して可愛い娘と過ごそう。娘婿になるだろうイオンとは口舌バトルを繰り広げることになるだろうけどさ。
「女性の年齢について不必要に触れちゃいけません。これは世界の常識だよ」
「何だそれ」
明るい未来のことを考えて気持ちが浮上した私はルークからの年齢話題にも明るく答えた。
私が望む将来のためにはこの世界を救わなくてはいけないので、基本的には物語の通りに進めていくことになりそうだ。
準備期間が短すぎるのが問題だが無いよりはマシだと判断しよう。
ルーク達とはどのタイミングで別れるべきかは悩みどころだよね。
「世界にはルークが知らないことが一杯あるというわけですよ。おお!その林檎美味しそうだね?」
大量の林檎が幾つもの箱に積まれているその様子に足を止めて声をかける。
「あぁ、自慢の林檎だよ」
「本当だ。うまそうだな」
何も考えていなさげなルークが林檎に手を伸ばそうとしたのでその手を叩き。
「こら、食べ物なんだから勝手に触らないの。お兄さん林檎を三つもらえるかな?」
「美人のお嬢さんに煽てられたんだ一つ45ガルドのところを三つで120ガルドにするよ」
「どうもありがとう。じゃあこの三つ貰うよ」
120ガルドを支払うと美味しそうな林檎を三つ選び一つをルークに手渡す。
「はい、ルーク」
「おう」
差し出した林檎を受け取ったルークに注意。
「ルーク、もらった時はありがとーでしょ?はい、ティアもどうぞ」
「ありがとう」
ルークに注意したからと言うわけではないだろうがティアからは御礼の言葉がもらえた。
「そうだ。ルーク、ほしい物がある時は私に言ってね? 必要な物は買うからさ」
買い物について知らないはずのルークにゲーム中のようなことが起きないようにそれとなく教えておく。
あれがあるせいでルークはティアとジェイドに見くびられていたような気もするしね。
「んぐ……何でだよ?後でまとめて支払い……そうかここはマルクトなんだよな」
ルークは自分の持っている知識の中にあることなら頭の回転がすこぶるいい。
逆に知識の範囲外は模範解答がないために、混乱に陥りやすいが彼の実年齢を考慮すれば当然のとこだと思う。
「そういうこと、物を買うためには普通はお金と引き換えなの。
 ルークの家はお金持ちみたいだし、普段から取引している店から信用されてるんだろうね。
 でも、ここはルークのお家からは遠く離れているのでその信用がないってわけ。
 ちなみにお金は金貨以外にも銀貨と銅貨があって銅貨は魔物を倒した時に出た物だよ。ルークに拾い集めてもらったやつ」
「へぇ」
「……感心するところかしら?」
私の説明に頷いているルークにティアが呟いた。
その呟きにルークがムッとしたように口をへの字に曲げたので彼が何かを言う前に私が口を開いた。
「あはは、知らないことを知った時に感情を伴うのは悪いことじゃないよ。
 なのでルークは知りたいことはこの自称物知り博士の博士にお任せです」
「博士って頭良さそうだな」
その発言の中からルークは博士という言葉が気になったらしい。
いや、私としては色々と訊いてねってところをチョイスして感心してもらいたい。
「自称って言ってるのだから自分で名乗ってるだけじゃないかしら」
この世界では自称になるけど、元の世界ではちゃんと博士って呼ばれてましたよ?
譜術研究第一人者とまで言われたというのにティアの冷めた目が痛い。
彼女は知らないのだし、この態度では知識量なんてわかんないよね。
やはりインテリはインテリな雰囲気を出してこそ博士というのは、価値を発揮するのかもしれない。
「それ信用できるのか?」
「専門知識はともかくとして雑学はよく知っているのかもしれないわ」
こちらに聞こえないようにしているつもりなのか二人は小声で話している。
仲良くないと思ったのに意外とお話をするんだね。二人共っ!
「わー、二人の私への信用っぷりに涙が出そう」
でもね。それが私についてそういう話なら泣いちゃいますよ。・カーティスの涙腺は意識すれば本物の涙が零れ落ちるのだ。
5歳から続く約30年間の長年の演技力を舐めるではないっ!まぁ、口調とか変えていただけでそれほど演技していなかったかもだけど。
最近では逆にこの口調のほうが違和感があるわけなんだけど、でもこれが前世のお気楽『』なので口調を変えることにも違和感がある。
私はどちらが本当の自分なのか近頃はよくわからなくなっているが、前世よりも今世のほうが長く生きているのだから当然のことだと結論付けた。
世界の危機に悩む時間が惜しすぎて出した棚上げでしかない結論だけど意外とあっていたのか悩む対象ではなくなった。
「うわっ!泣くなよ」
「別に信用していないわけじゃないのよ」
「いいさ、いいさ。二人は私の知識の深さに驚き戦慄くがよい」
「わななく?」
ちょっぴりかっこつけのために難しい言い回しをしたらルークはわからなかったみたい。
「んっ?今回の場合は驚きすぎて身体が震えるぐらいって意味の使い方」
、そういう言葉はルークは理解できないわよ」
少しばかり難しい言い回しだったので、彼のために説明をすればティアがキツイ一言。
確かに今は理解できないことが多いけど7歳でこれだけ話せるのはすごいと思う。
この世界って1年が前世の約2倍だけど精神年齢の成長は遅いのか歳相応なんだよね。
「馬鹿にすんな」
「大丈夫、ルークだったらすぐに色々と覚えるよ」
「なっ……うるせぇ」
笑って言えばルークに怒鳴られた。
照れ隠しにしてもちょっとうるさいぞ。
「ルーク、そんな言い方は」
「ティア、ルークは照れてるだけだよ」
ツンデレだねっ!今のところ私の中でのツンデレ代表はオリジナルの導師イオンだよ。
ただ彼ってヤンデレの気質が香るツンデレなのでアリエッタがイオン以外を選んだら地獄になりそうで怖い。
ちなみにクーデレ代表はサフィールだ。私以外の人間に対しての態度はクールなんだよね。
私へのデレを減らして周りに振りまけば喜ばれるだろうに……特にご婦人方に。
「はぁ?何ばかなこと言って……」
「よし服をみよっか!」
元の世界のことを思い出してしんみりしていた気持ちを切り替える。
現在のやるべきことのリストの中でも最重要、衣服の変更を遂行するべく作戦を開始する。
私の今のブーツは見る人が見ればマルクト将校しか履くことが許されないものだとわかるんだよ。
これでジェイドに会うことは絶対に出来ないことだ。将校の身分詐称ってかなりの罪になる。
「ちょっと!
「おいっ!話を聞け」
二人と少々強引に腕を組んで衣服を売っているお店を探しにその場を離れる。居るとは思えないがマルクト兵とかが万が一にも私を見て気付いたら嫌だしね。

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