偽りの奇跡

本編 〜18〜


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タルタルガにも@ホームの入り口はあった。そうと読み取れる看板の隣の古ぼけたビルのような建物に入るといつもマップ移動をする時に感じるように一瞬、気が遠くなった。
その後で目を開けるとそこは玄関だった。私の家の物ではなく見覚えのない玄関を通って中へと進むとさながら海沿いの別荘地のようだ。
リビングと思わしき部屋には大きな窓があって、そこからは海とその先にあるらしいマク・アヌの街らしき影が見える。
先ほど欅と話したところで見たのと似たような景色であるのに欅の言葉を信じれば此処はThe Worldではなく私はログアウトした状態ということらしい。
信じるか信じないかは一先ず置いておいて欅が用意した私の部屋とやらを探索した結果、部屋というよりも家という方が正しかった。
リビングキッチンに寝室だけでなく他にも部屋があるしバルコニーまである。
入れるかはともかくとしてバスルームにトイレ、それに高級そうな家具付きとかなり豪華だ。
「ここまでくると逆に困るかも」
一人暮らしには広すぎる家、その中にはパソコンルームまである。
電化製品は使用できるのかとパソコンの電源を入れると起動音。
「……これって、ゲームの」
私が元の世界で.hackをした時に見た画面。
アイコンにはNEWの文字、一先ずはメールを確認出来るのならしてみようとイスに座りマウスを動かしクリック。
着信していたメールは一通だけだったけれどその送信者は欅で、私は確認をする為にそのメールをクリックした。



送信者:欅
 件名:気に入りましたか?

このメールを確認できているということは
さんは鍵を使って部屋に入っていらっしゃるんですね。
その部屋は気に入ってくれましたか?
部屋はとあるモデルルームのデータを参考にしてみました。
気に入らないところがあったら言ってくださいね。

それと、部屋に入った時点でさん宛てのメールは
ご使用のパソコンで確認できるようになってます。
さんは現在、The Worldからはログアウトしている状態です。
ログアウトの時に送られたメールを貴女が確認できるかが
わかりませんでしたので勝手ながらそうさせて頂きましたよ。

きちんと言ってなかったかもしれませんが、
これからはお暇なときは呼んで下さいね。



ご親切なメール内容、彼に冒険のお誘いは歓迎といった感じのお言葉を頂けた。
これって将来的には彼もハセヲの仲間になるってこと?それとも一時的に仲間になるけど最後の方で裏切るとか……いや、榊とは対立しそうだしその対立者っぽい欅が敵に回ることはないかな。
どちらにしても親切にしてくれた彼にお礼のメールを送ってこう。
部屋についても豪華すぎる気もするけど特に不満はないというような返事を打つ。
打った後で他のものも見えるのかとメール以外のところを色々と確認していくとBBSやCC社の公式ホームページとゲームで見たもの以外も色々と確認できた。
此方では私が見ていた以上の情報のやり取りがされているらしい。
ゲームで見ていたのはハセヲが確認するだろう情報ということだろうか。
そう推測をつけた後で私は気になっていたことを確認するためにThe World関連のBBSをのぞき、そこで『瞬光』についての噂を確認する。
本当に私のことなのか疑問なことも書かれていたけど簡単に纏めると『瞬く間にやってきて、戦闘後はお礼も聞かずに光のように去っていくPKK』という認識をされているらしい。
お礼品とか目的で助けてるみたいなのが嫌でお礼受け取らないように急いで離れていた所為で広まった二つ名だったのか。
「……なんか微妙」
恥ずかしいけどちょっとカッコイイかもとか思ってたけど、実情を知るとよけいに恥ずかしくなった。
あと瞬光のへのお礼スレッドとかがあったので気になり見てみる。
最初の記事には読んでいるかわからないけれど言えなかったお礼を此処で書いておけば伝わるかもみたいなことが書いてあり、
私へのお礼の言葉やら目撃情報やら、偽善者に何をお礼言ってるんだよ的なことまで色々と書き込みされている。
生というわけではないけれど、The Worldで過ごしている以上に現実的な人の感情に触れたような気がした。
「おかげで情報収集は楽になったかな」
The Worldだけで過ごしていたより、外側から見ることが出来るようになったことはいい。
そこのところは欅に感謝だと思いつつも彼が何者なのかの疑問はつきない。
どう考えてもまともな一般プレイヤーさんという可能性はないけど、味方してくれてるんだから今は味方にしとこう。
私は欅が用意したこのパソコンを活用するべく様々な掲示板の記事やサイトなどを見ていくことにした。
ニュースサイトの記事を読んでた私はパソコンから発せられた音に記事から意識を戻れる。
どうしたのかとウィンドウを最小化するとメールアイコンにNEWの文字で欅から返事が戻ってきたのかもしれない。
私はメールアイコンをクリックして、送信者を気にせずにそのままNEWというメールをクリックし。



送信者:シラバス
 件名:ログインできる?

こんばんは、シラバスだよ。
との付き合いは短くないのに初めてのメールだね。
考えてみればいつもThe Worldにログインすれば
が居たからウィスパーで充分だったんだよね。
何かにメールするって考えが今までなかったみたい。
それは置いといて用件を。今、暇ならログインしてきてくれないかな?
このメールから2時間ぐらいは僕とガスパーは@ホームで話してるからさ。
にも話しておきたいことがあるから来てほしいんだ。



そのメールが欅からではなくシラバスからだと知る。
彼の話とはメールの内容からして真面目なもののような気がするけれど、緊迫したような印象はない。
何か問題、ガスパー関連の騒ぎが起きたとかではないみたいなので物語には置いていかれていないことに安心する。
此処で過ごしている間に問題解決とかされたら、ある意味で大問題だ。
それにシラバス達の話というのが一体何なのかわからなかったので気になる。
私はパソコンの電源を――ここでもそうする必要があるかはわからないけれど――落としてから玄関から街タルタルガへと飛び出した。

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