聖大神03
サンクチュアリというところに向かうジェット機の機内に私は沙織お嬢様達と共に居る。沙織お嬢様達についてきたのは誰にも止められなかったからだけれど一緒にいてもよいのかどうかは実際のところはわからない。
詳しく話を聞いたわけではいないが、沙織お嬢様はただの人ではなくアテナという女神で、本来はその彼女を守るはずのセイントという人々は教皇に騙されているらしくそれを正すためにも沙織お嬢様はサンクチュアリに行くのだ。
皆が寝静まった機内で目を瞑っているけれど起きている私の耳に入ってきた沙織お嬢様とセイヤ君の会話は、教皇は沙織お嬢様を救ったらしい人と同じゴールドセイントである誰かだという。それが本当であるのならば本来の教皇である人も無事ではないのだろう。
私はこの世界の神ではないから、本来であれば干渉するべきことではないのかもしれない。でも、ここに私は今いるのだから何かしたいと思う。
セイヤ君達の様子からして戦闘に不慣れな私では戦えないだろうけれど、私に出来ることがあれば頑張ろう。
「レウコン」
「!……わう?」(何?)
決意した私の内心がわかっているわけではないと思うけれど沙織お嬢様に呼ばれたタイミングのよさに身体が飛び跳ねてしまった。
毛で見えないとは思うもののこの大げさな行動に恥ずかしいと思いつつ、声をかけてきた理由を知るために彼女へと視線を向けて首を傾げる。
「私は星矢達が離れた時に消えてしまった貴方がこの時に再び現れたことに何か意味があると思うのです」
「くぅん」(そうかな)
細い指が私の目元をなぞり、鼻筋をなぞっていったけれど途中でカーブさせ額を真っ直ぐに撫でる。
彼女は私の赤い隈取りが見えているのだ。その指の動きの意味に気づいたのは私の赤い隈取りを元就がなぞることがあるからだ。
「それが星矢達にとって……」
言葉を止めてしまった彼女の手に鼻先を押し付ける。
「貴方はとても温かいわ」
彼女が成長したのは女神としての覚悟を決めていたとしても、きっと沙織お嬢様は星矢達に傷ついては欲しくはないのだ。
私にとってはまだ子どもとも言える彼らへ与えられた運命に胸が痛む。その胸の痛みを抱きながら優しく撫でる手に促がされるように私はいつの間にか眠ってしまっていた。
「起きろよ。シロ」
眠っていたらいきなり揺すられ驚いて飛び起きて感じた違和感に目を向ければ揺すっていたのはセイヤ君のようで屈んでいる彼の手が私のお腹の上に置かれているのが見えた。
「星矢、シロが驚いてるよ」
軽やかな笑い声はシュン君で私とセイヤ君を見ている。
「今から降りるっていうのにのんきに寝てるから起してやったんだよ」
「わふっ!」(ありがとう)
横になったままだけれど尻尾を振れば二度ほど頭を撫でたセイヤ君は立ち上がると離れていった。
機内の様子を見れば氷河君達はクロスが入っているそれぞれのパンドラボックスを背負っていたりと降りる準備をしている。
私は身一つなので起きればいいだけだけれど何があるかわからないので身体を伸ばしたりと動くための準備運動は一応はしてみた。
降りるのは戦えるセイントである四人でその後に沙織お嬢様、辰巳さんと続いたので私は最後に降りていく。
ジェット機が降り立ったのはセイヤ君がクロスを手に入れるために戦ったという闘技場らしい。
「しかし人っこひとりいない」
「まるで人の気配がしないのはどういうわけだ」
氷河君やシリュウ君は人の気配が感じられず、状況のせいかどこか不気味にも思えるこの場所に緊張を覚える。
「案ずることはありません。さっそく迎えがきたようですよ」
沙織お嬢様の声に全身をローブで隠している怪しげな存在に気づき辰巳さんの動揺する声を耳に入れつつ彼女の横へと移動する。
「城戸沙織様ですな。この聖域までようこそおいでくださいました。教皇はおまちしております」
徐々に階段を下りながら私達へと近づいてきた相手はローブで顔が見えづらい。
何よりその声に歓迎する意思を感じることはできなかったため、用心だけはしておかないと。
「それでは前もって教皇あてに送っておいた。親書を読んでいただけたのですね」
「はい。お嬢様のお手紙どおり教皇もぜひお会いしてお話をいたしたいということです」
さあ、どうぞと促がして案内をすると言った相手について歩きながらも何だか嫌な予感がした。
毛が逆立つような感覚に案内人の十二の宮についての説明を気に止めていなかった私は案内人が剥ぎ取ったローブに視界が塞がれてしまい。
「だが、お前らごとき第一の白羊宮にもいかせん!!この白銀聖闘士矢座のトレミーがな!!くらえ!ファントムアロー!!」
案内人であっただろう男の敵意を込めた大きな声。
「な…なんだ。この矢は!?」
「幻覚か!」
シリュウ君達の戸惑ったような声の後にセイヤ君が必殺技的なものを放ったようでローブが落ち、その後に案内人だった男が倒れる音が続き。
「なんだこいつあっけねぇ。こんなヤツが白羊宮の守護人なわけないだろう」
「フッそのとおりよ。おれは教皇様から直接、城戸沙織をほうむるようにいわれただけだ」
無事に倒したらしいと彼らの会話で気づいた。その動きはやはり私にはついていけないようだと自分の役立たずっぷりに嘆くよりも先に私の隣り居た沙織お嬢様の身体が揺れた。
「わん!」(危ない!)
