偽りの奇跡
本編 〜6〜
パーティーのリーダーをハセヲに頼み、エリアも彼に任せた。
ハセヲがカオスゲートより選んだのは私が聞いたことの無いエリアワードで普段行っているエリアよりも高いみたいだ。
私が見たことの無い敵がわんさか見える。
「うわぁ、はじめてみる敵さん」
サイズは中くらいなので近付けば私よりも一回り大きいだろう。
「だろうな」
ハセヲのその一言で私は彼がかなり高いエリアを選んだ理由に思い当たる。
迷惑をかけられたりしたら彼は私を追い払えると考えているのだ。そう考えると高レベルPCであるハセヲに合わせたエリアレベルであるだろう此処は一般のPCには歯が立たないエリアだ。
ただ彼が自分のPCは助かるだろうエリアレベルを想定しているのならば何とかなるかもしれない。
一緒に戦闘不能になるというような間抜けな展開は彼とて望んでいないだろうからその可能性が高いだろう。
「此処のエリアレベルって何レベルなの?」
エリアレベルで何とか判断できると思うんだけどね。
ハセヲが素直に教えてくれるかどうかは別。
「さぁ、確認するの忘れた」
嘘付け。その口調は知ってるけど教えてやらないといういじめっ子な雰囲気をバリバリとかもし出しているじゃない。
私がじっと見つめているとハセヲがフイッと視線をそらし。
「いくぞ」
敵へと向かっていく。
まったく、この可愛くないところがハセヲは可愛いんだから。
「了解」
武器はいつものとおりに敵を選ばない無属性、手数が多い双剣を選択、ハセヲがいるから大剣がいい時でも彼に任せればいいだろう。
双剣の方が隙が少ないので私は好んで双剣を使用している。
何回か敵の攻撃を受けて怪我したけどその瞬間の衝撃と痛みは一瞬といえども遠慮したいものだった。
なので今の私は攻撃を受けないことが大前提。
「あっ、ハセヲ〜っ!」
敵と接触する前に声をかけた私にハセヲが立ち止まり振り返って迷惑そうに言った。
「何だよ」
やる気満々だったところを止めたのはわるかったけどさぁ。
「何か作戦ある?」
「はぁ?……適当にやってろよ。俺もそうするから」
作戦を一応は聞いておこうと思ったの。
ハセヲは作戦というものはないらしく、適当にというお言葉だったからきっと奔放にしてくれっということね。
「適当にしとく」
「不意打ちするからな」
私との会話を切り上げたハセヲが勢いよく敵へと先制攻撃をしかける。
その後に私はハセヲの攻撃を受けていない敵へとアーツを使用して、一気に接近する。離れている敵とかにはSPに余裕があれば駆け寄るよりも此方の方が早い。
「うわっ!硬い」
連撃でないからといっても思ったよりもダメージは通らない。
硬殻タイプでないだろう敵にこれだとこのフィールドに硬殻タイプがいたら大剣の使用も検討しとかないと……。
「諦めて帰還するか?逃煙球使ってやるけど?」
「冗談っ!多少硬くても削りきればいいだけのことだからね」
実際、ダメージを与えることができるのならば相手が回復スキルを使用しない限りは削りきる自信はある。
相手の攻撃を避け、時には攻撃を受けながらだから時間は多少掛かるだろうけど。
「つぅ!」
攻撃を防御して受けたというのに身体に痛みが走ったのは、相手のレベルが高くてダメージを相殺できなかったんだ。
私よりも10近くレベル高いんじゃないかな?この敵。何とか削りきって一体倒すとハセヲは一体倒し、残りの敵と交戦している。
私もハセヲもHPが減少していたのでアイテムを使用して回復してからハセヲとは反対側から敵に攻撃をしかけた。
「あーもぅっ!乙女の柔肌に何てことしてくれるのっ!」
戦闘終了後、余裕があるのでリプスを唱えて怪我を治す。
「乙女って……似合わねぇ」
「うわっ!グサッときたよ今のっ!」
自分で言うのはいいけど、誰かに乙女でないと言われるのはかなりきたので胸を押さえて仰け反った。
であった自分ならしないだろうオーバーな動作をこの世界の私、は当たり前のように行うのはそれが此処での当たり前だからだろうか。
「だったら、私は何だって言うのハセヲ?」
此処で『オバサン』なんて言い出したらキレるからね。
「……しらねぇけど、乙女でないのは確か」
危険感知能力でもあるのかハセヲが曖昧なことを言う。
オバサンと思っていたのなら素直にそういうだろうと思うからたぶん違うのよね。
「あっ、そう……まぁ、いいや。次ぎいきましょうっ!此処って獣神像でしょ?」
離れた場所に見えるのは神殿だということはきっとそうだ。
レベルの高いところのボスと戦うようなマップでなくてよかった。
「お前」
此処から一番近い敵はどこかと見回している私にハセヲが呼びかけたので私は振り返り、彼のチッチッと人指し指を左右に振り。
「、私は『お前』でなくてだよ。ハセヲ」
「ちっ……、ここら辺の敵と戦える腕があるのにどうしてあのフィールドに居たんだ?」
面倒くさいとハセヲの様子からは明らかに表れていたけれど、名前で言い返すのも面倒なのか素直に私の名をハセヲが呼んだ。
無理矢理に呼ばしたけど、やっぱりちゃんと名前で呼ばれている方が気分はいい。
「アイテム集めだよ」
何を訊ねられたのか意味がわからずに私は素直に答えるとハセヲは納得したように頷き。
「あぁ、そうか……なら、おかしくないか」
「何がおかしくないの?」
彼の中では何か納得できる答えがあったんだろうけど、生憎と私にはそれがよくかわらない。
「関係ないだろ」
関係なくなんかないっ!と、言いかけたけど寸前のところでその言葉を飲み込む。
今のハセヲは誰かに関わってほしいとは思っていない。誰かに関わってその人との繋がりが断ち切れることを恐れているから……。
「ははんっ」
「何だよ」
訳知り顔で頷く私にハセヲが怪訝そうに見る。
「私に惚れたらダメだよ。少年」
おまけのウィンクまでサービスしておく。
反応は……。
「ちょっ!ハセヲ、無視して敵に突っ込まないでよぉ」
これっぽっちも突っ込みないのは相方としては失格だよぉ。ハセヲ。
「わりぃ、気が遠くなったから」
「照れ隠しね」
聞いたことを無かったことにするらしいハセヲに私は頷く。
ハセヲの内側に無理に踏み込んでいたあの時の雰囲気が消えてるんだからよしと言えばよしだ。
「そんなんじゃねぇーよ」
呆れ顔とその声。……でもさハセヲ。今は少しは楽しいと思ってるよね?
