偽りの奇跡

本編 〜17〜


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マク・アヌのカオスゲートに戻った後で私は二人のメンバーアドレスを貰った。
「今から誘いますね」
楽しそうに言った欅からパーティーに誘われる。
此処まできたのだからと私はその誘いを断らずにパーティーメンバーになれば、そのすぐ後で楓がパーティーに加わった。
一体どんな話があるのかわからないが先ほどのエリアではいけなかったのだろうか。
そうだとすると今から行くエリアは一体どういったところなのかが気になる。
移転する時に感じる僅かな浮遊感の後に私は…――
「何、此処?」
見たこともないエリアというか街にいた。
「タルタルガですよ」
「カメがどうした」
呆然と呟いた私に欅が返答をしたけれど、タルタルガとはイタリア語だかスペイン語でカメの意味のはずだ。
「うわっ、意味を知っているんですか。凄いですね」
パチパチと拍手する様子が馬鹿にしているように思えるのは私の被害妄想ですか。
「……何で此処につれてきたわけ?」
「此処はネットスラム・タルタルガ、ハッカーと改造PCの楽園ですからね。貴女のような方にとっても楽園となりえるかと思いまして」
The Worldの世界観とは似ても似つかない場所、どう考えても正規の街ではないはずだ。
そのような場所に連れてきた相手の真意を掴むことが出来なかった私は欅と楓を交互に見つめて訊ねれば、欅が答えた。
「私のような?」
私は欅にだけ睨みつけるような視線を向ける。
「えぇ、リアルがない放浪AIもこのタルタルガに流れ着くんですよ。貴女の場合はそうとは言い切れないみたいですけど、今の貴女にはリアルがありませんよね」
「……」
けれど、私の視線を物ともせずに欅はにこやかに話している。
「ついて来て下さい」
欅は先に歩き出し、その後を楓が追う。無視することも考えたけど結局は私も彼の後を追った。
彼が私の何を知っているかそして、わたしに何を求めているのかが気になる。
扉をくぐった先にあるのは先ほどのカオスゲートと思われる場所よりも混沌とした世界。
リアルと空想と、秩序と無秩序をごちゃまぜにしたでたらめな場所、彼等は真っ直ぐに進んでいくのでそれを私は追うが耳に入るのはでたらめな言葉達。
このタルタルガという場所を警戒しながらも見回して歩いて……ビルとビルの隙間のような先に張り付いたようにしているというかあるピンクのヤツが気になった。
見間違いかと思って二回見るぐらい気になった。
さんっ!こっちですよ」
少し離れた場所から欅に呼ばれ、立ち止まって待っている彼等へと走り寄る。
あのピンクのヤツのことは気になるけど今は関係ないので聞くのは自粛しておく。
欅達に追いつけばすぐに二人は扉へと入っていったので私もまた扉をくぐった。
先ほどの場所とは違って、まるで戦艦だか何だかのブリッジのような場所に出る。
「……」
ガラス張りなのか綺麗な海が広がってみえ、その先には陸地らしきものが見えた。
「此処なら気兼ねなくお話が出来ますよ。知識の蛇も関知しません」
知識の蛇をどうして知っているのかも気になったけれど、感知しないと言い切れるのが気になった。
「感知しない?」
ただそれを聞いた後で私が『知識の蛇』について知っているようにとれる反応をしたことに気付く。
「此処はThe Worldであり、The Worldではないところだからでしょうね」
「そうなんだ。で、私を此処に連れてきた理由は?」
彼はそのことに気付いているだろうと思うが、そのことには触れずに笑顔で話している。
それについて聞けば、自分が知識の蛇を知っている理由を聞かれそうな気がしたので別の質問をした。
「興味があったからです」
欅の答えは私が満足できるような答えじゃなかった。
私としてはどうして興味を引いたのかのほうが気になる。
「興味?」
「はい、いつもいるさんに興味があったんですよ。だから少し調べさせて頂きました。貴女にリアルがないことにもその時に気付いたのでCC社の方には適当に顧客データ作っておきました」
