偽りの奇跡

本編 〜7〜


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ハセヲと知り合ってからも私はソロをするのを止めなかった。
彼がシラバスやガスパーよりもログインしてるとは言えどその全てに私を誘うわけではないし、私からの誘いもあまり頻繁にしないように気をつけていた為に暇な時間が起きる。
そんな時は暇つぶしで適当に考えたワードでレベルが高すぎない限りはそこに飛んでいた。
今回はかなりレベルが低い神社のエリアですぐに3層目まで行ってしまった。しかし、現実にこんな神社あったら嫌な広さだ。
この層で終わりだろうかと思いながら室内の敵を倒していれば。
「まさしく、瞬く光りが如きかな」
何やら聞き覚えのある声と口調にそちらへと視線を向け。
「……誰?」
知っているけど、初めて会う人達なので訊ねれば、彼は笑みを浮かべ。
「これは失礼した。私の名は榊、月の樹の二番隊隊長を務めている」
やはり予想通りの人物でしたか。
そうすると後ろに居る二人のキャラのうち髪の短い方はきっと彼だろう。
「私は…」
「君のことは知っている。PKKの瞬光の
「はぁっ?」
彼の名乗りを聞いて一応はこちらも自己紹介と洒落込もうとした私を遮った榊に驚いたのではなく、榊が私をPKKと共に言った言葉にあった。
「しゅんこうぅ?何それ」
どう考えても通り名とかそういうのだとは思うけど、私が名づけられるなんて思ってもみなかった。
名づけたのが誰にせよ。名付けられたということは私が普通よりは目立っている存在だということだろう。
「……知らなかったのかい?」
驚いたのは私だけでなく、榊達も驚いていた。
もしかして知ってないといけないぐらいに有名どころなの?
「あれだけBBSを騒がせてるってのに、見てないのかよ」
たぶん、松だと思うキャラが私へと話しかけてきた。
「うん、私はBBSとか見ないからさ」
肩をすくめて私は答える。正確には『見れない』が正しいけどね。
松の様子だとBBS、たぶんYOMOYAMAの方で私のことが騒がれているんだろう。
後にはハセヲが話題になったりするはずだけど……いや、ハセヲについては今でも少しは騒がれてるのかな?
「PKKという人種は人を気にかけたりする必要はないってことか?」
「松っ!」
鋭く彼の名を呼んだ。私の予想通りに松で問題はなかったらしい。
「っ……わかってますよ。榊さん」
何処となく申し訳なさそうに松が榊に言った。
こらっ、謝るのなら私だろうがっ!とは思うが此処でまともだと思うこの突込みを入れると変に反応されかねないので大人な私は流そう。
「えっと、私に文句言う為に話しかけたの?」
なんて思うわけないじゃないの、そういうことを言われる筋合いはない。
「少しばかりご挨拶を……と、思ったのだが不快にさせたのなら謝ろう」
「別にいいけど月の樹って喧嘩腰のギルドなんだね」
にっこりと微笑んで答えておく。
「……月の樹ではPKやPKKを推奨はしていないのでね」
言外にこちらがそういったことをされても文句が言えないとでも言ってるのかな。
言葉遣いが丁寧な分、榊のほうが松よりも回りくどくて苛立つ。
「イコール、PKKである私を快く思っていないってわけか……」
快く思われていないのならばあまり関わらなければいいだけだろう。
私は彼らに背を向けると先に進むことにする。
「まだ話は終わっていない」
「まだ何か?」
背後からの言葉に私は立ち止まったが肩をすくめて振り返ることなく答えた。
これは相手が月の樹であるからで攻撃を受けないはず。
「君はThe Worldで日常的に起きているPKやPKKをどう思っている?」
立ち止まった為に話を続ける気にでもなったのか彼が私に問いかけてくる。
その問いに答える為に振り返り、彼らを見る。
「どちらも仕様にあるのならばしてもされてもしょうがないことだと思うけど?」
良いか悪いかは別として、出来ることをするのを誰かが止める事は難しい。
「つまりは推奨していると」
