W大佐

ルークとティアと頼れるお姉さんの私
〜1〜


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タタル渓谷で気がついた時、私は一人ではなかった。
私が気がついた近くでは夕焼け色の髪を持つ少年ルークと栗色の髪をしたティアが気を失っていたからだ。
・カーティスの世界のローレライはまさに悲劇の旅の始まりへと私を導いたらしい。
滅べローレライっと心の中で呪文のように繰り返しながら私は自分の装備を確認する。
任務中であった為にマルクト将校の制服だがピオニーによる無意味どころか多少、動きづらい気がするスカートという特別仕様だ。
女性将校だからって幼馴染にミニスカはかせようとするのは阿呆だと思ったが気にした様子なくはいてやった。
そしたらタイツもはけとかわけわからんことを言いやがったのでその後も嫌がらせの為にミニスカはいてた自分を褒めてやりたい。
でも、歳を考えてくださいって誰も言わないのが不思議だったんだよね。怖くていえなかったのかもな。悪いことをした。
まぁ、今回はそれで助かったからよしとしよう。目立つ青の上着を脱いで手袋も外す。
ブーツも変えたいところだけどないのでエンゲーブについた時にでも買い換えることにしよう。
腰には剣を帯びているが、これは武器を持っていると外部に示すためのものでしかなかった。とはいえ、今後の旅で得意武器の槍を使うわけにもいかないので剣での戦闘をすることになるだろう。
剣自体は良い物だし、槍術ほどではないが剣術だって弱いわけではない。少なくとも実戦経験のないルークよりも強いはずだ。
私が居る時点でどれだけの相違点があるのか予測がつかないので色々と考えておけば咄嗟のときに反応できるはず、不測の事態も考えて財布と回復アイテムを持ち歩いてる自分だがこんなのは予測していなかった。
ゲームの世界のキャラに成り代わり転生して平行世界に行くってありえない。まぁ、そのありえないことが起きたのが現状なんだけどさ。
さて、パッと見はマルクト将校とは思われないようになったところでルークを起こすとしましょうかね。
ティアではないのはゲームだと彼女の方が先に起きたのですぐに目覚めるだろうと判断したのと、私の知るティアとは違う人であることが話すことをためらわせるという理由からだ。
私が生きた世界とこの世界の人々は違うと認識するようにはしているが、ここはワンクッションなのですよ。
テンションを・カーティスとしてよりも高くして、声も高めに意識し。
「起きて」
地面に膝をつきルークへと声をかけ軽く揺さぶる。
私の見た目は男女の違いのためかジェイドよりもネフリーに似てるので親戚と思われるかもだけど、この世界のジェイド・カーティスにレプリカと疑われることはないだろう。
心で思っていることをなるべく素直に表現していけばいけるはず。
「……んー……」
「ねぇ、起きてよ」
すぐには起きないようで眠そうにルークは眉を顰めている。
移動で疲れている可能性もあるがこのままではいられないので、心を鬼にして言葉をかけ続ける。
「ん?……誰だ?」
ルークが目を開けると見覚えのない私に不思議そうに尋ねてきた。
屋敷の不法侵入した人物と会ったばかりだというのに警戒心がない気がしたが寝惚けている可能性がある。
「私は、君は?」
「俺はルーク……いてぇ……」
ルークが身を起こしたが痛みを感じたらしく動きを止めた。
「大丈夫?気を失っていたわけだし急に動かないほうがいい」
「気を失って?……ここはどこだよ?あっ!屋敷に忍び込んできた奴!」
見回したルークがまだ気がついていないティアを見て大きな声を出した。
その様子から先ほどの彼は少しばかり寝惚けていたみたい。
私はルークの言葉に不思議そうにしているように見えるように首を傾げ。
「屋敷に?この辺りには家なんてないはずだけど」
タタル渓谷にセフィロトはあれど家は無い。
「嘘じゃねぇ!ただ気がついたらここに居ただけだ」
私の否定にルークが大きな声をあげる。この子は自分への否定的な言葉が嫌いなのだろう。
それがどんな内容であれ……なるほど、人付き合いにつまづくのも無理はない。
