偽りの奇跡
本編 〜4〜
私がカナード@ホームに入るとそこにはクーンとガスパーがいた。
「やっほー」
二人に私が手を振って挨拶するとクーンとガスパーが此方を見て。
「やぁ、」
「、こんばんはだぞぉ〜」
笑顔で挨拶してくれる。特にガスパーは手を上げるジェスチャーが可愛い。
抱きつきたいんだけど挨拶のたびに抱きつくのはダメだろうということで我慢してる。一回抱きついたりしたら習慣づいて毎回やりそうだ。
「クーン、ちょうど良かった。はい、プレゼント」
私は戦利品をクーンへとプレゼントする。
「ありがとって、レベル高いのばかりくれるなぁ」
つまりは、私はクーンのレベルを追い抜いているということか。
ありゃ、この間までは初心者だったのにレベル高くなるのは速すぎなのかな?そうすると、コアなプレイヤーだと思われても仕方が無いのかも。
「必要そうなのは残して、後はショップで売っちゃってよ」
「、ギルドショップとしては助かるけどあんまり…」
クーンが説教をしようとしていると判断して、私は今ホットな話題をこの場に提供することにした。
「そういえばさっきエリアで赤くて黒い人に会ったよ。PKしてる場面に出くわしたら私より先にPKKしに入ってる人が居たの」
もう取れたてピチピチな話題、私が会ったハセヲの話。
私は今のBBSとかの話題には疎いというか見れないので、知っていることも知らないふりをしておいて誰かに教えてもらうようにしている。
「赤くて黒い?……もしかしたら、それは『死の恐怖』のハセヲじゃないかな」
もしかしなくてもそうなんだけどね。
やっぱり、クーンは色々と情報を知っているようで現在でもハセヲの名前は知っているらしい。
「へぇ、怖そうな通り名だね。そんな呼ばれ方してるって事はやっぱり強いんだ」
「レベルは100を越えてるって話だからな」
やはり、噂レベルだと正確なレベルの情報は入らないか。
直接聞けるならいいんだけどなぁ。
「……」
ハセヲとどうコンタクトを取るか考えているとクーンが私の目の前で手を振っている。
「何?」
そのクーンの行動に私はチラリッと視線を向けて首を傾げる。
そうするとポリポリッと彼は頬をかくジェスチャーをして……。
「あー、もしかしたら何だが『死の恐怖』に興味持っちゃったりするわけ?」
「えぇっ!、それは危ないぞぉ〜」
クーンの言葉にガスパーが両手をバタバタさせて、精一杯という感じで可愛いんだけどね。
「ガスパー、私まだ答えてないでしょ」
私はゴスッとガスパーにチョップを入れるフリをした。
返答前にガスパーがそう反応したらダメでしょうがガスパーってちょっと興奮したりすると話を聞いてないところがあるのかなぁ?ゲームの時もそんなところがあったもんねぇ。
「ごめん〜、興味はないんだなぁ?」
ホッとしたようにガスパーが言って、笑みを浮かべているところ悪いんだけどね。
「えー、そういう訳ではないんだよねぇ」
興味が無いわけじゃないどころか興味はある。
後にクーン、シラバス、ガスパーと関わってくるハセヲは主人公であり彼を中心として話は進んでいく。
そんな彼と今のうちに少し知り合いになっていようという魂胆とかもあるし。
「、お前が強くなってるのはわかってるが『死の恐怖』のハセヲは止めておけ。彼はPKKをしているが別にPKされたPCを助けたりするのが目的というわけじゃないらしい……下手に関わるとお前がPK対象になるかもしれないんだぞ」
曖昧な笑みを私が浮かべているとクーンが真面目な表情で私を見ている。
「そうかな?意外にそうでもないかもしれないよ?」
俺の言葉は私を心配して言ってくれていた言葉だし、まだハセヲを直接知らないから言っていることだと思う。
確かに今のハセヲは余裕が無いのだろう。大切な人を失って、何も出来ないままに過ごしている自分に苛立ちを抱えているはずだ。
でも、彼が積極的にPKをすることはないだろう。
「クーン、心配しないでよ。私は自分が傷つかないのが一番先にくるプレイスタイルだって知ってるでしょう?」
クーンの真似をしてウィンクをして見せたけど上手く出来たかな?
「たくっ、しょうがないな……無茶するなよ」
「了解、マスター」
結局、クーンは私の行動を受け入れてくれたのでビシッと敬礼して返事をすれば彼は笑う。
「こういう時だけは返事がいいよな。お前」
何だかそれは私がお調子者だと言ってない?
クーンの方がお調子者だと思うんだけど、そういえばカナードのギルドマスターとしての彼はそんなにお調子者じゃないよなぁ。
「私はいつでもお返事いいわよ。ねぇ、ガスパー」
「う〜ん」
ガスパーへと視線を向けて同意を求めたのに、ガスパーは頭を変えて身体を傾ける。
「はぅっ!ガスパーなら信じてくれると思ったのに」
ぱたりっと倒れて、キラン★ランディに抱きつくとシクシクと泣きまねをしておく。
「はわわっ!」
「こらっ、ガスパーをいじめちゃダメだよ。」
ふぅっとワザとらしいため息と共にシラバスが言った。
「あれ?シラバス、いつ来たの?」
いつの間にか@ホームに来ていたらしいシラバス。
たぶん、会話中に入ってきたとは思うんだけどねぇ。
「がガスパーに同意を求めた時かな」
「……そこからだと私がクーンにいじめられたところ見てないね」
正確には呆れたクーンが私について、ちょーっと間違った事を言っただけなんだけどね。
私がシラバスに言うとクーンは予想通り呆れた表情で私を見て。
「何がいじめだ。をいじめられるヤツなんてそういないぞ」
「えーっ!こんなにか弱いのに」
なよっとした仕草をワザとらしくしたんだけど。
「あははは、変なの」
「シラバスっ!笑って指差さない」
笑われることは予想してたけど、指差されるとは思わなかった。
「ごめんごめん」
シラバスはすぐに謝ったので私は許すことにした。
笑いを取る為にしたわけだし、そう考えるとお笑い芸人さんは大変だわ。
「よろしい」
うむっと頷いてから、私はまた狩りに出る為に@ホームを出ることにする。
シラバス、ガスパーはクーンと居たいだろうから今回もソロをしてこよう。
「それじゃあ、私は出かけてきます〜クーン、シラバス、ガスパーまたねぇ」
キラン★ランディの頭を軽く撫でて彼にも「じゃあね」と声をかけてから立ち上がって、@ホームの出口へと向かう。
「またな」
「またねぇ」
「またなぁ〜」
3人の語尾は違えどほぼ同タイミングのお返事を聞いてから私はカナード後にする。
ドームにあるカオス・ゲートの前で私は次のエリアはどうしようかと考える。
……そういえば、あのエリアには一度も足を踏み入れていなかったな。
そう考えて私は思い浮かんだとあるエリアのワードを口にする。