観光ですか?02
目的地のバスに乗り込み、席が空いているので私の後から乗ってきたアイザックに。
「そこに座る?」
二人掛けの席を示して聞くとアイザックの視線が一度席を見たがすぐにそれ。
「お前から先に座れ」
「ありがとう」
窓際に座り、隣にアイザックが腰掛ける。隣に感じる温もりはしばらく離れていたけれど覚えのある懐かしいもので、この距離でも居心地がいい。
「バスで向かわずとも歩けばよかっただろう」
何故か反対側へと視線を向けているアイザック。
バスに乗るのは気に入らなかっただろうか?確かに彼も私も一日の大半を歩き回るぐらいは余裕だけど。
「観光だからね。普通はバスとか電車を使うものだし、交通手段が不便な観光地とかは自転車を使ったりするらしいけど」
「なるほど」
「でも、やっぱり歩いたほうがよかった?」
聖闘士として鍛練をし続けたからか元の世界に居た頃より身体を動かすことが私ですら当たり前になったし。
真面目に修行に励んでいたアイザックからすると身体を動かしていたほうがいいのかも。
「バスに乗るのも悪くはないが、身体を動かすほうが俺はいいな」
「じゃあ、バスから降りたら今日は歩こうか。アイザックは若いから元気だね」
視線を私へと向けたアイザックの言葉それが想像していた通りのものであったことに思わず笑う。
「お前も同じ歳だろう」
「中身はおばさんなの」
「おばさん?」
笑った私が気に入らなかったらしいアイザックに冗談めかして言えば、驚いたようなアイザックの視線に彼からすると私は元男だったと思い出した。
「えっ、あっ!ほら、この姿になってからだいぶ経つし、今後は少しでも女らしくしようと努力していて、これもまたその一環というか思わず出てしまったというか」
弟弟子だった私がおばさんなんて言ってたら複雑だろうと思い浮かぶままに言い訳をしたが女らしくの一環などという意味のわからないことを言ってしまう。
何を言ってるんだ自分っと自分自身に突っ込んでいたら、アイザックは何を思ったのか怖いほどに真剣な顔つきとなり。
「女らしく……!」
「なっ、何?」
名を呼ばれ、彼の勢いに驚いてしまい肩が跳ねる。
「女らしくするというのなら今日のことはデ、デートだと思えばいい」
「デートって」
アイザックの口からデートなどと言われるなどと思っていなかったので驚きで口が開く。
「俺達のような年頃の男女が二人きりで出かける時というのは一般的にはそういうふうに思われるんだろう?」
「そうだけどアイザックは今までデートしたことあるの?」
自分自身の知識というより、誰かから聞いた感じっぽいとアイザックの言葉から推測する。
今回のことを聞いた誰かがアイザックにデートでも言ったんだろう。可能性として高いのは服についてアドバイスしたと思われるカノンだ。
「無い」
ためらいもなく言い切ったアイザック、周囲が男ばかりだからだとは言えこれだけかっこいいのに不憫だ。
「じゃあ、はじめてが私というのはどうかと思う」
「俺はそう思わない。お前は俺がデート相手では不服なのか」
真剣な顔つきは変わらないがよく見ると何だか彼の頬が赤くなっているのに気付き、つられたのか頬が熱く感じる。
「うっ……不服とかそういう問題じゃないと思うのだけど」
「不服でないなら文句はないな。ならば、今から俺達はデートをしていると思え……いいな?」
そう言って笑ったアイザックのその笑みが不敵で、十代半ばでしかない彼が浮かべるには不似合いなはずなのにとても似合っていた。
やばい。これはアイザックのプレイボーイ化が進んでる?
双子座の聖闘士であり、海闘士でもあるカノンという人は女官の噂どおりに女の敵なのかっ!
「……わかったよ。アイザック」
ここまで格好つけられてしまったら、嫌だというと落ち込まれそうだよ。中身はアイザックより年上だけど外見はアイザックと同い年の少女なんだから、きっと大丈夫だ。
純情少年であるだろうアイザックの初デート相手というのは悪い気がするけど、少しでも今日のことを楽しい思い出にして綺麗な思い出の一ページにしよう!
心の中でそう誓った私は今日一日は笑顔を心掛けることにした。若い頃というのは笑顔なだけで充分可愛いものだもの。
カーサ視点
海闘士で一番年下であるクラーケンがデートすると知ったのは偶然だった。
シードラゴンと普段はすかした顔してる奴が、聖域で黄金聖闘士の誰かの従者をしている女の子を誘ったらしい。
それはシードラゴンに言われたかららしいが、シードラゴンめ余計なことをしやがって!
俺は海闘士になる前もなった後も女の子とデートなんざしたことねぇんだよ!年下の癖に生意気だぞクラーケンめ!
楽しんでいるところをちょっと意地悪してやろうとクラーケンのデートに着いて行くことにした俺に、何でかシーホースがついてきた。
シードラゴンもついてきたが、こっちはクラーケンのデートに協力する気だろうから肝心なときには邪魔されないようにしないとな。
クラーケンのデート相手は中性的な服装をしていたが、可愛らしい顔立ちでそれを確認した俺は苛立ちが増した。
楽しげに会話している二人がバスに乗り込んだためにそれを追う。
「くそっ、バスに乗ってるから何してるかわからねぇ」
「いつまでも乗ってないだろう」
んなこと言われなくてもわかってる!それでも今わからないのが問題なんだよ!
「カーサ 、バイアン。目立つ真似はするなっ!」
バスを追う俺達の足の速さを周囲の人間から注目されているが、俺達を追ってきてるお前に言われたくねぇよ。
そういや、黄金聖闘士達も居たんだったかと周囲を探ると黄金聖闘士達は一瞬で移動しているように見えた。
正確には瞬間移動でなくて光速で移動してバスが通り過ぎてしばらくして再度移動ということをしているらしい。
あいつ等のほうが気付かれたらテレポーテーションしてるって騒がれるんじゃねぇか?注意するならあっちにしろよな。シードラゴンのアホめ。
「むっ、カーサ!お前何か俺の悪口を言ったか?」
「言ってねぇよっ!」
何で思ったことに反応するんだよ。さすがは神すら騙そうとした男ってか?
まっ、今日の俺はシードラゴンなんざどうでもいい。
クラーケンめっ!女の子との初デートなんざ散々なものになっちまえ!