7.可愛い人

からかいの言葉に悩む少女。
それを可愛いと思った。


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うーっと無意識にだろうが唸っているの眉間には微かに皺が寄っている。それだけ真剣に悩んでいると言う証拠だろう。
もういいと言ってやった方がいいだろうか?と、考えた俺の目にが口を開くのが見えた。
「ケビンさんは意地悪です」
何を言うかと思えば不機嫌そうにがそう言った。からかっているのだから意地悪と言われればそうかもしれない。
「で?」
意地悪と言われたのなら、もういいという言葉を飲み込みもう少しからかうことを続行する。
こんな風だから意地悪なのかもしれないな。他の奴に対してこんな風にでも関わることは少ないんだが。
「……仮面にすればいいんですか?」
こいつはからかわれると受けて立つタイプなのか?もしくは一度言ったことの所為で引くに引けないのかもしれない。もう少しからかってやろうかとも思ったがこれ以上は酷というものだろう。
「冗談だ。する必要はない」
此処で止めておけばいいとは思ったんだが俺はつい余計な一言を言ってしまった。
「意外に意地っ張りなんだな」
「別に意地っ張りじゃありません」
案の定、俺の言葉に頬を膨らまして抗議をする。素直なその感情表現は可愛い……いや、子どもみたいにっとかそういう意味でだ。
「そうか?」
俺が視線を向けてそれ以上は何も言わずに見つめていると何を言おうかと思案している様子が見て取れた。
「うっ…少しはそうかもしれませんけど。ケビンさんが悪いんです」
一応は認めたみたいだが素直に認めるだけをせずに俺に矛先を向けてきた。
「はいはい」
此処は大人しく頷いておくか。
「あっ、適当に頷いてません?」
それが気に入らないのかが声を上げた。もはや、からかわれてるのかそうでないのかの区別がついていないのかもしれない。調子に乗ってからかい過ぎただろうか?あんまり、悪乗りするのも考え物だな。
「適当じゃないさ。少し俺もからかい過ぎたと反省してる」
疑いの眼で俺をじっと見ている。そんな視線を向けられたところで俺には痛くも痒くもないし、仮面を付けているのだから顔色も読めないだろう。まっ、付けてなくともに読まれるようなヘマはしないと思うがな。
「……しょうがない。信じてあげます」
納得する事にしたらしくは頷いた。
「それは、どうも」
本当に子どものような彼女はきっと幸せに生きてきたに違いない。親だって……ダディのような奴ではないだろう。まるで砂糖菓子のように甘く可愛らしい雰囲気の持ち主の彼女といると自分がどれほど汚れているのかわかる。
「さてっと、今日はどんなお礼をしてくれるつもりなんだ?」
一緒にいて楽しい相手ではあるが、自分の汚れを自覚させる相手。一緒にいたいと思わせる存在であると同時に離れたいとも思わせた。が、今はまだ傍にいればいい。きっと、お礼が終わればもう会うことはないのだから……。
「そうでした。買い物に行きましょう」
「はっ?買い物?」
聞き間違いかと思って訊ね返すが確かに買い物と言っていた。
「はい、買い物です。プレゼントをお贈りしようと思ったんですがケビンさんが好きな物もわからないし一緒に行くことにしました」
それを彼女は名案とでも思っているのだろうか?にっこりと曇りのない笑みを浮かべている。
「此処で俺が断ったらどうするつもりだ?」
「あっ………」
何気ない問い掛けだった。少なくとも俺にとっては心に浮かんだ素朴な疑問というヤツだった。
「どっ、どうしましょう?」
考えていなかったらしく動きを止めていたは情けない声を出した。今まで関わってきた多くの女達の態度はどれほど無邪気に見えても計算された動きだったがにいたってはこれは本当だろう。計算高く何かをすることに長けていない様子が雰囲気で推測できるし、何より俺の勘がそう告げている。
「言わないから悩むな」
軽く悩んでいるの額を指で突く。
「わぁ」
その軽い仕草ですら彼女にとっては予測できない事態であったらしくて、2歩後ろへと下がった。
予測してなくても本当に軽くだったんだから1歩で立て直さないか普通?お世辞にも運動神経が良いようには思えない。
「ほら、行くぞ」
「はぁい」
これ以上話していると店に行く時間がなくなりそうだったので俺は歩き始めた。俺の後ろをついて来るには悪いが少し子ガモを引き連れているような気がして少し笑った。


そんなに高くない物をと考えていたので適当に安いものを示していたらそれを尽く彼女に却下され、仕方がないので自分が少しでも欲しいと思う物を選ぶことにした。俺が選んだのはシンプルなシルバーリング、考えていたよりもだいぶ高かったんだが彼女はそれを贈り物として俺に買った。それを受け取って、何か言う彼女に適当に返事をして俺はと別れた。

……また会う約束はしなかった。

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