聖大神02


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毛利元就となった松寿丸君と再会し、太陽神を崇めている彼のお陰がチビテラスではなく、アマテラスと同じくらいに成長した私はしばらくのんびりと暮していた。
人々から捧げられた幸福だという気持ちはいっぱい、ご飯も満腹になるまでたっぷりともらえて気力体力充分な私の前にそれは現れた。
幽門扉、次元の扉でありただ人には見えないそれが現れたということは私に向かわなければならない場所があるということだった。ここまで万全な私の前に現れたのは偶然なのか必然なのか。
この扉を潜った先がどこに繋がっているかわからず、命の保障などもちろんない。
「くぅん」
元就に置手紙を残して旅立つことにした。きっとこの扉のことを話せば止められるだろう。
それでも私は行かなくてはならず、着いて来ると彼に言われても彼は領主であるからその誘いは断わらなければならない。
色々と面倒臭いことになるのはわかってしまうので、私はちょっとお出かけしてきます。いつ帰るかはわかりません。と、人化して書いておく。
それ以上はどこまで説明すればいいのかわからないし、下手に心配かけるのは嫌だ。
いつものようにちょっと出かけて帰ってきて、元就に叱られるぐらいがきっといい。
「いってきます。元就」
頭を下げて、私は狼姿へと戻ると幽門扉を開けてその中へと飛び込む。



飛び込んだ私の耳に届いたのは大歓声。人々の熱狂する声に私は耳を伏せる。
いきなりの大きな音に一体どういうことかと辺りを見回せばたくさんの人々を収容出来るコロッセオのような建物だった。そして、この世界は人々の服装からして私が生きた世界に近いようだ。
私は一番上の席よりも上の通路部分に出てきたらしい。そして、後ろを振り返っても幽門扉が見えない。
周囲を見渡して特にこちらを見ていて狼が突然現れたことを驚いた人間はいないようだと確認してから、どうして私が此処に来たのかと確かめにこの近くを探ろうかと踵を返そうとしたところで何かが気にかかって視線を動かせばステージをはさんだ向こう側から私を見ている人がいた。
あからさまに特別席らしき場所に白いドレスを着て杖を握って座っている女性。知り合いではないはずなのに見覚えがあるような気がして、こんなことが前にもあったようなと首を傾げると。
「レウコン」
聞こえないはずの距離、それでも聞こえた気がした。
聞き覚えのない凛として落ち着いたその声は懐かしい響きを持っていて。沙織お嬢様だ。
松寿丸君が元就になったように、沙織お嬢様は女王様になったのかっ!って、違う違う。沙織お嬢様は成長してもお嬢様です。
私は沙織お嬢様の元に向かうために外周の人々の足を避けてひた走り、沙織お嬢様のところへと近づいていく。
「こらっ!どこから迷い込んだんだっ!」
辰巳さん、あんまし変わんないね。でも、どこからって言われても別次元からですとしか答えられないよ。
「やはり貴方だったのですね」
止めようとした辰巳さんを避けて沙織お嬢様に近づいていくと座っていた椅子から立ち上がって私を迎えてくれた。
「わんっ!」
覚えていてくれたことが嬉しくて尻尾を振って返事をすれば、スルリッと細く美しい指が私の頭をひと撫でし。
「……レウコン、見えますか。ここで星矢達が戦うのです」
中央にあるステージへと視線を向けた沙織お嬢様の瞳は周囲の熱狂と正反対なほどに恐ろしいほどに静かなものだ。
セイヤ君の名にステージのほうへと視線を向けるとステージ上には対峙する二人の人間の姿があった。
ペガサスとベアの戦いの準備が整っていると放送される。リングネームというものだろうか?
