鈍い痛みに私は眠りを妨げられ意識が覚醒していく、左腕の痛みと感じる身体のだるさに不快感を覚えてうめき声が漏れる。何故、左腕が痛むの?その確認の為に見る為に頭を動かそうとした私の額に大きな手が置かれた。
「大人しくしていろ」
男性の低い声が聞こえ、汗で額に張り付いた前髪をその手が掻きあげる。ぼんやりとした私の視界には赤い髪と……
「あまき?」
金色の目が見えた。それは、『あまき』と呼ばれた男と同じ色の髪と瞳であったから私はその名を口に出していた。相手からの返事はなく、もしかしたら違うのかもしれないと思い始めた時。
「……何だ」
彼は返事をしてくれたが、何か用があって名を呼んだわけじゃない。だが呼んで返事をしてくれた相手にそのような回答をするのも微妙だ。視界と同じようにぼんやりとした思考で私は納得がいく理由を考え始めたが私の思考はふらふらとさ迷う。
私の瞳に写った彼の鮮やかな赤い髪と金の瞳は普通ではない色合いだ。だからこそこれが夢なのだということを私は確信してはいるのだけれど夢だとしても彼の瞳はとても綺麗で、その現実ではありえない金色の瞳が私を魅了する。
「貴方のその瞳……綺麗」
触れられるものなら触れてみたいと右手を上げる。思ったよりも遠くに顔があるのか私の手は宙をかく、ぱたりっと手を布団へ下ろし。
「ねぇ、屈んでくれない?」
あまきへとお願いをする。よく知らない男に対しての態度ではないかもしれないけど、私はその時気にしなかった。
彼、あまきは何だか驚いたように目を見開き私を見たが、屈んでくれたので私は再度、手を伸ばした。指先があまきの頬に触れて、指を上げようとして常識的に他人の瞳が綺麗だからと触るのは酷い事だろうと触れることを思い直し、その瞳に触れるのは諦める。その代わりに彼の肩に掛かっていた赤い髪を触り、指で梳いた。私が思っていたよりも太いらしく彼の髪はあまり柔らかくはなかった。
「……」
あまきはその間も無言で私がするがままに任せて、無言で私を見つめている。
「あまきってどう書くの?」
彼のその瞳に何だか恥ずかしくなって少しでも彼の意識を別に逸らそうと髪に指を絡ませながら私は尋ねる。
「天の鬼」
「天鬼」
それが彼の名前かと私は漢字で彼の名を呼んだ。彼の名を呼んだ私自身のその声が何だか恋しい者を呼ぶかのように甘いのは彼の金色の瞳に魅入られているからなのだろうか。
「お前は?」
名を聞いているのだろうと思い当たり。
「、よ」
私は名乗る。この夢の中ではじめて名乗った。彼等は私の事などたいした者ではないように扱っていたし、私の意志を尊重する様子を見せた事もなかったのだから名前を尋ねてくれた。彼が尋ねてくれたのはもしかしたら少しは私の事を見直しでもしたのだろうか。
「……」
天鬼の低いその声で私の名が呼ばれるとゾクリッとした。その妙な感覚に私は指を彼の髪に絡めるのを止め、天鬼の顔を見る。
「怪我が元で熱がある。眠れるなら眠れ」
なるほど、だから私の思考はこんなにもぼんやりとしているのか。夢の中での怪我か、この怪我は何処でついたんだっけ……?
思い出そうとしてもかすんでしまっていて思い出せないのは熱で思考がまとまらない所為だ。私は天鬼の髪から指を離すと眠る事にした。
「……おやすみなさい」
あぁ、でも……夢の中で寝るなんて不思議な気がする。
「あぁ」
天鬼が私の髪を撫でる。大きな、大きなその手は母親とは違うのに私を夢見心地にさせる。
ずっとその感触を楽しみたかったけれど……でも、今はとても眠い。痛みによって目覚めたはずなのに、その痛みよりも睡魔がまさった。