彼の環境を考えれば考慮出来る範囲だが知らない人からすればただのワガママだもんね。
「それって誘拐事件かな?」
「誘拐なんてしていないわ」
私の言葉にティアが否定しつつ身を起した。
ティアの意識が戻ったのは知っていたので彼女に聞かせたのはワザと。
人の気配を感じるなんて前世では考えられないんだけど、あれから遠くに来たものだ。
「起きてたのか」
「貴方の声で気がついたの。貴方と私は超振動を起こしたのよ」
「ちょうしんどう?なんだそりゃ」
彼は聞いたことも無いのだろう素っ頓狂な声をあげた。知らないことを隠さないのは知ったかぶりされるよりはいい。
大人になると聞いて馬鹿にされないかとか恥を考えるようになるのが問題だよね。
ルークにはこのままで居てほしいものだけど、ゲームの通りだとそれは難しそうだ。
「音素同位体による共鳴現象よ。あなたも第七音譜術士だったのね。うかつだったわ」
「おんそどういたい?」
ティア、超振動を理解していなさそうな時点でその説明は難しいだろうに。
彼女も内心では落ち着いているとはいえないだろうから、説明役をかって出るとしますか。
「この世界を構築するのが音素と元素だというのは知ってる?そう、知ってるのね。
 音素は第一から第六までは属性があるけれど第七音素は例外的な音素で属性がないの。
 どうしてかは知りたければ後で詳しく説明するから聞いてね?
 でね。この第一から第七の音素は一つの例外なく常に振動しているものなの。
 そしてその振動は音素があるものならどれでも振動していると考えていいわけなんだけど。
 振動が同じだと共鳴しやすいのよ……あっ、共鳴というのはその振動の振幅が大きくなることね」
「あぁ」
手を軽く揺らしてから大きく揺らす。いきなり説明をしだしたというのにルークは大人しく聞いている。
何となく解ったのか彼は頷いているが、ティアが微妙な表情なのは私が急に説明を始めたからだろう。
「それでね。あんまりその振動が大きくなり過ぎるとありとあらゆる物質を分解……
 人だろうと物だろうと目に見えないぐらいにバラバラにしちゃった後に再構築という元通りにする現象が起きるの。
 その現象のことを超振動というんだけどね。普通はあんまし起きない珍しいことなんだよね。
 人を二人分、分解構築するなんて大きな現象が起きたのは第七音素だからだと思う。
 まぁ、また同じような体験を今後することはないだろうし、凄い体験できたと思えばいいかな?
 ……でも、どんな接触したの? 普通の接触で起きる可能性はゼロに近いほど低い数値なんだよ?」
なるべく解りやすく説明したつもりだが、ルークが理解したかは半々かな。
たぶん何となく解ったって程度だろうけど全くわかんないよりマシのはず。
しばらくは何も無ければ二人について行くつもりだし、暇な時間はお喋りというお勉強に当てようかな。
「あっ?俺がコイツを止めたんだよ」
「止めた?」
知ってはいても私の今の立場上は聞くのが普通だろうから訊く。
「それは……」
「関係ないことでしょう。口出しをしないでくれないかしら」
素直に教えてくれそうだったルークの言葉を遮るティア。彼女はルークの正体を知っているはずなのに凄い行動をするものだと思う。
ゲーム通りのティアだとすれば、ルークのことは貴方自身が偉いわけではないとでも思ってそうだ。
私の世界のティア・グランツは礼節を重んじる良い子だったのに何が違うのか? やはりヴァンが違うからか。
あぁ、でもヴァンが違う理由ってジェイドの実験のはずだから……ダメだ。本家ジェイドが悪いという結果になる。
人が憎悪で歪むのは当然の結果だが預言を憎むヴァンであっても過程が違うため差異が表れたのだろう。
「……そう、それなら私は別にいいけど。ルークはどうするの?」
「えっ?」
詳しい説明を彼女から訊かずに流してルークへと声をかける。
「詳しいことは聞けてないけど君は彼女と超振動で屋敷から出てしまったみたいだしね。
これでも腕には多少自信があるから、私が君を屋敷に帰れるまで護衛しようか?」
「護衛って……」
女である私に守ってもらうのをためらっている様子だ。
