W大佐
最初に私の話を聞いて頂けますか?
〜2〜
研究を続けながらも国境やホドに関した情報は耳に入れるようにしていた。そのため比較的に早く国境がきな臭いという話を聞いてすぐにホドに向かうことができた。
本来なら軍属である私は連絡をすぐに付けられるようにしていなければならないのにそれを少々怠り、ホド崩落の時をホドで迎えることとなった。自惚れかもしれないが、報せていたら上は私を引きあげさせようとしただろうと思う。
ホド崩落に巻き込まれたくはなかったが、崩落が起きる時がいつか正確にいつかは知らなかったことと少しでも犠牲者を少なくしようとホド崩落を訴えたからだ。が、誰も信用してもらえなかった。フードを被った怪しい男という私が変装した姿には説得力が無かったのだろう。
ホドに駐在しているマルクト軍が怪しい人物である私を捕まえようとしたので一人一人を説得する時間は無かった。それでも一人でも多くの命が助かるように願って、私費で船を幾つか用意したがどれだけの人が助かったのかはわからない。
ただ本来の物語と明確に違うと確信できるのは、ガルディオス家の遺児となるマリィベル・ラダン・ガルディオスとガイラルディア・ガラン・ガルディオスの二人の保護に成功したことだ。共にホドを脱出したペールに二人を託し、その時に今の皇帝ではなく次代の皇帝を頼るようにと言いそれを預言だと言ったあの私は阿呆だと思う。彼らが預言を詠んだりしたらそんな事実がないことを理解するだろうから。でも、その時はそれ以外に思い浮かばなかった。
その後すぐにグランコクマに戻ったものの戦争勃発時に連絡が取れなかった自分は叱責され減俸、謹慎などを受けることになった。
戦争に行くことを思えばそれは願ったり適ったりといったところだったが、謹慎後すぐに私は前線へと送られ、誇ることなどできるはずもない経験を私は重ねていきその度に私は強くなった。死にたくなければ強くなるしかなかったからだ。そうして私は二つ名という前世では得たことの無いものを得た。死神だ。青き死神やらマルクトの死の紡ぎ手やらと呼ばれた。
死神はディストじゃないかと思ったが、私は死霊使い(ネクロマンサー)と呼ばれる行為をしていない。そのために私に死神という不名誉な称号がまわってきたらしい。
最早、自他国どちらにも通じるその二つ名は撤回出来ず諦めるしかなかったし、死神・カーティスとはなんと私に似合いな二つ名だとか一時は腐った。
ネフリーの為に復活したというか、ネフリーの手紙で復活した。私の身体の半分はネフリーの愛で出来ているというのが、私の持論で昔ピオニーに言った時には否定出来ないと肯定の言葉をもらったほどだ。
復活した私は戦争を生き残りグランコクマに帰ることが出来た。帰還時にはピオニーが会いに来て私の無事を喜び、ネフリーにそのことを伝えに帰っていった。
私自身は戦後の後始末もあり、いつネフリーに会いにいけるかわからないので急ぎ書いた手紙を彼には持っていってもらった。戦争から無事に生きて戻ってきたこととネフリーに会いたいという気持ちを綴った手紙を。
そしてサフィールの方も研究だけしているわけにはいかなくて戦場に出ていた。そして、私より遅れてグランコクマに戻ってきた。無事に。
共に戦う機会がなかったので知らなかったがサフィールにも二つ名がついていた死神、そうお揃いだった。ただ彼の場合は白き死神、マルクトの死の運び手と私とは若干違ってた。
聞いた話だとその二つなの切っ掛けはサフィールが率いる部隊が殲滅戦をしかけたからとのことだった。
私の敵を撹乱させることが目的の電撃戦と違う戦い方だけど、どちらも敵側に大打撃を与えていたからキムラスカ側からしたら私達は死神で間違いない。
不名誉な名称だと私は思うがサフィールはそう感じていないようなのでそこもディストとは違うんだろう。
彼は私の知るディストとは違う人生を送っているし、彼はマルクトを私が知る限りでは離れていない。敵になるよりも味方でいてほしい人材なので私としては諸手をあげて歓迎する事態だった。
それに長年共に幼馴染として過ごしてきたのだから彼もまた大事な存在になっていたから……
戦後の翌年にピオニーもグランコクマに来ることになった。いい機会かもしれないとネフリーを誘ったが、両親がいるケテルブルクから離れる気はないと断られてしまった。
