おわりというものはあっけなく、そしてくだらない。
さよならも言えない
意識が唐突に覚醒する。頬を伝って零れ落ちる涙は後から後から溢れていく。
心を締め付ける哀しみを感じながら目を開けて目に入ったのは白い天井。
自分がいる場所を理解できないままに視線を彷徨わせるとドアが開く音の後に。
「っ!」
私の名を呼ぶ母の声。久しぶりに聞いたと安堵した心を疑問に思った。
母とは今朝、挨拶をしたばかりなのにっと。事情を聞いてもこの疑問ははれなかった。
私は玄関先で倒れ病院に運ばれたらしく、丸1日目覚めなかったとの話だった。
原因不明での意識不明ではあったが、私自身に自覚症状がないので私は次の日に退院することができた。
何かあればすぐに病院に来るように言われたが、退院してひと月経った今も健康面では問題はない。
ただ倒れたことで精神的には何かあったのか唐突に泣きそうになる時があった。
母といつもと同じように会話している時、中学生ぐらいの少年達が楽しそうに歩いているのを見た時。
家族と過ごせることが嬉しくて幸せで、なのに時として切なく哀しく感じる。
病院で涙を流しながら目覚めたのは夢を見ていたからだ。どのような夢だったなのか覚えてすらいないが、きっと私の心の変化は夢が影響しているのだろうと思う。
退院してからの私は何故か身体を動かしたくてたまらず、毎朝ジョギングをし、休みの日はジムにまで通うようになった。
身体を動かすことが当たり前で、鍛えることで動けるようになっていく身体に安心する。けれど、同時にもっともっとと自らの身体を酷使することを求める精神。
これほどまでに自らの身体を鍛えることに執着する理由を私は知らない。理由があるとすれば病院で見た夢なのだろうと思っても、覚えていなければ以前の生活に戻るしかない。
気になるのであれば催眠術という手もあるけれど、覚えていない私の心がそれを拒む。
記憶のそこにある夢には誰にも触れてほしくはないのだと。
独り、胸に手を当てて目を瞑れば覚えの無い涙を流しだす。私の心。
――…私はどんな夢を見たのだろう?