初めて外に出て不安一杯だと思うのに……うん、男の子だね。
「君の服装はかなり良いものだけど、持ってる武器は木刀。どう考えても実戦では危険だよ。この辺りの魔物が幾ら弱いと言ってもね」
魔物という言葉にルークが微かに肩を震わせる。見たことも無くただ怖さだけを教えられた存在に恐怖するのは正しい。
本来なら魔物を見るとしても多くの護衛に守られ、安全な場所から見るような地位に彼は居るのだから。
「大丈夫よ。彼は私が送り届けるから」
「君、妙なことを言うね? 屋敷に忍び込んだ犯罪者なのに彼を送り届けるって捕まりにいくの?」
思わず笑いそうになった何が大丈夫なのだろう。私は今だって彼女を拘束するのにためらいはないのにのん気なものだ。
ただ今それをするとルークから止められるだろうという考えと、彼女の血統が必要という点では彼女の好感度も必要だからだ。
「私は犯罪者じゃないわ」
「普通は他所様の家の敷地内に無断で入るのは犯罪だと思うけど?」
「そっ、それは……事情があったから」
ただその罪をまったく自覚していない彼女は頭が痛いけど。
「事情って何だよ?師匠を襲う理由ってさ」
貴族の屋敷にどのような理由があれ忍び込んだ時点で重罪だ。
それだというのにルークが理由を聞こうとしているのは優しさか。
「貴方には関係ないことよ」
「なっ、何だよそれっ!」
ルークがティアの拒絶に叫び、感情のままに動くルークをティアが冷たい目で見ている。
「……人の屋敷に侵入しておいてその発言とはローレライ教団も堕ちたものね」
そんな目で見る資格があると思ってるのか彼女は?
反省の色の無いティアに苛立ちのあまり声が低くなってしまった。
ヤバイヤバイ、元の世界の軍人・カーティスはここではお休みです。
「ローレライ教団って師匠と同じ」
「今回のことは私個人の行動で教団は関係ないわ」
組織に属する者がその証を身につけて関係ないとは笑わせる。
人が罪を犯す時には正体を知られないようにするのは鉄則だというのに。
彼女が罪を罪と認識していないからの思考なのだろうけど……
「それなら制服を着て襲撃するのはおかしいとは思わないの? あぁ、逆に怪しすぎて違うって思われるように?」
私が彼女のことを聞いたとしたら犯人はよほどの馬鹿か教団に罪を被せる気だろうと考える。
そして、どちらにしろ教団に問い合わせることだろう。譜歌を使う栗色の髪をした女のことを。
ああ、問い合わせたからこそバチカルにモースが来ていたのかもしれない。
「貴女、物事をそういう見方しか出来ないの?」
「そういう君のほうこそ相手の立場になって考えている?」
「どういう意味かしら」
ティアは真面目といえるが想像力はない。だからこそ表面上で多くのことを捉えてしまうのだろう。
「裏なんてないそのままの意味。君が今の彼の立場だとして考えてみた? 自分の家に侵入してきた人が人を襲ったとして、
 その後に君はその人と話す機会があったとしたら理由を訊かないの? 私は訊くよ。返答次第では実力行使も考えるしね」
侵入してきた時点で実力行使で捕まえるかどうかするだろうけどね。
ただやはり譜歌はかなりの反則なので抵抗出来るかは疑問かな?
ローレライを取り込んでないヴァンだってそこそこ強いはずなんだし。
「あっ……ごめんなさい。ルーク」
私の言葉に理解したらしく彼女の顔が青ざめた。
とはいえ、たぶんそれでも本来の罪の重さなんて自覚していないんだろう。
「っ!……別に。それで理由は何なんだよ?」
「申し訳ないけれど言えないわ」
「そうかよ」
二人の会話からそれがうかがい知ることが出来る。
それでも一応の反省はしてくれたティアなのだから心根は悪くは無い。
彼女が過ごしたところがユリアシティという時点で外のことを彼女も知らないのだし、そう思えば彼女の行動も許容範囲としてここまでのことは受け入れよう。
アクゼリュスが崩落した時の集団リンチを起こさせなければいいのだ。
万が一にでも起きてしまった時はルークを連れて逃げることを脳内のメモにでも記しておくことにした。

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