恋人ピオニーの傍にいたいだろうに両親を優先する心優しいネフリーにきゅんきゅんしつつも、恋人が出来たことを教えてくれないネフリーに寂しい気もした。
私はピオニーにネフリーのことをそれとなく探りを入れたのに、彼女のことは妹みたいに思っているとかうそぶいていたが、彼がピオニーでないとしても私の可愛いネフリーにそれだけの感情とかありえん。
ピオニーは帝都グランコクマでも軟禁生活であったが、彼はちょくちょく抜け出し私やサフィールに会いに来て、身体を衰えさせないように鍛えはしても、研究生活にどっぷり浸かっている私達を現実世界に引き戻す役目をしていた。
ネフリーに私達の面倒はみると約束したと言っていたので、仕方がないので言うことを半分はきいておいた。全部を彼の言うとおりにすると私は暇人になってしまうからだ。
惰眠を貪ることをこよなく愛していたはずの私だが、ジェイド因子にでもやられたのか今世は立派なワーカホリックになってしまっていた。
暇だと苛立つというか無駄な時間を過ごしている気になってしまうとか昔では考えられないことだ。惰眠を貪るジェイドって思い浮かばないからその想像から自分自身を当てはめている可能性もあるけどね。
そのせいか生き急いでるとか言われたりもしたけど、それだけしても世界の危機には足りなかったと思う。ただ一人で頑張るのも限界が来たので二人に相談することにした。
私は本家本元のジェイドと違って仮定でも彼には話をしてきたので、ホドが落ちたことでこの大地は本来の大地ではないのかもしれないとか、そうだとするとこのままでは他の大地も落ちるかもしれないとかそう考えた理由を色々と脚色交えつつ二人に話した。
サフィールは否定せず、ピオニーはそうだとしてもどうするのかと質問してきたので情報を集めて調べますと答えておいた。
私の性格はともかく頭の良さを知っていた二人はなるべく協力してくれるという話になったが進展はあまりなかった。けど、大きな秘密を抱えているという気疲れが無くなっただけでも、とてもよかったらしく今まで見えてなかった周囲との隔たりというか人付き合いとかも気をつけることができるようになって、人間関係を円滑にすることができるようになれたのは大きかった。
友達を取られるとでも思ったのかサフィールが今まで以上にくっ付いてくるようになってしまったので、懇切丁寧にいい大人の身体のでかい男が引っ付いてくるのはうざいし邪魔だと説得した時には彼は滂沱の涙を流した。
どうして私の周りにはそれぞれ良いところはあるが大きくてうざい男しかいないのかが、大きな悩みの一つとなったのだった。その所為かな? 両親大切なネフリーは来てくれないのでアリエッタを休日を使って探し出すことに決めた。
発見が早かったせいなのか彼女の魔物を友とする能力は不完全で共に育ったライガだけにしか彼女のお願いは聞いて貰えないようだったけど、私としては素敵な癒しなので能力に関わらずにアリエッタとその兄弟を連れて帰って養女とした。
妖獣のアリエッタフラグをバキバキと折ったが私の癒しのほうが大事なのでそちらはどうでもいい。ヴァンは居もしないアリエッタを探すがいい。
ただ親父殿がアリエッタを甘やかすので、私の母としての地位が低下しそうなのがムカツいた。
デレデレしおって!アリエッタは私の娘なんですよ親父殿!と、第二次親子戦争が勃発し、引退した親父殿に平日は任せるが休日は私が面倒見るというのが落とし所だと休戦した。
お父さん候補として名乗り出たピオニーを殴り、私の可愛いアリエッタとすぐに仲良しになったサフィールに嫉妬したりと忙しくなった。
ネフリーには幸せになってもらいたいと考えていた私だがネフリーがピオニーと結婚することには反対で、彼女が預言とは言えど皇妃から遠ざかる日を妹が嫁ぐことを寂しいとは思いはしても望んでいた。
皇妃としてすぐれた資質をネフリーは持ってはいても、身分というものが二人を隔ててしまうからだ。
実の姉がカーティス家の当主だとしても障害が大きすぎると判断して私は勝手にネフリーの幸せの形を決め、そしてネフリーの結婚式の日に私はサフィールと出席し彼女の晴れ姿を見た。
