偽りの奇跡
本編 〜2〜
今のThe Worldにはハセヲはいない。否、ハナヲはきっといるが彼はまだ三爪痕に出会っていないはずだ。
私が知る限り最初のギルドマスターがクーンで、抜けた後はシラバス、ハセヲが入ってからは彼がギルドマスターとなると記憶しているし、そうなるのならばまだクーンは開眼していないということでハセヲも三爪痕とは戦っていない。
必死に三爪痕の情報を集めつつPKKとレベルを上げているんだろう。そんなことを考えながら橋に腰掛けて私はぼんやりと過ごしている近頃は此処がお気にいりの場所だった。
「ん〜、レベル上げでもしようかな……でも、ソロだとつまんないし」
私はどれだけの時間を此処で過ごしてるのか明確な時間間隔が無い。また現実への帰還という目的意識は希薄で、このままでも別に困らないような気がしている。
PKをされるがのが嫌なものだからソロでレベルの低い敵を相手にチマチマとレベルを上げていた。
何レベルという明確なレベルを認識しているわけじゃないけれど確かに敵を倒したりする事で経験が蓄積されて力がついていくようだったし、あまりにレベル差があるフィールドでは経験が無いと感じたり、微々たるものだろうと認識したりするのはすべて感覚で最初は不思議だったのに今ではすっかりと慣れた。
「あれ?じゃないか」
「あっ、久しぶりクーン」
最初に出会ってから彼には最初の頃に何度か一緒に冒険に出てもらった。
ただレベルが初心者といえなくなった頃に私はクーン達を誘うのを止めている。
「しばらく連絡がないから心配したんだぞ」
どうも心配されていたらしい。
まぁ、インすると毎日のように誘ってただろう私から連絡が無くなると心配になるかぁ。
「連絡を取ろう思ったんだが、他に知り合いが出来て楽しんでるのならっとも思ってな」
……あぁ、そうか。彼は何度かそういう出会いと別れを繰り返したのだ。
初心者救援ギルドであるのだから、それは当然の事だろうけど少し寂しいかもしれない。
「そういうわけじゃないけど、ほら初心者とも言えなくなったから」
「……言えてる。お前、俺がいつインしても居るからな」
メンバーリストで確認できるんだったかな。
いつでも私は点灯状態、かなり入れ込んでると思われているだろうなぁ。
「あはは、つけっ放しで放置とかもあるけどねぇ」
正直に私はログアウトできないとは言えない。
「どれだけつけっ放しなんだ?」
呆れたようなクーンの言葉は私も自分が言われたらそう答えるだろう。
「それにっ、だ。あれだけ一緒に冒険に出てたのに急に付き合いを切ったりするな。確かに俺達は最初は初心者救済ギルドのマスターと初心者って関係だったかもしれないがもうそれだけじゃないだろ」
クーンの口調が少し怒っているように感じて私はうな垂れる。彼にしてみると私の態度はそのようにとれるだろう必要がなくなったから話す必要は無い存在だと考えていると。
「ごめん、忙しいだろうしあんまり迷惑かけたりしちゃいけないと思ったんだけど」
「変な気遣いはするな。俺はと一緒に冒険をするのは好きなんだし……あっ、そうか。迷惑だと思うのならお前もカナードに入ればいいんだ。ギルドマスターとそのメンバーなら親しくして当たり前だろ?名案名案っ!」
楽しそうにクーンが言った。
カナードというギルドに私が入る?でも、そうすると物語が変わってしまうかもしれない。
「でも」
だから、頷けないと思った。
「お前が楽しんでるのなら俺は何も言わない。一人で此処でぼんやりと過ごしてるのならカナードに入ってみろ。一先ずは入るだけでいいんだ。気に入らなければそのまま抜けてしまってもの自由だから少しだけ俺達に時間をくれよ」
なのに、クーンが私の迷いを吹き飛ばす。
一緒に居てもいいのだと彼は言う。私が居ることで物語は変わるかもしれないのなら、もう少しだけ近くで彼等と一緒にいてもいいだろうか?
「……うん」
「よぉし、それならカナード@ホームに案内してやる」
頷いた私に早速とばかりにクーンは言う。
私はその言葉に導かれるように橋から飛び降りてクーンへとついていく。
橋は人がいったりきたり。行って、帰って、渡っていく。通り過ぎていく。
そこに居た私、何処に行くことも帰ることも出来ずに……。
「クーン」
私は前を進んでいく彼に声をかけた。
「んっ?」
「……ありがとう」
お礼を言った。聞こえるか聞こえないかというほどに小さな声だった。
だけど、ちゃんとそれはクーンに届いていてクーンは笑顔で振り返ってくれた。
彼とはまた別れがあるだろう。
だって、彼は碑文使いでこの優しさがゆえにシラバスとガスパーから離れたのだろうから……。
クーン、この先にある出会いが貴方の為となりますように私は願おう。
先にある物語を私は少しだけ知っているだけだから、それよりも先にある貴方達の未来を信じよう。
初心者救済ギルド『カナード』そこに居たグランティ。
「うわっ!黄色い」
ギルドマスターと似たような姿になるというグランティはめっちゃ黄色く、頭のてっぺんが青かった。
「お嬢さん、カナードにようこそぉ〜きらーん。俺の名はキラン★ランディだ。きらーん」
何、その効果音みたいな語尾とか名前。
私はチラリッとクーンを見るとへにゃと笑みを浮かべたクーンがいる。
「俺と似てるらしいんだけど……あっ、中身はそうでもないんだけどな」
「あぁ、どうりで」
こくりっと頷く、PCの行動にあわせて設定されたりしてるのならクーンならこれもありかな。
「私は、よろしく」
「、それはどういう意味だ?」
クーン似のグランティに挨拶していたらクーンに突っ込まれた。
突っ込んだりせずに流すぐらいの度量が必要じゃない?クーン。
「気にしない気にしない」
ぽんぽんっとクーンの肩を私は叩く。
そうして、クーンの前に立つと頭を下げ。
「これからよろしく、ギルドマスター」
「こちらこそよろしくな。」
少しだけの間だとしても、クーンが私の最初のギルドマスターだ。
これから私はカナードの、クーン、シラバス……そして、まだ見ぬガスパーと同じメンバー。
皆と仲良くなれますように……。