倒れるその背に回り込んで頭を打たないようにと身体で受け止める。
「ああっなんとお嬢さんの心臓に黄金の矢がつきささっている――っ!!」
矢が心臓にささってるってどういうことなんだと混乱しつつも何とか受け止めた彼女が落ちてしまわないように身動きしない私を置いて進む話。
男に射られた矢は心臓に当たっているけれど教皇であればその矢を抜けるらしく、抜いたら沙織お嬢様は助かるらしい。
ただし十二時間以内に十二の宮を突破し、教皇をこの場に連れてこなければ行けないのだという。そのためにはセイントであるセイヤ君達が頑張らなくてはいけないらしい。
「辰巳、シロっ!お嬢さんをたのんだぜ――っ」
「わんっ!」(はいっ!)
「お…おまえらこそ、かならず教皇の野郎をつれてきてくれ。十二時間以内だぞ!」
何も出来なかった私だけれどセイヤ君達が戻るまでは沙織お嬢様を守ってみせると気合いをいれる。
辰巳さんが火時計が消えるたびにあげる悲鳴にも似た声を聞くだけのただ過ぎていく時間は必要以上に長く感じられてしまう。
八番目の火まで消えようとしているという彼の声に焦っていた私の耳に足音が聞こえた。
それは待ち望んでいた上からではなかったので周囲をうかがえばいつの間にか大勢の人々に囲まれているらしい。
「ヴゥゥ」
唸り声を上げて辰巳さんに注意を促がす。
「レウコン、お前もつらいかもしれんが矢を受けたお嬢様のほうがつらいのだぞ!お嬢様おいたわしい」
けれど、彼には通じなかったようで私が沙織お嬢様の布団代わりとして長時間伏せていることに不満を持ったと思ったらしい。
彼は時間によって徐々に深くささっていく黄金の矢を無理矢理に抜こうとしているようで、感じられる呪術的なものからしてそれは無理だと私が鳴く前に彼を止めたのは妙な集団だった。
セイヤ君達と同じく身体を鍛えているのだろうとわかる男達は辰巳さんを馬鹿にし気を失っている沙織お嬢様に気概を加える気であることが彼らから感じる不穏な空気で気づき、そっと出来るだけ衝撃を与えないように彼女を下ろす。
「なんだおまえらぁあやしいヤツラめ!!」
辰巳さんは囲まれてしまっているというのに彼らに向かって竹刀を突きつけている。
「あやしいのはどっちだ」
「女神の名をかたりこの聖域までおとかけてきた不届き者が……」
沙織お嬢様を本物と認めるはずのない偽者の教皇を上とする彼らからすれば彼女達の存在は侵入者でしかないのだろう。地上を守る戦士としては私からすると品がなさすぎると思う。
彼らが話している間に私は元就達から貰った神器、私の武器を使うために背に具現化させる。
「黄金聖闘士や教皇の制裁を待つまでもない!このオレたちであの世へおくってやるわっ!」
「バッカも〜ん!! 剣道三段この辰巳徳丸が命にかえてもお嬢様には指一本ふれさせんぞ!」
一人倒した辰巳さんの後ろから攻撃をしようとした相手へと頭突きをいれて頭を低くして構えた。
「ガルゥゥゥゥ!」
「何だ!この生意気な犬は」
蹴りを入れてこようとした男の足下を通ってその背後から鏡で打ち付ける。
「レウコンっ!お嬢様をお守りするんだっ!」
「わんっ!」
辰巳さんの声に鳴いた後に勾玉で周囲の男達を吹き飛ばした後に沙織お嬢様の傍らに飛び降りる。
「なっ、何!一体何が起きているんだっ!」
囲んでいた男達の輪が広がったのは私からの勾玉攻撃を見ることが出来なかったからだろう。
真実の姿を見ることが出来ない彼らには目に見えない何かから攻撃されたとしか思えないはずだ。
「お嬢様の髪の毛一本でも触れたら命はないぞ!」
にらみ合い硬直状態だった私達を動かしたのはその一言だった。
ジャブ君達が沙織お嬢様の危機に駆けつけてくれ、蜘蛛の子を散らすかのように男達は逃げ出してしまいその後はセイヤ君達を信じてただ待ち続けることしか私には出来なかった。
沙織お嬢様は助かったけれど、今回の偽の教皇、善と悪の心にわかれてしまったというサガという人が起した反乱によってたくさんの人の命が落とした。それでも彼もまた被害者の人のように思う。
その心を理解し、共にいることが出来る誰かがいたのなら彼もまた沙織お嬢様……アテナと共に戦う一人だったのだろうと思うと残念でならなかった。