9.死ぬ前に

彼女を縛り付ける資格は無い。
――…なのに、この独占欲は何なんだ


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ホテルを出たその日は此処に来るつもりはなかった。
明確な行き先などなく歩いていたらいつの間にかとある公園に近いことに気づき、常にやる気の無い、彼に与えられた役目である公園を守るということすらもやる気が無いのだろう超人の様子を見に行くのもたまにはいいかっと思ったのだ。
俺としてもたかだか公園一つを守れと言われて納得出来るとは思わないが、アイツの普段のアホぶりを見ているとそれも仕方が無いんじゃないかと思う。
「2世っ!またトレーニングをさぼって!そんなことは後にしてくださいって言ってるじゃないですか」
「えー、いいじゃんミート。ちょっとぐらい」
公園に近付くと親子2代に渡って仕えているというミートという超人がアイツを叱っている声が聞こえた。やる気が無い様子を見るのもどうかと思ったが近くまで来たのだからと様子を遠めから伺うと数枚の写真を持っている万太郎とそれを見ているチェック・メイト。これは敵情視察にもなりはしない。帰るとするか。
「ねぇねぇ、これなんかさ……あっ」
万太郎の手からはらりっと一枚の写真が落ちる。たかだかちょっとした風で落とすなんて…――呆れて見ていた俺の目に飛び込んできたのは以前に少しだけ交流があった少女。次に会う約束をしなかったその少女が写真の中で笑っているのが見えた。
この時ばかりは自分の視力のよさが嫌になる見えなければこのまま帰っていただろうに……。
彼女が誰と知り合いだろうと遊ぼうと自分には関係ない。関係が無いのにその写真の中で砂で身体を埋められているらしい生首の万太郎とその隣に座っている少女、の姿が見えた時に理性とは違い納得できない自分がいる。
「――…万太郎」
気づかれないままに帰るつもりだったはずなのに、俺は万太郎に話しかけていた。
「えっ!わわっ、ケビンマスク」
万太郎は拾おうとしていた写真を拾わないどころか持っていた他の写真すら放り捨てて、素早い動作でチェック・メイトの後ろへ隠れた。ミートとチェック・メイトはいきなり現れた俺に警戒を示しているというのにその情けなさにため息をつきたくなる。
「なっ、何をしにきたんだよ」
隠れながら俺に聞いてくる万太郎にミートが呆れた視線向けた。お前、本当にこんなヤツに一生仕える気か?と、誰も問いかけてやった者はいないんだろうか。
「死ぬ前に聞いてもいいか?」
「はっ?何処か悪いの?」
俺の言葉に素っ頓狂な声を上げたヤツはササッと俺に寄ってくるとジロジロと俺を見てくる。地面に落ちている写真を蹴りの風圧で舞い上げてその一枚を手に取る。
「この写真はどういったことだ?答えによっては殺す」
「えっ!死ぬの僕なの?」
やっと、理解したらしい万太郎。話の展開についていけないのかミートとチェック・メイトの二人は傍観をしていた。
「写真って……これは僕達が海に行った時の写真だよ。ねぇ、チェック」
「ええ、万太郎達と行ったんです」
話を振られてチェック・メイトは頷いてたがミートは半眼になり。
「僕に内緒で行ったんですよね。2世」
セコンドを騙して出かけて遊び呆けるとはこの男らしい。しかし、それでどうしてと一緒に写真に写っている。
「でもさぁ〜海には凛子ちゃん達が来てたし、たまには遊ばないと、ね?」
凛子、そういえば試合の時に時々みかける少女だっただろうか。万太郎が飛びつこうとして肘鉄を食らっていたような記憶があった。
「どうして彼女とお前が写っている?答えによっては自前でこの状態にしてやる」
砂浜の砂に埋められて生首ではなく、そのまんま生首にっだ。
ちゃんは凛子ちゃんの友達なんだよっ!皆に埋められた可哀想な僕の話し相手になってくれたんだけど……どうして、そんな事聞くの?」
俺の殺気を感じたのかまたもチェック・メイトの後ろへと隠れ、顔だけ覗かして万太郎が説明をした。
どんな馬鹿なことをしでかしたかはわからないが、コイツが埋められたのは自業自得だろうから可哀想とは思わないが律義に俺にお礼をすると言っていたのことだ同情してこんなヤツにでも話し相手になってやったんだろう。この万太郎と付き合うというような彼女の人生が駄目になるような事態でなかったらしい。俺は安堵の吐息をついて用の無くなったここから立ち去ることにして、背を向けた。
「無視なのっ!ミート〜っ!こんだけ僕が怖い思いしたのに無視されたよ」
セコンドに泣きつく万太郎のことなど構っている暇は無い。頭に血が上っていたのか普段は意識して行動していたことを忘れていた為にクロエから与えられた自由時間をこのままではオーバーすることになる。そうなるとクロエのヤツはうるさいっと、全速力でホテルへと戻った俺は何とか約束の時間には間に合った。



万太郎のところからそのまま持ってきていた写真。
とある生首の部分を切り捨てて、写真立てに飾る。

――…彼女を写真といえど捨てることなんて出来なかった。

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