こんな馬鹿な話だって、ハセヲの頃には大切なんだよ。すぐに忘れてしまう馬鹿馬鹿しい話でも、そんな風に笑えたんだねっと思えるんだから。
「んじゃっ、ハセヲ君を惚れ惚れさせる為に敵を華麗に倒してみせましょうっ!」
私はそう宣言するとSP消費をあまり考えずにアーツを駆使して敵へと攻撃をしかけていく。
「人の話をきけっ!惚れてねぇって言ってるだろうが」
「はいはい、冗談だってば」
先ほどよりも会話が多いのに敵のHPは削れていく。
あぁ、此処での経験でまた私のレベルが上がったのかな?この調子だとこのフィールドの敵全部倒しただけで結構上がりそう。
「有害過ぎるんだよ」
ハセヲも私と会話しながらなのにニ体の敵を上手く攻撃範囲に入れて攻撃をしかけていた。
「ちょっとしたスパイスなのになぁ」
止めもアーツで決めて私はダメージを受けていたハセヲに回復を施し、彼が受け持っていたニ対のうち一対に攻撃をしかける。
それぞれの攻撃を受けていた為に削りきれずにいたらしくその後はすぐに一体をハセヲが倒し、残りは二人で攻撃した。
「何だか二戦目にして戦い方というのが確立してきた気がする」
戦闘終了後、パンパンッと両手を叩いて手の埃を払う振り。
「だな」
ハセヲも否定することなく頷いた。
「んじゃ、緊急時以外は私が回復ってことでいいよね」
「いいんじゃないか」
基本的なプレイスタイルが出来上がると私とハセヲのパーティーはサクサクッと敵を倒していく。
ハセヲはSPを気にしないでアーツを使用するのでSPの回復にも気をつけながら戦闘を進めないといけない。そうやって少し彼についてのこともわかっていく。
「獣神像にとうちゃーくっ!」
フィールドの敵をすべて倒して獣神像につく間に私のレベルもだいぶ上がっていて、当初のハセヲはそんなつもりはなかったんだろうけど今回は私のレベル上げにとってもよかったみたい。
「開けろよ」
ハセヲが当たり前のように開けると思っていたのでそう言われて驚いたけど。
そうか、ゲームの仕様としてそうなだけだから実際は譲り合いということか。
「私が?ハセヲが開けたらいいよ。私はついて来させてもらったんだしさ」
「開けろって俺はここのレベルぐらいの宝箱なら何回も開けてるし……人の好意は…だろ?」
断った私にハセヲが少し強い口調で言った。
それは、彼の照れ隠しみたい。
「そう……ありがとう。ハセヲ」
私はハセヲに礼を言って宝箱を開ける。そこには今、使用している物よりもレベルが高い双剣があった。
「うわぁっ!双剣だっ!」
嬉しくなってハセヲに手に入れた武器を見せ。
「今度はハセヲが開ける番だね」
「あぁ……って、おい」
私の言葉に頷いたハセヲが気づいて突っ込みを入れようとする。
「次の狩りが楽しみ楽しみ」
でも、私はその言葉をさえぎるように言葉を続けた。
「……暇な時だけだぞ」
役立たずというわけではなかったようで、ハセヲが渋々ながらも頷いた。
「うん、私も呼ぶけどハセヲも呼んでね。いつでもいいからさ」
「気が向いたらな」
ハセヲとの冒険はいつもよりスリルがありそうだ。
高レベルでの戦いはいつもぬるま湯の様な場所でチマチマと狩りをしている私には麻薬のように作用し興奮させた。
「絶対だからねっ!」
ソロではいけない臆病の私にハセヲという存在がスパイスとなって、今度を期待させる。
今の戦いは君の為ではなく、私の為だから……ハセヲが戦わなくちゃいけなくなった時、今度は私が手助けしよう。
ハセヲには言えない誓いを私はソッと心の中で誓った。