「此処からなら戦いを見守ることが出来ます」
沙織お嬢様はそう言うと座ったので私はその後元でお座りをする。
「レウコン、今日この日に貴方が再び私の前に現れたことそれが何を意味するかはわかりません。ですが、貴方は私や星矢達に優しかった。その優しさを私は信じます」
そういえば私はお嬢様の目の前でお池に飛び込んで消えたんだった。妙な犬だと思っているはずなのにごく普通に受け入れた沙織お嬢様ってすごい子だ。
「そして、この戦いは私にとって必要なこと止めてはなりませんよ」
何だか後ろからプレッシャーがきた。必要なこの戦いって何のことだろうか。
よく解らないながらも沙織お嬢様はかつてよりも色々と成長したらしい。中身はあんまり変わってない私とは段違いです。
放送ではペガサスセイヤ、ベアゲキの対戦が始まることを告げた。やはりリングネーム的なものだったのか。
私ははじまった二人の戦いに目を疑った感じるプレッシャーの高さは元就達から感じるものと遜色はない。
この世界で少しだけ過ごしていた時は平和であったが、それを必要とする何かがこの世界にはあるのだろう。
彼らにそれだけの力を身につけさせ闘わせている。沙織お嬢様の目的はこの戦いの先にあるのだと言うのなら血生臭いことになりそうだった。
視線の先では星矢が激の両腕によって宙吊りにされて顔色を変えている。沙織お嬢様に言われていなければ筆調べを使っていたことだろう。
「くぅん」(セイヤ君)
ステージ上での戦いの結末はセイヤ君の勝利だった。お互いに怪我をしているようだったけれど死んでいないことに安堵し、続くジャブ君達の戦いはセイヤ君の時よりはハラハラせずにすんだ。
続く戦いは遅れて来た氷河君と市君の対戦で、よくわからないけど氷河君は氷人間になったらしい。元就達のバサラ技みたいなのをセイントというのになったらしい星矢達も使えるみたいだった。
セイヤ君とシリュウ君の戦いはまさに死闘というものでシリュウ君は心臓が止まってしまい、それにもう一度、反対側から拳を同じ力でショックを与えれば心臓が動き出すと女の子が言いセイヤ君は自分自身も重体なのに拳を揮った。
シリュウ君と彼を支えていたシュン君はその拳の勢いに飛ばされたので、咄嗟に筆調べを使い疾風によってその勢いをやわらげる。その場で倒れた二人を見守っているとシュン君がシリュウ君の鼓動が戻ったことを告げた。
「レウコン」
筆調べを認識したらしい沙織お嬢様、やはり只者じゃないみたいだ。
試合じゃないので手助けしても大丈夫だと思うと目で訴えてみる。
「ありがとう」
叱られてしまうかと思ったのにお礼を言われて頭を撫でられた。
以前の沙織お嬢様とは違うなと思いつつ、頭を撫でられていると視線を感じたのでそちらを向けば氷河君がこちらを見ていた。もしかしたら私が筆調べを使ったことに気付いたのかもしれない。
バサラ技が使える元就達のようにこの世界のセイントという存在は筆調べの行使を認識する可能性はある。沙織お嬢様もそうかと言うと何かが違う気がする。
「フェニックスは現れませんでしたね。この戦いで今日は終了としましょう」
「不戦勝ということでよろしいのですか?」
「今この場に現れていないのですから致し方がありません」
辰巳さんが沙織お嬢様の言葉を伝えに走り出す。
「次の戦いは四日後の予定です。貴方も見ますか?」
「わんっ!」(見たい!)
「では、いきますよ」
見れるものならば見たいと返事をすれば沙織お嬢様が歩き出したので、私はその後ろを着いて歩く。
この場に幽門扉が現れたのは沙織お嬢様やセイヤ君に何かがあるということだと思う。
四日後、私を隠して飼っていた最後のメンバーである一輝君と一方的だけれど再会を果たした。そもそも氷河君以外は彼らは私を認識していなかったと思うけど。
沙織お嬢様の指示によって盗まれてしまったゴールドクロスを追っていった四人を私も追おうかと迷ったけれど、沙織お嬢様のことも気になるのでその場に残ることにした。
太陽神として力を得ていても、この世界の神ではない私が彼らの戦いに手出しすることが許されるのかが解らない。
神としての力を得れば得るほどに、その力が私だけの勝手で揮っていいものではないと思うからこそ迷う。人であった頃は神は迷わないものだと思っていた。
それが違うと知ったのは自分自身神となって人だった頃と変わらず迷い続けているから、太陽神を信仰してくれる人達の祈りが届いてもすべてを叶えることなど出来ない。
神となっても結局は自分の手が届く範囲しか守れなくて、力を得ても取りこぼすものが多すぎる。
思い悩んでいたらいつの間にかいコロッセオに居たお客様達が帰っていったようだ。
「お嬢様、屋敷にお戻りになられては?」
「必ずや星矢達は黄金聖衣を取り戻してきてくれるでしょう。私はここで彼らを待たねばなりません」
辰巳さんに屋敷に戻るように言われたけれど首を振りそう言った。
指示した者として残る彼女の傍で横になっていた私はいきなり揺れた建物に飛び起きた。
「きゃっ!……一体何が?」
不吉な音を立てて建物にヒビが入っていく。いきなり廃墟同然とかしていく建物に慌てて周囲を探る。
「お嬢様っ!ご無事ですかっ!」
「私は大丈夫です。今の地震による被害状況を調べてきなさい」
地震?僅かに感じられるこの揺れは本当に地震だろうか。
「しかし、お嬢様は?」
「私は星矢達を待ちます」
「ここは危険です」
まだここに残る気満々という無茶苦茶な沙織お嬢様。
でも、必死に闘っているだろう彼らを待つというのだから協力しようと安全な場所をみつけ。
「あんっ!」(こっち!)
