偽りの奇跡

本編 〜14〜


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狩りする気になった私のやる気が一気に急降下。
きっとリアルがあれば気分がのらないとログアウトしていたことだろう。
榊と一緒で彼も悪い人間ではないんだろうけれどね。
「天才と凡人の差とやらは深い」
ため息をついた後に私はカオスゲート近くのプラットホームに転移しようとプラットホームに向ったが転移する前に黄色いPCが転移してくる。
綺麗な青髪をしたそのPCにとてつもなく見覚えがあった。
「そこのカレー色した人」
見覚えがありましたとも……。
「カレー色ってあのなぁ。久しぶりだっていうのにそれはないんじゃないのか?……って、なんか機嫌が悪そうだけど?」
私の呼びかけにクーンは呆れたような笑顔を見せたけど私の雰囲気に気づいたのか首を傾げた。
「機嫌が悪くならないわけないでしょうが?機嫌がよくてもクーンの顔を見たら機嫌が悪くなるわよ」
今の気分の低下はクーンが原因ではないけど、会ったら文句を言おうと考えていたことが一つあったのでそれを今言ってしまうことにする。
クーンと次にいつ会えるかはわからないしね。
「そこまで嫌われることをしたかなぁ」
「覚えてない?ねぇ、覚えてないと言うの?」
これっぽっちも覚えていない様子のクーンの近くへとよってその胸あたりに人差し指を押し付ければ、彼は仰け反り。
「いや、まぁ……黙って抜けのは悪かったとは思う。思うんだけど、俺にも…」
私がカナードに入る前から了承していた事柄をごにょごにょと言い訳し始める。
「それは別にいいの」
「へっ?」
気にしてないことを伝えたつもりが、クーンは呆気に取られたような顔をした。
「事情があったんだろうとは察してあげたげる。いなくてもやってけるし」
その顔を見ててもかまわない気もしたけど、私は気にしてないということを言った。
ついでに要らないことを言ったのは気分がのらない所為の八つ当たりにちかい。
「はぁ……それは頼もしい言葉だこと」
あからさまにため息をついたクーンが私を上目遣いで見てくる。
うぅ、何でそんな仕草で見てくるのよ。
「……でも、居ないより居てくれた方がいい」
八つ当たりということもあって本気で言ったわけではない。
そこのところを考えればこれぐらい言ってもいいだろうか。
「よかった。思わず嫌われてたのかと思った。が察してくれたように忙しくてさ。
 暇になったらカナードの方には顔を出したいと思ってはいたんだ」
私の言葉にパッと電球の灯がついたみたいにクーンが笑顔で話し出した。
こういった様子が彼を憎めないところ。
「それは良いって本当に。それよりさぁ……ギルマスの件って誰に断って譲ったのかなぁ?」
ただ、そうだからといって納得できないこともある。
本来はシラバスのはずの2代目ギルドマスターをどうして私に譲ったりしたのか。
その所為でお話が変わるかもしれないと戦々恐々しているのだ。
スズイッとクーンにもっと詰め寄ればジリジリとクーンが後ろに下がる。
「そのことか。最初はシラバスにお願いしようと思ってたんだけど話してるうちににって流れになってさ」
ギルマスを譲った件はクーンはあまり悪いことだとは思ってないらしい。
人との認識の違いが身に染みて思わずがっくりと肩を落としてしまう。
「どうしてそう流れるのか意味不明」
話してるうちにってクーン、シラバスに洗脳でもされたとでもいうつもりだろうか。
「ほら、はかなり面倒見がいいだろ」
「はぁ?」
カナードの活動に私はほとんど参加してない自信がある。
ギルドマスターになってからはクーンが抜けて寂しそうな二人に多少は協力してるけど。
「この間、ガスパーががお店の為に商品をいつも揃えてくれてるってメールをくれたよ。
 前々からカナードのギルドショップはのおかげで商品の品揃えはよかったけどな」
「あっ、あれは売り物がないとガスパーが店番できないから」
ギルドショップは店番がいないと開かない仕組みだけど、商品がなければ元々開きたくても開けない。
そして、その商品を増やすのはギルドマスターだけという仕組み、話によるとギルドのランクが上がれば増えてくみたい。
……月の樹にいる隊長達みたいなのをギルドマスターが任命するという話を聞いたことがある。
「売れると補充もばっちりという話しだし、俺よりもギルドのことは面倒見てく……うわっ!」
「カナードはギルド活動の方がメインでしょーが。忘れちゃったの?元マスター」
話しているクーンの手を掴むとグイッと引っ張って、少しバランスを崩したクーンの肩が下り彼の顔が私の目の前に来ると大きな声で言ってやる。
「それに、私よりも面倒見がいい人を見つけたらその人にギルドマスターは譲っちゃうもんね」
ふんっと鼻を鳴らす勢いでそう言ってから私はクーンの腕を放した。
っ!なっ、何を言って――…」
クーンの声を無視して私は転移する。
どうしてクーンがカナードを抜けたのかは知ってるし最初からそうなるとわかってた。
なのに、私にギルドマスターを任せてよかったという風な彼を見ていたら何となく嫌だったのだ。
「クーンの馬鹿」
転移後の私の第一声を聞く人は誰もいなかった。

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