約束というものは破られるためにあるのだと、いつか豪語したことがある。
アイザック視点
氷河が母親に会いに海に潜ったのだろうと彼が戻って来なかった時にすぐさま浮んだ。
どの辺りに沈んだのかは聞いたために途中まではと共に向かったが詳しい場所まで知らないために二手に分かれて探せば、厚い氷が割れた場所を見つけた。
「やはり潜ったか」
だが、とっくにあがってもよいだろう時間のはずなのに氷河が戻っていないということは……
「潮流に巻き込まれたか!」
以前に注意をしたのだがそれを活かしきれなかったようだ。
「待っていろ氷河、今助けに行くぞ!」
勢いよく地を蹴って海へと飛び込めば思っていた以上に潮流の勢いは強く、巻き込まれれば何処に流されるか想像することも出来ない。
潮流に巻き込まれないように海の底に沈んでいる氷河の母親が眠る船へと向かって泳げば、船へとしがみ付く氷河の姿を見つけることが出来た。
氷河は潮流にのまれながらも海上に上がろうとせずに必死にこの船を目指したのだろう。
幼い頃に死に別れた母親に会いたいがために、その熱い思いを正義のためにむけたのなら強い聖闘士になれると思いながら氷河の身体に絡まっていた網を取った。
心の中で氷河に母親にはこの次には必ず会える。こんなところで死んだら聖域に出かけているカミュも氷河を探しているも悲しむことになると語りかけながら、氷河を右腕で抱えて海上を目指す。
「うっ」
突然、襲ってきた激しい潮流に氷河を放さぬように咄嗟に力を込めることが出来たが、潮流から抜け出すことはできない。
一人なら抜け出すことは可能かもしれないが氷河を放り出すことなど出来ないと必死になっていると今まで感じたことのない衝撃が走った。
鈍く痛むのは左目で潰れでもしたのか見えない。それでも氷河を放さなかったのは意地だったのか。
潮流が緩やかになったところで氷にしがみ付く、だいぶ流されてしまい元の場所に戻ることは不可能。それならば氷を割ったほうが可能性があると拳を握り打ち付ける。
小宇宙を込めた拳を何度も何度も打ち付けるが海中ということもあり、思ったような力は出せない。
「うおお――ッ」
これ以上は俺も氷河も限界だと渾身の一撃を込めれば氷が砕ける音が聞こえ、残りの力を振り絞って氷河を海上へと放り上げる。
俺自身の身体はもはや力が入らず潮流によって流されていく、情けないことにもがくことすら出来ない。
このまま俺は死ぬのかと思えど氷河を救うことが出来たことに後悔はなかった。
が俺の小宇宙を感じて氷河を見つけてくれるだろうと俺は力を抜こうとして感じることのないはずの小宇宙に顔を向けようとする。
向くことが出来たのか俺のかすんだ視界に泣きそうなが見えた気がした。
どんな辛い修行でも泣き言一つ言わなかったのに、俺達が怪我をすると自分のこと以上に心配する心優しい俺の弟弟子。
泣くなと慰める言葉はもう俺には言えず、海上に戻れと伝える力もないと情けないと嘆く俺の視界に黒い大きな影が見えた…――