「レウコン?そちらのほうが被害は少ないようですね。辰巳、私はあちらで待っていますから私の言うとおりに」
「うぅ……わかりました。お嬢様」
渋々といった様子で離れていく辰巳さんとわかれて沙織お嬢様を先導して歩く。
「お前が城戸沙織かっ!」
男の乱暴な大声に視線をそちらへと向ければセイヤ君達と同じような格好をした男達がいた。
「貴方達は」
「我らは教皇より命じられ掟を破った青銅聖闘士共を抹殺にきた白銀聖闘士だ。ついでに青銅共が私闘をおこなったこのグラードコロッセオも破壊してやる!!」
そう言った男が拳を揮えば壁に穴があき、ヒビが入る。
先ほどから建物に損傷を彼らが与えていたのだろう。
「怪我をしたくないのなら逃げることだね」
男ばかりと思っていたが女性もいたらしい。
「……くぅーん」(行こう)
沙織お嬢様のドレスの裾を口で軽く噛み引っ張る。
「わかっています。レウコン」
「お嬢様っていうのは飼い犬に変わったことをするね。毛を染めるなんて」
「まったくだな」
「くぅ」(まさか)
毛を染めるという言葉に彼女らが私の姿を認識していることに気付く。筆調べの力を認識できることと私の姿を認識できることは同じようで違う。
私の真実の姿を認識できるのは神の存在を信じている者だけだが、筆調べの力はその人自身が異能を持っている場合に気付くことがある。
そのためにセイントという存在を私は異能者であると認識していたが、神の存在を信じる者達でもあったらしい。
「忠告に従うといたします」
彼らのように力ある人間が後ろから沙織お嬢様を攻撃するとは思わないが、沙織お嬢様の後ろについて歩く。
「星矢達は私のことをひどい人間だと思っているでしょうね」
しばらく歩き彼らから充分に離れた頃に彼女はポツリッと呟いた。
「くぅん」
小さい頃の沙織お嬢様のことを思うとそれは否定できない。
今の彼女は成長しているみたいだけれどそれをセイヤ君達が理解しているかといえば何ともいえない。
私だけが一方的に見て再会しているだけで、今の彼らと触れ合ってはいないのだから。
「それでも私は立ち止まるわけにはいかないのです」
彼女から感じられる強い意志それほどのものを彼女は背負っているらしい。別れている間に彼女に何が起きたのだろう。
破壊音が聞こえなくなった頃、星空が見えるところで立ち止まった彼女は何も言わずに星空をただ見上げ続けていた。
その姿に何も言わずに後ろでセイヤ君達が戻ってくるのを待っているとゴールドクロスを取り戻した四人が身につけていた鎧はボロボロだけど無事に戻ってきたことに喜んだけどこの場の雰囲気はとっても悪い。
どうしたものかと沙織お嬢様とセイヤ達を見ていると沙織お嬢様から驚きの告白だった。沙織お嬢様が実は女神アテナでセイントと呼ばれる少年達と地上を守る存在だという。
本来はサクチュアリという場所にいるはずだけど、そこにはアテナであるはずの彼女を害する悪い人がいてそんな彼女を連れてアイオロスというセイントの少年が逃げ、セイヤ君達の父親が沙織お嬢様を預けられて……って、沙織お嬢様、さすがにセイヤ君達の父親である城戸翁はいい人じゃない。
その話を聞いていると別にアテナの聖闘士とするために子ども達を儲けたわけでないし、そうだとするなら実の子だと知っていて孤児としていたとか最低野郎だよ。そんな人だと知っていたら城戸翁に会った時に墨を塗りたくったと思うよっ!
去っていくセイヤ君達の気持ちも解るけど、沙織お嬢様の話も本当だと解ってしまった。彼女にはセイントであるセイヤ君達が必要なのだ。
彼らに戻ってきてもらうために追おうとしたところで、空をカラスが覆い一斉に飛び掛ってきた。
「わんっ!」(一閃っ!)
