聖大神01


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薄い膜を突き抜けるとそこは見知らぬ庭で、何だか私の目的地はここではないような気がした。
どうしてここきに居るのだろうと首を傾げていると子ども達の声が聞こえてきたので繁みに潜みながら移動を開始する。
私が生きていた世界みたいなところだと捕まると保健所につれていかれる可能性もあるから、ここが何処だか確認しないとね。
子ども達の声が近くなったので明るいほうへと顔を覗かせるとたくさんの男の子達がいた。彼らの格好は私の元居た世界と似通っていて、捕まると保健所行きもありと推測できた。
「何だ?こいつ」
だというのに早々に私は発見されたらしく、その声はほぼ真上から聞こえてきた。
そちらを見上げれば周囲に居る子ども達と同年代の男の子がいた。
「あんっ」
お気になさらずと小さく鳴いてから私はずりずりっと後ろに下がろうとしたがしゃがみ込んだ少年に首根っこを押さえ込まれてしまった。
「何で子犬がいるんだ?」
「くぅん?」(さぁ?)
少年の言葉に首を傾げると彼もまた首を傾げた。
「星矢、どうしたの?」
「……」
「ああ、瞬、一輝。ほら」
しゃがみ込んでいる少年、呼ばれた名前からセイヤ君の影に隠れて彼らには私のことが見えなかったらしく、覗き込むようにして二人の少年がこちらを見た。
ただ一人の子は可愛らしいので、もしかしたら少女かもしれないとは思うけどこれだけ男の子ばかりのとこに女の子一人は浮きそうだ。
「わぁ!可愛い。沙織お嬢様の飼い犬かな?」
「首輪をしてない」
「じゃあ、のら犬か?」
少年らの言葉にやばいと慌てて逃げようとしたものの。
「見つかると大変だよ」
「ここだと来るかもしれないし、別のとこ連れてくか」
可愛らしい子とセイヤ君はそう会話するとセイヤ君が私を抱えあげて移動をはじめた。どこかに逃がしてくれるのなら助かると嬉しく思って尻尾を振る。
そんな私を興味深そうに見つめてくる三対の目に何か?と首を傾げてそれぞれに視線を向ける。
「可愛いね」
ほにゃとした柔らかな笑みを浮かべた可愛らしい子に、君のほうが可愛いですと思っていると抱き上げてくれている子が。
「大人しいから、隠れて飼うか」
「お嬢様に見つかったら面倒だぞ」
「大丈夫だって!一輝」
その発言は激しく不安です。ここがどこだかわからないので面倒見てくれる人はほしいですが、子ども達が黙って飼うというのは大変だと思う。
「兄さん、僕も飼いたい」
「見つかるなよ」
一番、大人な発言していた子であるイッキ君があっさりとシュン君の一言で賛成派にまわった。
兄弟仲よくはけっこうですが、そこに私が巻き込まれるのはちょっとばかり勘弁して欲しい。そうは思えど子どもらの期待にそえないのは心苦しいので誰かに見つかるまではお世話になろうかと思う。
「じゃあ名前を決めようぜ」
「どんな名前がいいかな?」
「シロでいいだろ」
毛並みですよね。それ、毛並みでしかないですよね。
「わかりやすくて、いいとおもうよ。兄さん」
「えー、ありきたりじゃん」
シロという名に不満らしいセイヤ君は頬を膨らませて反対した。
「何か他に候補があるか?」
「えぇっと……ポチとか?」
それもまた日本で飼われる犬にとっては定番ですね。どっちでも私はかまわないので彼らの決着を待つ。
「シロとあんまり変わらないと思う」
「シロでいいよ。シロで」
セイヤ君が折れて私はシロと呼ばれることになった。呼ばれ慣れてるので呼ばれて無視をするようなことはなさそうだ。
子ども達に用意できるご飯とか少ないでしょうし、お腹空いたところで死ぬわけではないので多少の空腹は我慢します。頑張りますよ。
そう決心した次の日にはシリュウ君に見つかり、三日後には氷河君に見つかりました。どちらもセイヤ君が原因なようなので、セイヤ君はかなりのドジッ子かもしれない。
「犬にパンって与えていいのか?」
セイヤ君達が少しずつ持ち寄った食べ物、基本はパンを与えられた私はそれを食べつつ水を飲んでいるとシリュウ君が難しい顔で呟きました。
基本的に人間の食べ物は動物には味が濃いので健康を害するので、ダメなんですがそれでは私はお腹が空きますし、一応は神様なので大丈夫です。
「でも、他にご飯とか用意出来ないし」
「隠れて飼われるコイツが可哀想だ」
「氷河っ!」
おや、ケンカをはじめてしまいました。私としては悲しませたくないのでここにいただけなので、そろそろ潮時かもしれまない。
「くぅん」
「気にするな」
イッキ君は彼らより一つ年上らしく私をかまうセイヤ君達と違って、私をあまり撫でないのに情けない声をあげた私に頭を撫でてくれたみたいだ。
この歳にして、この気配りとはイッキ君は将来は女の子にもてますよ。きっと。
ぱたぱたっと尻尾を振って頭に乗っているイッキ君の手に頭を擦り付けました。
「あっ!一輝ずるいぞっ!」
セイヤ君は氷河君とケンカしていたはずなのに、それに気付いてこちらに駆け寄ってくる。
私は子ども達に撫でまくられて毛がボサボサになってしまった。それを瞬君が手ぐしで直してくれたのであまりひどくはなっていないはずだ。
セイヤ君達に隠れて飼われてから一ヶ月ほどだろうか。彼らは全員で来ることもあれば一人だけご飯や水を与えに来てくれる日などもあった。