美しいその姿に私は涙し、義弟となる男と握手を交わしたが途中でネフリーに怒られた。私は軍人だとしても女なんだから力を多少込めただけで流石に義弟の手は折らないよって訴えたけど信じてもらえなかったのは悲しい。ネフリーを泣かせてないからまだ何もするつもりはなかったのに。
戦争の後は鍛錬はしても研究メインの生活に切り替え、瘴気を中和する薬を作り上げる研究を個人的なものから正式な研究にし、サフィールにも協力させた。譜業の方面からの研究はやはり私よりも彼のほうが優れていたからだ。
ピオニーとサフィールにとっては万が一の保険のつもりだろうが、かなりの確率で必要になると知っているので研究に意欲的に取り組み一つの形には出来た。
僕との二人の天才が協力したのだから出来ないはずがないよってサフィールが言っていたのを覚えてる。そういえば彼の口調が子どもの頃とほぼ変わらないので、ゲームでの口調はディストになってからのものなのかもしれない。
まぁ、そんな些細なことはいいとして研究と平行し導師イオンとも接触した。皇帝には内緒でピオニーと裏で動いてのことだったので、少しばかり危ない橋だったとは思う。
彼はアリエッタが傍に居ないからなのかもしれないけど、かなり扱いが難しい子どもで夢も希望も感じられないその瞳をはじめて見た時は、柔らかな笑顔を浮かべているその分だけ違和感が襲ったものだ。
彼は自分自身への死の預言によって、生すらも諦観していたのだからしょうがなかったのかもしれないけど、グランコクマを訪問した彼に秘密裏に接触した私が彼の死の預言を言い当てた時の驚いた表情は子どもらしくてよかった。
生きることを諦めていた子どもを救いたくてイオンの身体を調べればその身体に巣くう病魔を見つけた。発見が早かったがために手術で延命することが可能だと説得し、彼を救うことに成功したものの完全に完治するかの確認のためによくダアトに出入りしていた頃、一度だけアリエッタに強請られてダアトへと連れていった時、導師イオン様が彼女を気に入ったのでこれが預言の修正力かとびびった。アリエッタをなるべく連れてきてほしいと言われただけで、導師守護役にしたいとか言われなかったのにはとても安心したことを覚えてる。
導師イオンはパッセージリングのことも調べてくれたし、ダアト式譜術を教えてくれた。ダアト式譜術は特別な資質が必要というわけではなく純粋なる技術であり、誰でも修得できるのだと言っていた。
きっとそれは彼なりの私へのお礼だったのだと思うが、その行為に彼の周りが心配になりマルクトの手の者をダアトに増やした。導師イオンを守る存在として。
僕に何かあったら優れた第七音の素質を持つ者に教えなさいって死亡フラグじゃないかと思ったからだけど、その判断が間違いではなかったと知ったのは導師イオンの死が詠まれた年に暗殺事件が起きてしまったからだ。
ローレライ教団がイオンを要らないのなら、私が貰っていこうってことで何かあったらと整えていた手筈どおりに導師イオンを脱出させ、準備していた屋敷へと彼を匿った。
その頃は色々と立て続けに事態が動いた時でもあった。ネフリーにふられた我等が賢帝ピオニーが即位した翌年には戦争も起きてしまっていたからだ。
先帝の好戦的な外交を廃して軟化政策を開始してはいたが、戦争回避には間に合わなかったからだ。そこで戦争に借り出されたのは私ではなくサフィールだった。他数名の名前が挙がったが私は女であることで外されたのだと後に知った。
人を殺す機会が減るのならそれはそれでかまいはしないけど、その代わり彼が人を殺すのかと思うと遣る瀬無い。その為に私はサフィールの副官として戦場に出れるように手を回した。
キムラスカ軍と激しくぶつかり合った時、神託の盾騎士団がキムラスカ側で参入してきたがため、キムラスカ軍をほぼ壊滅状態にしたのに決着をつけることが出来なかった。
セシル将軍が生きてこの戦場から撤退できたのは彼等の介入のお陰と思えば良いのかは迷いどころか。
完全に叩いておけば戦争などと馬鹿なことをキムラスカが、しばらく考えないかもしれないと思ってしまったから……
あー、預言で詠まれていると言われれば攻めてきそうだけどね。
そうそう、どうして私がこんなことを思い返しているかと言うと、現在進行形で新たな厄介ごとに巻き込まれてるからなんだ。
でも私の物語はもう少し続くから付き合ってくれないかな?