彼の言葉が本当ならば道理で私がギルドマスターになれたのかと納得できる。
CC社には私は『登録』されているのだから、私がギルドマスターを譲られても問題がなかっただろう。
あれ、そうするとかなり前に彼は私のCC社へデータを作っていたのではないだろうか。
「でも、彼を騙しきれはしなかったみたいですけれどね。それはさんのお陰で灰色に出来ましたし」
一つの可能性について考えていた私は欅の言う『彼』について理解できなかった。
「はぁ?」
私が何をしたっていうのか。
さん、此処のことを知らなかったでしょう?あの時は確かに知らなかったのだから嘘ではないですけれど貴女の反応が本当だと思ったから彼は一先ずは納得したと思うんですよ」
楽園、そういえば確かに彼、八咫からそのような単語を聞いた。
天才と何とやらは紙一重だと思ったものだけれど、なるほどネットスラムの住人ではないかと疑われたのか。
「彼というのは八咫のこと?」
確認の意味を込めて欅に尋ねる。
「えぇ、貴女と話していた彼は八咫でしたね」
私と?微妙な言い回しに私は欅を見るがそれについて彼からの説明はない。
まるで八咫が複数……ううん、彼の一つの側面というのが八咫のような言い方だ。
「それでですね。ログインをしっ放しというのは怪しいと思いましたので、タルタルガに貴女のお部屋をご用意させて頂きました」
「……@ホームのこと?」
お部屋、The Worldでいうところのギルドの@ホームだろうか。
「いえいえ、さんのお部屋ですよ。自分で言うのも何ですが良いコーディネートに仕上がったと思うんですよね」
「欅が作ったの?」
何やらとっても嬉しそうだ。こういうテンションの人についていけないと、クールダウンしてしまう。
今の私もまたクールダウンというか逆らわない方がいいやって気分になった。ほんと、どうにでもなれ。
「はい、力作ですっ!タルタルガにある@ホーム入り口から入れるようになっていてさんが部屋に入るとThe Worldからはログアウトされている状態になるんです」
「何でログアウトできるわけ?」
私の生身はないわけだし、実際にログアウトしていないのにどうしてログアウト出来るというのか。
胡散臭げに私は欅を見るが彼は簡単だとでも言うように右手の人差し指をふり。
さんのお部屋自体はThe World内ではなく別のネット空間を使用して造りましたのでThe Worldではないからです」
説明をしてくれた。説明をしてくれたが、何というか裏口入学的な感じがした。
「……それって詭弁に近くない?」
本来、The Worldからプレイヤーがログアウトすればリアルに戻る。
ただ私の場合はThe Worldではないネット空間に移動し、The Worldには居ない状態をログアウトとするらしい。
でも、実際にはリアルに戻っていないのだからログアウトしているとは言えないと私は思う。
「詭弁でも通れば正論ですよ」
「あぁ、なるほど」
こういう性格の人だったのか。子どものような無邪気さと大人の屁理屈を併せ持った彼はある意味、最強だ。
「これが鍵ですから覗いてきてみて下さい」
チャリッと鍵とキーホルダーを欅は私へと差し出す。
気になるのがそのキーホルダー……どうして、メロ・ランディなんだろう。
「どうも」
いや、気にしたら負けだ。
私は欅から鍵を受け取ってタルタルガの@ホーム入り口を探しに行こうと背を向ける。
「あっ、カオスゲートからタルタルガと他の街の行き来が出来るので安心して下さいね」
「どうも」
安心するよりも、The Worldには欅の魔の手が何処までも伸びているような気がする。
なんかこれだけのことをできるのなら……欅がAIDAとか倒せばいいんじゃないの?と、思うけれどやはりハセヲでないとダメなんだろうなぁ。
主人公ハセヲの今後の運命も気にかかるけど、私としては今後の自分自身の運命の方が気にかかる。

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