ヒモのようなものを捲かれそうになったので慌てて一閃の力でヒモを断ち切る。
「きゃあぁっ!」
悲鳴に視界を遮るカラスと向かってくるカラスによって沙織お嬢様と離されてしまっていたことに気付く。
それに気をとられた瞬間に私にもヒモが絡みついた。筆調べを使おうにも身体の自由が利かない状態では使えない。
「うぅぅぅっ!」
身にまとっていなかった神器をまとえば背に雷が走った。天叢雲剣、雷を宿す剣を揮ってヒモを叩き切る。
「うっ」
「なにいこれは――っ!?」
シリュウ君の声に彼らが異変を感じて戻ってきたのだと知るが、沙織お嬢様はカラス達に浚われてしまっている。
「カラス!?」
「無数のカラスが沙織さんをつれていく!!」
「カラスもそうだがこの狼はっ!」
かなり上空にいてカラス達を止めたとしても彼女が地面に叩きつけられるてしまうだろう。
地面の下で受け止めようにも人の姿になった私は普通の女性と同じくらいの腕力しかないので、無事ではすまないのは予測できる。
「バ…バカな!」
「ほかのカラスが黄金聖衣もうばっていくぞっ!」
ゴールドクロスという言葉にセイヤ君達が苦労して取り返したのだろう金色の鎧をそれぞれの部位ごとを器用にカラスが咥えて運んでいるのが確認できた。
シュン君がチェーンでゴールドクロスの一部を持ったカラスを攻撃し、氷河君、シリュウ君もまたそれぞれ攻撃した。沙織お嬢様はセイヤ君が追うことになったらしい。
情けないことに彼らの移動速度についていけない私はこの場に残り、他の三人がゴールドクロスを持ったカラスの相手をすることの手伝いをする。
「なんだとっ!」
「いきなり竜巻が!」
「カラス達が落ちてくる」
私が起した竜巻によってカラス達が空から落ちてくる。
羽根を傷つけたわけではないので再び飛ぼうとするカラス、彼らはまだゴールドクロスを諦めていないようだ。
「わぁおぉぉぉんっ!」(やめなさいっ!)
カラス達の視線がこちらに向いたので胸を張り。
「わんっ!わうくぅーんわんわんっ!」(カラス達っ!それは大事なものなの諦めてっ!)
動物達に意思を通すときは勢いというものが大事、人とは違って言葉ではなく想いを伝えなければ通じないからだ。
「何だ?犬の鳴き声に大人しくなったぞ」
「お嬢さんと一緒にいたこの犬にはやはり何かあるのか?」
氷河君、その胡散臭いものを見るような瞳はやめてほしい。
「この子、シロ?」
「わんっ!」
シュン君に返事をすれば彼は顔を輝かせて。
「元気にしてたんだねっ!」
私の両脇を抱えて抱き上げてくれたが人一人分の体重を軽々と持てるとかシュン君は強くなったものだ。
「わんわんっ!」
「どうしたの?」
彼の成長っぷりを褒めてあげたいけれど今はその状況ではない。
沙織お嬢様が連れ去られたほうへと視線を向けて、セイヤ君に続いて欲しいと視線で訴える。
「お嬢さんのことを気にしているのだろう。しかし、なんでカラスがお嬢さんやこんなものを……」
シリュウ君は私の行動の意味に気付いたらしい。
「ま、まさか……」
氷河君の話はシルバーにクロウという人がいて、その人はカラス達を手足のようにつかいこなすらしい。
カラス達に話を聞いてみるとダチに頼まれたからみたいなニュアンスだった。
ただ沙織お嬢様のことは頼まれたけど、ゴールドクロスはキラキラしてて綺麗だからコレクションにするつもりだったようだ。
君ら、ダチに頼まれたことを私の言葉で諦めていいのかと思ったけどこっちはついでだったのか。その後は回復したカラスから飛び去っていく。
「星矢を追わないとっ!」
「ゴールドクロスはどうする」
「一人残るか?」
三人は取り戻したゴールドクロスをどうするかでもめているようだ。
人化すれば言葉が通じるだろうが、私に任せてと言ったところで怪しい女に任せてはくれないだろうし。
「お前らっ!お嬢様はどうしたっ!」
そんなところに現れたのは辰巳さん。
「カラスに連れ去られてしまった」
「星矢は先にそれを追っている俺達も今から向かう」
「辰巳さん、黄金聖衣をお願いっ!」
これ幸いと後を任せて三人は簡潔に説明すると駆け出してしまった。
その速度は着いていくことが難しいというか、私の最高速度で追いつけるかどうかっていう速度なんだけど。
「おっ、お嬢様っ!」
ゴールドクロスの篭手の部分を拾い抱えた辰巳さんは三人が去っていったほうに心配そうに視線を向けていた。
私は辺りに散らばっているゴールドクロスを加えて胴の部分へと集める。
この世界は表面上は人であった頃の私の世界と似ているけれど、裏ではとんでもないことが起きているらしい。
それとも、私が生まれた世界もまた裏では何かとんでもないことが起きていたのだろうか?







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