名もなき神殿に集う
地下の神殿へ
地下深くに造られた名を知られぬ女神の神殿。世界のどれほどの者が知るというのか地下に白亜の神殿があるなどと。
長く何者も踏み入れなかったその神殿に明かりが灯され、最も深き場所に十数名の目元を隠す仮面をつけたローブ姿の人々があった。
彼らはこれから起きるだろう一つの奇跡のために集まった者達である。
10メートルはあろうかという高さの巨大な扉は繋ぎ目などなく巨石に掘られている。
本来であれば開くはずの扉の中央すらも繋がれているその扉を前に左右にわかれ跪き祈る人々。
扉の間から光が漏れ、灯された松明の灯りが揺れる。
「我が女神よ。此度の御降臨を我ら一同お待ちしておりました」
集った者達より一人、抜きん出て扉の近くに居た者から声が発せられた。その低く擦れた声は老齢の男の者である。
開くはずのない石の扉は黄金に輝き開かれ、そこから足を踏み出したのは白き衣に身を包んだ一人の娘。
白いその素足は石の床を歩き、娘が歩み娘が扉から離れれば扉はゆっくりと閉まっていくがそれを見る者はいない。
娘は扉を背にし、ローブ姿の者達は頭を下げているがゆえに。
「――…我が下に集いし者達よ。我が地上に居らぬ間、大義であった」
言葉を娘が発した瞬間に神代に造られし秘儀の女神デスポイアの唯一の神殿はかつての荘厳さを取り戻していく。
神の力ある言葉に本来の姿に戻ったことは神殿の主の帰還であるのだから、この場においては当たり前のことであったが集った人々の中には驚きで声を上げた者もあった。
「そなた。カツィカスの者か」
周囲の人間達のことなど気に止めることなく娘は最も近くで跪いてたローブの男へと声をかける。
「御意にござります」
「ついてまいれ」
男の返答は娘にとって当然のことであったようで一言告げると人々の前を歩み、その娘の言葉に立ち上がった男はゆうに三メートルは離れてついてゆく。
これが二百年もの昔に地上から神の国へと戻っていた女神の地上への降臨であった。