W大佐
最初に私の話を聞いて頂けますか?
〜1〜
世の中には科学では解明できない不思議があり、そのうちの一つを私は現在進行形で体験してる。
・カーティスそれが私の現在の名前であり、この世界に生まれた時の名は・バルフォアだった。
そう、何と私は気がつけばアビスの鬼畜な大佐ジェイド・カーティスに成り代わっていたのだ。
憑依とは思っていないのは性別の違いという大きな違いのためだ。彼は男で今の私は何故か女。いや、その点については感謝している。
20年以上も女として生きていたのに男にされたらひどく戸惑ったはずだ。私をここに転生させた何者かがいるかは知らないがいるとしたらその点だけは褒めてあげようと思う。
ちなみにおぎゃーっと生まれた時から自覚ありという転生ではなかったのは感謝すべきかどうかは迷いどころです。
前世の記憶が完全に戻ったというかこの身に定着したのは5歳頃、それまでは身体の感覚が薄くてガラス一枚隔てた向こう側を見ているようだったことは覚えてる。
つまり5歳までの私はほぼ本能で動いていたので、食欲、睡眠といった本能に関する以外のことは大変に鈍いというかとろい子どもだった。
バルフォア家は多少裕福ではあるが一般家庭の域は出ていなかったのでそんな子どもである私はお荷物だったのだ。けれど、そんな私を両親は愛情をもって育ててくれた。
前世の記憶と人格が定着をした頃を境にして、遅まきながら自らの意思で動き始めた自分達の娘に優しい両親は喜んでくれていたのだが、前世の記憶を持っているとか不可抗力だけれど悪いことをしてしまったように思う。
ただ記憶が戻ったのがその頃でよかったと思った出来事が一つあった。
妹ネフリーが生まれた後に両親の真夜中の話を聞いてしまった時のこと、私があのままであれば両親はもしかしたらネフリーを産まなかったかもしれなかったらしい。
それを知った私は両親に申し訳なく思うと共にネフリーに強い罪悪感を感じた。本来なら望まれて生まれるはずネフリーが私という存在のために消えてしまっていたかもしれないという事実は、私を打ちのめし何とか立ち直った時には私は立派なシスコンになっていた。
とはいえ、それは時間の問題であったようにも思う。ネフリーはそんなことが無くとも可愛く優しい良い子で、私を姉と慕ってくれる素晴らしい妹だった。将来のために勉学に励む私を心配したり、譜術を使い始めた頃には心配してくれた。
あれ?回想してると妹に心配をかけてるダメ姉でしかないことしか浮かばない。いやいや、これでもジェイド・カーティスがいないという不利益を少しでも減らそうと私は頑張っていた頃なのだから世界のためだったのだ。
この身体の頭脳は天才的だったので、知識は面白いほどに頭の中に蓄積されたし、譜術の才能も高いお陰で大人顔負けの譜術の腕前にはすぐに到達できた。
そのどれもが元々のジェイド・カーティスの才があるからこそだけど、努力をしなければ意味がないものだ。前世では三度の飯と同じぐらいに惰眠を貪ることが好きだった私だが、将来のネフリーと私の幸せ計画のためにありとあらゆる努力をした。後にディストとなるサフィール少年と仲良くしたり、少しばかり迷ったもののネフリーを傷つける原因となるだろうピオニーがいるだろう屋敷に忍び込んで友情を結んだりした。これはネフリーのことを除けば個人的には彼のことは嫌いではなかったので努力としては屋敷に忍び込んだだけかもしれない。
ピオニーが自力で逃げ出してくるかと思ってたのに出てこなかったので痺れを切らした私が潜り込んだんだけどね。その時サフィールが私に協力してくれたので成功したわけだけど、サフィールって甘えただけど有能なんだからジェイドも彼の扱い方を考えればよかったのに。
精神年齢が私は皆より上だったのでサフィールの性格は可愛いって思えたのがジェイドとの違いなのかもしれない。あとフォミクリ―技術は概念を知っていたので開発するにはしたけど、当たり前だがネビリム先生を殺すようなことはできなかった。
私は私自身の行動でTOAという知っているはずの物語を終わらせてしまったが、臆病者の私は物語のために目の前で生きている彼女を殺す勇気は無かったのだ。
だというのに、そのことを後悔しないということも出来ない自分自身の情けなさに落ち込んだが、予言に詠まれていたとかで私はカーティス家の養子にさせられた。この時は大変驚いた。私の意思など関係なく私は生まれ故郷を出ることになりネフリーと離されてしまったからだ。
現実がこれだけ物語と剥離しているのならカーティス家の養子にならなくていいんじゃね? とか能天気に考えはじめていただけにカーティス家の養子として旅立つ日はまさに売られていく子牛な気分でドナドナを心の中で熱唱していた。これは余裕ではなく現実逃避からだった。