良いか悪いかの結論をつけろと言われたら私の答えは良いことだとは思っていない。
「勘違いしないで私はPKもPKKも推奨していない。リアルと違って誰かを傷つけるという罪の意識が希薄な世界だからこそしない方がいいと思っている。同意の下でされるアリーナバトルはともかくとしてね」
The Worldというリアルではない世界でこそ、人を傷つける喜びを表す人々もいることを考えると良いことにはあまり思えない。
人は競争をする生き物であるし、その為に様々な歴史は刻まれていったのだろうとも思うけど……誰かを傷つけるということを喜び率先してしているのを見るのは嫌だ。
「ならば、何故…」
「PKKをするのかって?困っている人を見かけたら見捨てるよりも助けたほうが気分的に楽なのよ。PKもPKKもPCをKILLする事には変わりはない。PKが気に入らないからそれをしている人をPKしてるだけ」
嫌だからとしている人達を止める行為もまた、独りよがりで自分勝手だ。
誰かを傷つけているのを見るのが嫌だから、それをしている人を自分は傷つけているということなのだから。
「君はPKとPKKの本質を理解している。それなのに何故、死の恐怖と一緒にいるのかが解せない」
彼が興味があるのはハセヲなのだろうか?
私とハセヲがパーティーを組んで遊ぶということはあまり知られていないと思う…んだけど、実はそうでもないのかな。
こういう時は自分でBBSを確認できない不便さを呪う。
「彼と一緒にパーティーを組むぐらいが何なのよ」
何かを言われる必要はないはずだと思う。
彼と自分が組むことで不利益を被るのはPKKする相手、つまりはPKで月の樹である彼らにはあまり関係はない。
「彼はソロで活動をしているPKKだがPK被害者を助ける目的でもなんでもない。その曖昧な態度はPKと何ら変わらないとは思わないか?それとも、君は彼の目的を知っていて傍に居るのか……」
知っているのならば教えろということだろうか。
「知らないわ。彼にとっての目的をちょっと遊んでもらってる私が知るわけないじゃないの。でしょ?」
「確かに」
チラリッと榊に視線を向ける。
何を考えているのかわからないのは、直接に生身の身体で向かい合っていないからだ。
そう考えると私の考えや行動はリアルと変わらないのに、彼らは意識して多くの行動を行っているのか。
「彼について聞きたいことがあるのなら彼に直接聞いてね」
榊が気にしているのは死の恐怖であるハセヲについてのはず、その周りにいる私なんて羽虫程度の価値ぐらいだめうから私が詳しいことを知らないとなるともう話は終わりだろう。
「君は性急だ」
去ろうとしている私の様子に気づいたのか榊が髪をかき上げる仕草と共にため息をついた。
様にはなってるんだけれどその呆れてますみたいな態度はかなり気に障る。
「……私に興味があるとは思えないだけだけど?」
こっちだって、しつこい男にため息混じりに呆れた声だせるんだからね。
「それは違う。君に興味があるから声を掛けたんだよ。彼と違って君の行動は月の樹に通じるものがあると思っていたし、先ほどからの会話からしてもそう思ったんだが……君、君の機嫌が良い時にでも今度話すとしよう」
そう言って榊は後ろを向くと元来た道を戻り始めれば、それに続いて松と残りの一人もついていく。
そんな様子を私は眺めながら思わず首を傾げてしまう。
「此処まで来てるのに獣神像の宝箱はいいわけ?」
パトロール途中だとしても此処まできたらそっち行った方がいいと思うんだけどなぁ。
ハセヲの時もそう思ってたけど彼って人の前で宝箱とか開けるのを見られたくないとか理由でもあるのだろうか。
「まぁ、いいけど」
考えたところで彼がどうしてそうするのかなんて解るわけじゃない。
私は彼が来る前にしていた事を再開することにした。
だって、此処まできたらこのフィールドをクリアしないと勿体無い。

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