観光ですか?03


←Back / Top / Next→




バスから降りるとアイザックが私の手を握ったので、思わず握られた右手を見てしまう。
凍気の使い手だからといって体温が低いわけではなくその手は温かい。
、何処へ行く?」
「えっ、あっ定番だけど清水寺を観光しようと考えている」
京都どころか日本に来たのがはじめてとのことだったので、まずは基本だろうと清水寺へと案内をしようと思っていた。
神社仏閣に興味がある人だけでなく、日本建築に多少でも興味があれば退屈はしないはずだと京都を選んだのだから定番でいいはず。
「どちらに向かえばいいんだ?」
「あっちだ」
進む方向を指差して歩き出すしながら、アイザックと話していると候補生の頃の話し方になってしまう。
デートなんだからもう少し女の子らしい口調とかで話したほうがいいだろうかと彼の様子をうかがう。
彼の左側に立っているために眼帯でも隠せない傷痕を見ることが出来た。
「どうした?」
私の視線に気付いたらしい。
「いや、何でもない」
「気になることがあるのなら言え」
首を振り誤魔化そうとすると繋いで手を少し強く握られる。
痛みがともなうわけではないけれど話すまでは納得してくれそうにはない。
「デートなのだから女らしく話したほうがいいかと思って。アイザックと一緒に居ると前のように話してしまうから……」
正直に言いはしたものの口に出すとかなり恥ずかしいことを言った気がして頬に熱を感じる。
アイザックが私を見ても顔を見られないようにうつむく。
「俺はが俺の前でどう話そうが気にはならない」
「ありがとう。アイザック」
女らしくするためならと協力してくれたり、それなのに女らしく話さないという矛盾した私でもいいとアイザックは言う。きっと彼の中では私の性別が変わろうと兄弟子として私のことを気にかけてくれている。
性別が変わり聖闘士候補生を辞め、修行地であるシベリアに居ることが出来なくなった私はカミュと共に聖域へと行くことになり、シベリアから旅立つ前日の夜にアイザックは共に修行したことは変わることはないと言ってくれた。
聖闘士となる気などなかった私だったけれど、アイザック達のためになら闘うことが出来るかもしれないと思う。でも、私より皆のほうが強いのだから私が闘うなんてお笑い種か。
「行くぞ」
「うわっ」
手を引っ張られて早歩きとなったアイザックについていくために顔を上げれば、こちらを見ていた彼と目が合い。
その瞬間に笑ったアイザックは私が落ち込んだことに気付いていたのかもしれない。彼は前を向いて歩調を緩めることなく歩き続ける。
「引っ張るなっ!」
怒るふりをして少し大きめな声を上げれば笑い声をあげてアイザックが笑った。
「この調子では目的地にいつ着くかわからないからな」
早歩きで息切れするような体力ではないから、このままでも問題ないけど。
前を歩く人達を追い抜いて予定よりも早く清水寺に到着した。
「拝観料を払わないと」
「金ならあるぞ」
財布を取り出そうとした私より先にアイザックが胸ポケットから一万円札を数枚そのまま取り出した。
「……アイザックって財布を持たないの?」
まだ若いアイザックに似合ってないようなそうでもないような。
「そもそも金自体を持ち歩かないな」
「なるほど」
私自身も聖域でお金を持ち歩かない。念のために自室に多少の金銭を入れた財布は置いてはある。
買出しの時とかのお金は支給されたお金を使っているので聖域で過ごす限り家賃、食費はかからず、衣服については候補生の服を申請すれば普通にもらえるのでおしゃれにこだわらなければ衣服の代金すらかからない。
「あれ?じゃあ、今お金を持ってるのは?」
「聖域や神殿の外に出る時には多少は待ち歩く。それに男女で出かける時は男が払うものだとカノンが言っていた」
またカノンか。今回の場合は兄弟弟子のお出かけでデートじゃなかったんだし条件違うぞ。
「……そうなんだ」
聖域に戻ったら双子座のカノンのことを色々と話を聞いてみよう。黄金聖闘士なのだから強さはお墨付きだけど人間性は重要だ。





ミロ視点

親友であるカミュは表面上はいつもどおりだが、内心では色々と大変になっているらしい。
弟子達の二人の明らかにデートでしかないお出かけに保護者として見守りに来るぐらいには、クールがどこかに家出しているのだ。
俺としては早くクールを拾って欲しいのだが、弟子二人に目が釘付けのカミュには俺内心など汲み取ってはくれないだろう。
後ろのほうではカノンが海将軍の二人に対して小言めいたことを言っているのが、聖域でのサガに似ていると思う。さすがは双子というか。
「何を頷いている」
「カノンがサガに似てると思ってな」
カミュが俺の行動に目を留めたようだ。少しクールが戻ってきたか?
「そうか」
頷きはしたがお前、かなり興味がないだろう。その視線は俺からバスから降りてきた弟子達に向かっているので相変わらずクールは家出中らしい。
俺も何気なく見ていればアイザックがの手を握り、驚いたらしいが弾かれたように繋がれた手を見てから戸惑ったようにアイザックを見る様子とか……
「勘弁してくれ」
甘酸っぱい恋物語とかリアルで見せられるのは色々と辛い。彼らの年齢の頃の俺はあんな甘酸っぱい思い出なんてないぞ。
別に負の感情を二人に向けている海将軍のようなことにはならないが、昔を思い出して切なくはなる。
「あれは」
「何処に行くつもりだ。カミュ」
目の前で動こうとしたカミュの肩を掴む。
「そのように無防備に金を出してはならんとアイザックに注意をしに」
大真面目な顔をして何を言っているのだろうか。
「海将軍から金をするような奴はそうはおらんぞ」
黄金聖闘士並のスリとかその才能を無駄にしすぎているだろう。
「それはそうなのだが……」
「二人の前に出るなど言い訳はどうするつもりだ」
聖域から遠く離れた日本で黄金聖闘士、海闘士合わせて五人など偶然で居るはずがない。
そうなれば必然的に俺達が二人の後をつけているということを知られてしまうことになるなど嫌だぞ。
「見守っていたと言う」
カミュよ。無駄に胸を張ってくれるなこんなこと情けない行動だと思わないのか。
「それだけは止めてくれ」
俺はカミュの両肩に手を置いて訴える。
「頼むから」
「わかった」
怪訝そうな顔をしていたが頷いたので一先ずは安心しだ。しかし、カミュの弟子のことになると常識など忘れてしまうのは勘弁してほしいものだ。
弟子を持たぬ俺ではあるがわからなくはない。聖闘士となった氷河、行方不明となり海将軍となってしまったアイザック、志半ばで身体におきた変異で候補生を辞めた
それぞれ才能があるとかつてカミュから聞いていた身としては、カミュは聖闘士となれなかった二人のことを気にかけているのだろうとは思う。
良い奴なのだ。カミュは……たとえ弟子達のデートについて行くとかやり過ぎな行動をとったとしても!







←Back / Top / Next→