8.アバンチュール


←Back / Top / Next→


ひと夏のアバンチュールを過ごす。と、張り切っているたまきちゃんと恵子ちゃんに私はため息をつく。
夏の海水浴場で『危険な恋』『ひと夏のアバンチュール』を期待する二人の様子にしょがないなぁと思いながらも付き合ってる凛子ちゃんはえらいと思う。私はこの勢いについていけない。
「私、此処で荷物番してるよ」
「でも、……」
一人残していくのを悪いと思ったのか凛子ちゃんが何か言おうとしていたけど。
「後で冷たい飲み物を差し入れるからね
「ちょっとの間、よろしく」
たまきちゃんと恵子ちゃんはそう言うと出会いを求めて飛び出していく。その後姿をぼんやりと眺めていた私と凛子ちゃん。
「……うわっ!二人共暴走してるよ。凛子ちゃんっ!」
乙女の暴走っぷりって怖いなぁ。
「……手綱引いてくる」
「いってらっしゃい」
額に手を当ててため息ついて、凛子ちゃんが二人を追いかけていった。青春を楽しんでますという様子の二人は好きだし、凛々しくてでも可愛い凛子ちゃんは大好きだ。でも、一緒に同じようなことをすることが楽しいのかというとそうじゃない。私は後先を考えないで騒ぐことは出来ないし、ナンパや逆ナンというのも苦手。
私は熱い砂浜の砂を左右に軽く払って座っても熱くないようにしてから座り、皆の荷物の番人とかす。
「私が居ても迷惑じゃないのかな?」
海に行かないかと言われて一緒に来たものの、ノリについていけなかった私は疑問に思う。迷惑そうにはみえないけど皆優しいから義理で誘ってくれたんじゃないか……とか、こういう時に不安になる。いつもは考えないのに、皆と少し違ったことをした時には仲間はずれになるかもと心配してしまう。
きっと、そんな心配をしているのは暇だからだ。私は気分を紛らわせる為に砂を握って少しずつ落ちていくのを眺めていると濃い影が落ちたので視線を上げる。
「ねぇ、ちゃんでしょう?」
にっこりと笑う少年がいた。とても特徴的なその顔は一度見たら忘れられないと思うのに、私は彼のことを知らなかった。
「そう…ですけど?」
訝しげに私が見たことに気づいたのか彼は自分の顔を差し。
「超人のことを知らないって聞いてたけど本当なんだ。初めまして、僕は万太郎だよ。凛子ちゃんの友達なんだ」
「凛子ちゃんの?」
ふっと、以前に聞いたことを思い出した。もしかしたら彼が凛子ちゃんの言うブタマスクをつけている超人さん?そうだとすると彼の素顔は違うのだろう。
「うん、そうだよ……って、凛子ちゃんに荷物持ってきてって言われたんだった」
なるほど、凛子ちゃんに頼まれたのか。君の友達からとか、彼女からとか、言われたら怪しいと思うけど凛子ちゃんと言われたこともあって私は納得して凛子ちゃんの荷物を渡そうと彼女の荷物を……
「あの?万太郎君。凛子ちゃんの荷物はそれだけなんだけど」
教えようとした私だけど、その前に彼はすべての荷物を持ち上げている。それに驚いて私が尋ねたら、んっ?と此方を見ると笑って。
「僕も友達と来ててさ、さっき偶然会ったんだよね。だから一緒に遊ぼうってことになったから荷物をまとめることになったんだ」
「えっ!あっ、そうなんだ……あっ、私の荷物は持つから」
荷物の持ち主である私が居るのに彼は4人分の荷物を持ち上げていた。結構、重いんじゃないかと思うんだけど彼は置いたりせずに。
「いーの、いーの、じゃんけんに負けた罰ゲームで荷物持ちだからさ。ちゃんは僕と一緒に来てくれるだけでいいんだよ。あっ、でも手が空いてたらちゃんと手を繋いでいったんだけどなぁ……残念」
本当に残念そうに彼が言ったので私は思わず噴出してしまう。失礼だと思って慌てて手で口元を隠すと、嬉しそうに笑う万太郎君がいる。
「女の子はやっぱ笑ってる方がいいよね。さ、皆のところにいかないとねっ!」
そう言って小走りに走り出した彼の後を私も慌てて追った。
「遅いと凛子ちゃんに怒られちゃうよぉ。はやくはやく」
流石は超人なのかしら?私よりも先に進んでいる万太郎君。身長としてはあんまり変わらないと思うからコンパスの差ではないと思う。私が追い付くまで立ち止まってくれている。
「大丈夫、ちゃんと謝れば凛子ちゃんは許してくれるよ」
「それはちゃんだからだよ。僕だときっと怒られる」
はぁ〜っとため息をついて万太郎君は今度は歩き出す。
「でも、怒られるならもうちょっと遅くてもいいか。ちゃんと二人っきりってのもいいよねぇ。あっ、どうせなら僕とアバンチュールとかはどう?」
イシシッと笑っていたかと思えば、万太郎君が私へ冗談を言う。その様子はたまきちゃんと恵子ちゃんみたいだ。
「そんなことを言ってると万太郎君。凛子ちゃんに愛想尽かされちゃうよ?」
さっきまでの暗い気持ちが嘘みたいに私は笑って言う。そうだ。二人共が楽しもうという気持ちでしてるんだから、私は私なりに楽しもうとすればいい。
「うぅ、それは嫌だなぁ」
万太郎君の身体はたくましいけど、彼の様子で私より年下のような気がして。
「でしょ?そういうことだからアバンチュールはお預けです」
私はおねーさんぶって言ってみた。
「ちぇ」
万太郎君は口ではそう言いつつもその口元は笑っている。凛子ちゃんと合流するまで私と万太郎君はこんなノリでお喋りを楽しんだ。





オマケ

万太郎君のお友達の皆さまは超人だった。キッド君、ガゼル君、セイウチン君、チェックさん。
そして、皆でビーチボールをしようということになった時にセイウチン君が荷物番となってくれた。
私がしようと思ってたんだけどね。そうなるとちょうど同じ人数だしということで2人組で超人と私達の誰かが組むということになった。
……万太郎君の提案だった気がするけど、ビーチボールは結局途中で中止になっちゃったんだよね。凛子ちゃんと組んだ万太郎君が凛子ちゃんの後ろで……あれは流石に私も顔が挽きつったけどさ。
「万太郎君、生きてる?」
砂浜に顔だけ出てる万太郎君。
「……もう、ダメ。ちゃん助けてよう」
「ごめん。無理」
超人の皆さまが掘って水で固めた砂は重い。
「そんなぁ!」
万太郎君が悲鳴を上げた。慰めにならないかもしれないけどさ。助けられないかわりに此処にいてあげるからね。万太郎君。
しくしくと泣いている生首状態の万太郎君の隣にその日、私は座っていた。

←Back / Top / Next→