よくわからないが彼らは全員が孤児らしく、この屋敷に引き取られて面倒をみてもらっているらしい。
同じ年頃の男の子張りを集めている理由がよくわからないと思っていたら、この屋敷のお嬢様が同じ年頃らしい。
話を聞いている限りではかなりのワガママ娘さんらしいので、私も見つかるとヤバイのだとか。なので、基本的に私は見つからないように繁みの中を移動している。
今日もまたえっちらほっちらと心の中で掛け声をかけながら、毛並みが汚れることを気にせずに匍匐全身していると女の子の声が耳に入ってきた。
「だれか馬になりなさい!」
うえええ!一体全体何を言っているの?
「星矢そこによつんばいになって馬になるのです」
ぽかんっと口をあけて呆けている間に女の子はセイヤ君に狙いを定めたみたいだ。高飛車な女の子だと思いながら声がするほうに急ぐ。
聞こえてくるのは子どもの声ばかりということは、もしかしたらイジメかもしれないとうか。彼女がお嬢様?
「口ごたえはゆるしません!おまえたちは孤児院からおじい様のおかげでこの城戸家にひきとられた身いわば奴隷も同然の身なのよ」
繁みから顔を覗かして見たのは女の子がセイヤ君にムチを振るう姿だった。
「キャンッ!」
目の前のあんまりな光景に慌てて飛び出してしまいムチに自分から当たりにいってしまった。かなり痛い。
「なっ!大丈夫かっ!シロ」
「くぅーん」
先ほどまで自分がムチに打たれていたというのに男の子は私を心配してくれた。
それに大丈夫という意味で返事をしたのに情けない声で、男の子はへにょりっと悲しそうな顔をする。
自分自身がムチで打たれていた時は怒っていたのに。
「この犬がとびだしたのが悪いのよ!」
「あんたがムチを振るっていたのが悪いんだろっ!」
私を両腕で抱え上げた男の子が女の子に抗議する。
飛び出したのは私の自業自得だけどムチを人に振るってはダメだよね。
「口ごたえはゆるさないと言ったでしょう!」
振り上げたムチに男の子は私を庇うようにして身を丸める。
「わんっ!」
「きゃっ!」
私の視界が隠れる前に吠えると視界が歪み灰色となった。
実際には刹那の瞬間を使って私はムチを一閃し、女の子の手からムチが弾かれた。
「お嬢様っ!お怪我はありませんかっ!」
私を抱えている男の子とは別の男の子の焦った声に女の子にも影響があったかとすき間から顔を出す。
ムチを弾いた時に衝撃があったのか女の子は左手を右手で抑えていた。
泣いたりしていないのでそれほど痛くはなかったと思うけど、どうなんだろう。
「お嬢様、オレが馬になります!!どうかこの邪武の背におのりください!!」
ムチを拾ってきて両手でムチを差し出す男の子ことジャブ君。
君はその歳でマニアック過ぎるよ。お嬢様のこと好きみたいだけどさ。
「星矢、その犬を放しなさい」
ジャブ君からムチを受け取りはしてもお礼も言わず、ジャブ君のお馬さん発言はスルーだ。
「嫌だ」
顔を上げてギュッと強く私を抱き締めるセイヤ君だが、お嬢様の手が握っているムチを強く握る。
またムチを使われたりして一閃をしたら、偶然と思われずに騒ぎが起きるかもしれないしと私はセイヤ君の腕から抜け出そうとする。
「おい、大人しくしてろよ」
「あんっ!」
大丈夫という気持ちを込めてセイヤ君の頬をぐりぐりっと頭を擦り付けたると緩んだ腕から抜け出し。
両手両足を踏ん張ってお嬢様の前に立つ。いくら子どもでもムチ持ってる相手とか怖い。
「じょうぶそうな犬ね。おまえをお馬にしてあげるわ」
あっ、私に乗るの?別にゲームでチビテラスも子ども達乗せてたし乗れると思うよ。
子どもが子どもに跨るというシュールな光景を見なくてすむならお安い御用です。
「止めろよっ!」
「お嬢様の邪魔はするなっ!」
「邪武お前っ!」
二人の男の子達のケンカが勃発した。
「星矢なんかにこびをうるより、私の犬になったほうがかしこいわよ」
お嬢様は私に乗ってご満悦みたいだが、この世界の子どもってこんなに怖いの?
これからの私の神生(じんせい)はお先真っ暗?
「ほら、歩きなさい」
はいはい、歩きますけどムチは止めてちょうだいね。動いてるのにビシビシとか使い方間違ってると思うの。



その後、お嬢様を乗せてしばらく歩いていたら、ハゲの男の人に捕獲されて色々な検査をされて散々な目に合ってからお嬢様の飼い犬にされレウコンという名前が付けられた。
ギリシャ語で白という意味らしいと聞いたので、言語はともかく似たような意味を人はつけるものなのだと実感した。
それから少しして星矢君達はどこぞに修行に出されたらしく、彼らを遊び相手というかおもちゃにしていた沙織お嬢様は寂しそうだった。
それを埋めるかのように私をどこに行くでも連れ歩き、パーティに行く時も車で連れて行かれて別室待機とか当たり前だった。
彼女なりに私を可愛がってくれていたわけだけれど、お庭のお池に出来ていた渦に入らなきゃと沙織お嬢様の頬を一舐めした後に飛び込んだ。
何ちゃって戦国時代で彼女を独りにしたかもしれないと私は反省したが、松寿丸君と同じようにいつか再会できるような気がする。その時には沙織お嬢様に精一杯謝らないとね。







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