W大佐

ルークとティアと頼れるお姉さんの私
〜2〜


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ルークはティアが言う気がないことに不機嫌そうだけどそれ以上の追求は一先ず諦めたみたいだ。
「これから君達はどうするの?」
お互いに無言で睨み合っている二人をそのままにしておけずに私は今後を尋ねる。
「私が彼を屋敷まで送っていくわ」
「そんなこと俺は言ってないだろ」
「私の責任だもの」
ルークを連れて帰ると宣言をするティアへ。
「捕まるかもしれないのに?」
驚いたようにルークがティアを見ているのは彼女が捕まるとは考えていなかったらしい。
屋敷に侵入したことをあまり深刻に考えていなかったのかな。
「捕まるのだとしても私が連れ出してしまったことには変わらないから……」
責任感が強い彼女としては放ってはおけないようだ。
知っていたことではあるけれど、捕まるとしてもその考えを変えない彼女には好感が持てた。
人というものは嫌なところもあるけど良いところもある。私はアビスのパーティメンバーは個々としては嫌いではないのだ。
ただ一人の少年に罪を押しつけて自覚が無い彼等が嫌で、そんな未来があるかもしれないのが苛立つのだ。
「君も不可抗力とはいえ連れてきてしまった責任を取るってことか。まっ、心配だししばらくは二人について行くことにする。ここで二人と出会ったのも何かの縁だし」
険悪な雰囲気を漂わせている二人とは正反対に軽い口調で私は言った。
彼らに合わせていると雰囲気が悪くなってしまう。生真面目ティアとワガママ貴族なルークは空気がツンツンなので困る。
これが仲間が増えてもあんまり変わらないどころか悪化するのがアビスの恐ろしいところだ。
「心配って何だよ」
「私は軍人よ」
口々に不満そうに述べる二人。私はルークの腰にある木刀を指差し。
「木刀だと心許ないでしょ? 私だって木刀で戦闘はしたくないよ。それと君は人を守りながら戦えるの?
 ルークは木刀を持ってるし、剣術の鍛錬はしてるかもしれないけど実戦レベルまでは鍛えてないと思うよ? 守ってあげなければいけない人だ」
「あっ」
ティアは自分は後衛だからと守ってもらう気だったようだ。
貴族それも王位継承者に頼むことではないと彼女は知らないのだろう。
「俺は弱くねぇ」
こちらは不満らしい。確かに弱いと言われれば負けず嫌いっぽい彼には不満かな。
「あはは、やだなぁ」
「うわっ」
私はルークの背後へとまわって腰に手を回す。身体を鍛えてはいるようで、ルークの腰はそれほど細いわけではなかった。
基礎となる身体が出来上がっているからこその実戦であれだけ強くなれるのか。納得だね。
「……こうやって私に捕まっちゃうんだよ?」
「はっ、放せよ!これは油断してたからだっ!」
ルークの腰を堪能ってこれではただの変態だ。
当初の目的である『私の動きについてはこれまいっ!フハハハハ作戦』の言葉を言っておく。
何でか私は昔から名前付けやら作戦名は皆にダメだしされるのでこの作戦名は心の中にしまっておくけど。
「どんな時も油断したらダメなんだってば! ルーク、戦うのはいいけど無茶はしないように」
放せと言われたので残念だけれどルークから手を放すと先ほどの位置に戻る。
「えっ、戦ってもいいのか?」
私の言葉が意外だったのかルークがきょとんとした顔をした。
その表情に私の中の可愛いもの好きセンサーが反応してきゅんきゅんしたが、ここはちょっぴり頼れるお姉さんのなので我慢しておこう。
もう少し仲良くなったら頭撫でたりしても嫌がられなくなるかな。あんまり嫌がることはしたくないし。
「戦いたいのならね。ただ無理ならすぐに言うんだよ? いきなり実戦なんだから準備万端ってわけじゃないんだし。
 それにしばらくは私が居るんだから、このさんを頼ってくれて良いわけです」
「そんなに強そうに見えねぇけど」
鍛えているとはいえど筋肉ムキムキとかじゃない細い身体では説得力はないのかな。
これは私の実力を見せて、頼りになるお姉さんの地位を築きあげるとしよう。ルークに信頼されないとね。
「そういうわけで、ティアはルークのことを見てあげてね?」
心の中で誓いを立てつつティアにもお願いをする。
ルークとティアのカップリングは嫌いじゃなかったし、付き合うのならどうぞなのだよ。
「ええ、わかったわ。貴方には迷惑をかけるけど」
「いーよいーよ。ここで会ったのも何かの縁だし」
ティアからの気遣いの言葉に首を振る。これは彼女達の所為ではなくどこぞの第七音素の塊が悪い。
この先の苛立ちや悲しみといった負の感情は奴の抹殺計画の糧とし、必ずや計画を遂行するつもりだ。
「ありがとう。そういえば貴女の名前を聞いてないわ」
「私は。私も貴女の名前を聞いてないな」
ここで名前を知りたいのなら先に名乗れとか言ったらKYこと空気読めだよね。
穏やかな雰囲気をこのまま続けたい私は満面の笑みで答えた。
「ティアよ」
「俺はルーク」
ティアは知っていただろうけど今までそんな様子は見せていないからルークも名乗った。
私が名前しか名乗らないからか彼らも名前しか名乗らないのでルークが貴族と気付く理由付けにはならない。
そのお陰で私はルークに気安い態度をとっているわけだけどね。
「自己紹介が出来たところで、今後の計画を立てよっか!」
さて、ここでの選択は重要だ。素直にバチカルに送り届けるか物語と同じように進むかどうか。
バチカルを目指す時は通行証がないから国境で足止めされるんだよね。
ルーク達がいなければ単独で国境越えとか出来なくはないと思うけどルーク達を連れては難しい。
情報の無いヴァンだと居ない可能性だって考えられるし、ガイと合流も難しいかもしれない。
だって、この広い世界でどうやってガイはルークを探せたのか考えればヴァンからの情報提供だろうしね。
ここは無難に物語どおりに進むのを黙ってみてればいいかな? もしもバチカルって教えられたらバチカルに向かうとしよう。

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