ネフリーと実の両親には手紙を書くことを約束し、カーティス家の養子となった私は気落ちする間もないほどに軍人になるべく教育を受けることになった。
本気で親父殿は二回か三回ぐらいは死ねばいいのにってぐらい厳しい教育でその旨をピオニーに率直に手紙に書いた。もちろん両親とネフリーに心配はかけたくなかったので、彼らには私は元気で頑張っているという内容の手紙や押し花を贈ったりとかしていた。
手紙へのピオニーの返事は、呪いの手紙は止めてほしいと書かれていたので次の手紙には赤い液体で書いた手紙を送っておいた。呪いの手紙っていうのはこういうものですよって意味で送ったのだが、ピオニーからは前のような手紙でいいという返事だった。私の手紙は呪いの手紙ではないと納得してくれたらしいと私としては満足した。
カーティス家の養子関連として一つ驚いたとするのなら、サフィールが私を追ってグランコクマに来て士官学校に入学したことだった。
まぁ、彼のお陰で長期休暇は友人と過ごすと称してケテルブルクに里帰りしてネフリーと過ごすことができたのだけれど。
カーティス家の親父殿からはお前はカーティス家の者になった自覚がないと言われもしたが、私の可愛いネフリーとむさ苦しい親父殿とでは比べることは出来ないのだとそちらが自覚してほしいと懇切丁寧に武力行使も交えてのお話し合いの結果。私が士官学校で一番の成績を修めたらという譲歩が出た。結果としては長期休暇のたびに実家に里帰りしているという結果を私は持っている。
私のネフリー愛を舐めないで頂きたい親父殿っ!と高笑いをしたらカーティス家のメイドに引かれたのはちょっぴり泣いた。その分実家に戻った時には不足気味なネフリーとの時間を堪能したけどね。
サフィールは可愛いけど年々大きくなるのでくっ付かれるのは少々鬱陶しくなっていったが、まだ性格が可愛いので許せる。が、ピオニー、てめぇはダメだ。うぜぇっと言ったら本気で泣かれた。引いた。そもそも研究で貫徹三日目の寝不足な私に引っ付いた彼が悪い。
士官学校卒業後は帝国譜術・譜業研究院にサフィールと共に配属されて私は譜術、彼は譜業と部署は違うが腐れ縁は続いていた。
本来であればフォミクリ―技術の研究を熱心にしているところだろうけど私はしなかった。そのために私はルークやレプリカイオン達の存在を消し去った。
罪悪感の対象が無いがためかネフリーや先生の時よりも心の葛藤は少なく、自分の白状っぷりには笑えた。
ゲームプレイ中に同行者の非常識さにルークが可哀想だと同情した自分は、ルークの存在を許さなかったのだ。きっと私はルークの同行者たる彼らを責める資格などもう持ってはいない。
変わりに研究したのは武器の出し入れのためのコンタミネーション現象と譜陣つまり譜眼について研究した。
コンタミネーション現象については自分限定として早々に研究は見込み無しと打ち切ったのは、自分は理論を考えて実行したら出来たのに他の人は拒絶反応が酷かったためだ。
譜陣のほうは譜眼は自分とサフィールにしか施していないが、腕などに安全に施す研究は今も続いているようだ。
譜眼はディスト強化フラグというより、サフィールがどうしてもって言うから施したが、彼は譜術の才能がジェイド並ではなくとも、かなりあったようで譜眼をそこそこ使いこなしていた。
そこそこなのは彼には譜術制御用の眼鏡が私以上に必要という点からみて間違いはないと思う。とはいえ、士官学校を卒業した時の身体的能力はジェイド・カーティスの才ある私に及ばなくともかなり強くなっていたと思う。
ゲームでは譜業兵器で戦っていたから本人は弱いと思っていたのでかなり意外だった。もしかしたら研究に続く研究で身体が鈍ったのかもしれないので、私はもちろんのことサフィールも一緒に日々鍛錬をしている。
一緒に行っているのは誘うと嬉しそうだというのが、理由だけれど研究院の人間には私達は付き合っていると思われていたらしい。
ジェイドとディストの関係を知っている私からするとそういう関係になりえないという先入観があったので、知った時には驚いた。とはいえ、世間様には研究の合い間に二人で消えるのだからそう思われても仕方がないことだったとは思う。
その時、サフィールが赤い顔してブツブツと呟く様子がかなり気持ち悪かったので、純情らしい彼のために私がそういうことはないと否定しておいた。
今後ともそういうことになりえる可能性はありませんときっぱりはっきりと言い切ったので、私の耳に二人が恋人同士などと誤解された噂話が入ることはなくなり、サフィールが泣いて喜んでいたのが印象的だった。
研究院に所属している時も少しでも長い休暇があれば里帰りしネフリーと会っていたしピオニーとの仲をなるべく邪魔をさせてもらった。ネフリーと一緒に居られないぶんだけ彼女の傍にいるピオニーが羨ましかったのでほぼ八つ当たりだったんだけどね。
――…あぁ、だいぶ話をしていたね。少し休憩にしましょうか?