約束というものは破られるためにあるのだと、いつか豪語したことがある。

本当は守りたかった


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急いで小宇宙を感じた場所に向かえば砕かれた氷の欠片があたりに散らばっていた。
様々な大きさの氷の欠片は端が尖っていたりとまだ新しい。
「氷河っ!」
視線をめぐらせば横たわる氷河を見つけ近づくと身体は冷たかったが息があったことにほっとひと息をついた。
姿が見えなかった氷河の姿を確認することが出来たが、私はアイザックの小宇宙を目印にしてここに来たのに彼の姿は見えない。
氷河が倒れていた近くに氷に不自然に開いた穴があるのはアイザックが開けたからじゃないかな?
「アイザック!何処にいるの?」
薄く氷河の頬に張り付いた氷を払い、彼を胸に抱えながら周囲を見渡してもアイザックの姿は見ず声を張り上げて呼んでも返事はない。
氷河の服が硬いのはもしかしたら海に入って濡れたものがこの寒さで固まったから?意識のなかった彼はどうやってここに?自力で戻った可能性は低そうだ。そして誰かが助けたとしたのなら助けたのはアイザックだろう。彼は何処に?
「うぅ……俺は……」
抱えていた氷河の呻き声に顔を覗き込めば億劫そうに彼はその瞳を開く。
「氷河、気づいた?」
そのアイスブルーの瞳に映った私の顔は今にも泣き出しそうな情けないものだった。
ダメだ。見た目はともかくとして中身は彼らより年上なのだからしっかりしないとっと気を引きしめる。
?」
どこか視線が合わない氷河に答えさせるのは酷だとは思うけれど嫌な予感がする私は彼に問う。
「アイザックを見た?」
「アイザック?いや……何があった?」
起き上がろうとした氷河に胸を押されたので彼から離れる。
氷河は上半身だけを起こした状態となって私と周囲を見回し。
「ここは?俺はマーマに会いに……」
私と同じように事態を理解していないのだろう氷河の呆然とした様子にこれ以上は知ることは出来ない。
冷えた氷河の身体をこれ以上冷やさないように上着を脱いでそれを彼の肩へと掛け。
「身体が冷え切っているからこれを着てて」
「俺は大丈夫だ」
「大丈夫じゃない!」
取り去ろうとした上着をしっかりと押し付け。
「氷河、動けるなら家に戻って温かくしてなさい」
「……は?」
氷河の青ざめた顔色に送ってやりたいがアイザックをこれ以上は放ってはおけない。
「アイザックの姿が見えないから探してくる。彼を見つけたら私達もすぐに戻る」
そう言ってからこれ以上の時間をとるわけにはいかないと息を吸い込んでから穴から極寒の海へと飛び込む。
自殺行為でしかないだろうことでも、小宇宙を高めればしばらくの間は大丈夫だ。
逆に言えば大丈夫だからこそ氷河達もまた海に入ったとも言えるのかもしれない。
!」
私を呼んだ氷河の声は耳に届いたが時間が惜しく顔を出すことはせずに海の流れに逆らわずに進む。
アイザックが氷河だけを助けたというのならば、彼は力尽きて流されているだろうからだ。
小宇宙を高めてアイザックの小宇宙を探していると普段よりも微弱ではあったが彼の小宇宙を感じることが出来て、探していたアイザックの姿が確認できた。
「……っ!」
ただ力なく沈んでいく彼は怪我をしているらしく血が滲んでいて、早く助けなければと急ぎ向かったというのに私が泳ぐ速さよりも沈んでいく彼のほうが速いのか追いつけず、どうしてっと焦燥感が胸に湧き上がる。
「アイザック!」
息のことなど忘れて海中で彼の名を叫ぶ。届かぬはずの叫びだったのにアイザックの顔が私のほうを向く。
確かに彼と目が合ったと思った次の瞬間には海の底から巨大な影がアイザックのほうへと忍び寄っていて。
私の手は彼に届くことなく、巨大な何かが海を泳ぐことで起きた強い流れによって私は泳ぐことが出来ないままに流される。
それでも届かないアイザックに向かって手を伸ばす。まだ死ぬには早すぎるじゃないか。
神が本当に存在するというのならば彼を救ってと願う私の涙は海水と混じり、ぼやけていく視界。


――…ダメッ!


今にも泣き出してしまいそうな少女の声を最後に私の意識は深く沈む。





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