このお花は何ですか?


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かすがという名の金髪お姉さんに抱きかかえられながら流れる風景を見ていると昔風な建物ばかりだ。
松寿丸君のとこと似ている。これは彼が居る世界に来れたのかもしれないとテンションが上がり、無意識に尻尾を左右に振る。
大人しく運ばれてきた先はこの世界で見た中では一番に大きな建物で、お偉いさんが居そうだと思っていると大きく視界が揺れた。
何故だかお姉さんは私を抱えたまま屋根裏に忍び込み、そのまま屋根上を進んでいく。片腕を私を抱えることで拘束されているのに器用なことだと感心してしまう。
「謙信様」
動きを止めたお姉さんが誰かの名を呼ぶ。
「もどったのですね。かすが」
「謙信様、白き光に関係すると思われる白い山犬を連れてまいりました」
屋根裏から一気に部屋へと降り立つといううさぎも真っ青な身体能力を持つ彼女は私を抱えたまま部屋へと降り立ち、白を基調とした服を着た綺麗な人の前に下された。
「さすがですね。わたくしのうつくしきつるぎ」
頬を赤らめたお姉さんの報告に微笑みを浮べて答えたその人とが見詰め合う。
二人の間で居心地悪く二人を見比べていると見詰め合う二人を彩るように紅い薔薇が咲き乱れ、見間違いかと前足で顔を擦ったが見間違いではなく確かに見える。
現れた薔薇は私が走る時に現れる植物のように消えていくが、消える前までは実体化してるのか薔薇の香りと感触があるって二人は筆しらべでも使えるのだろうか?
「おはつにおめにかかります。われらがじぼ。このうえすぎけんしん、じぼにおあいできましたこと、まことこうえいなこととぞんじます」
妙な薔薇について自分なりに考えていると何やら今まで聞いたことのない物言いで話しかけられた。
「わう?」(えっ?)
私に会えたことに対して、光栄だと言っているようだと理解できたからこそ初対面の人がどうして私がただの子狼でないと知っているのかと戸惑う。
「そのせいれいなしろきおおかみのおすがたにしんくのくまどりがはえ、おうつくしい」
柔らかなその物言いの男性だろう彼の発言の内容は、慈母、狼、真紅の隈取り、それは彼が私の真実の姿に気づいているということを知らせる。
中途半端な神様でしかない私よりもよほど清浄な空気を漂わせていそうな彼は目が合うと私に微笑んだ。気のせいか白い薔薇が背後に見えた気がした。目の錯覚だよね?
「白き狼?狼だったのか」
驚いたというように金髪お姉さんの声が背後から聞こえたので、後ろを見ようとして頭の重さに転がりそうになったが転がる前にお姉さんの手が私の身体を支えてくれた。
「わんっ!」(ありがとう!)
「何だ?」
彼女の顔を見つめてお礼か代わりに鳴けば首を傾げられる。
「れいをおっしゃっているのでしょう」
「謙信様はこの、いえ、狼の言葉をご理解できるのですか?」
「そうであろうとすいそくしたにすぎませんが、まちがっておりましたか?じぼ」
合っていたので首を上下に振れば反応したのはお姉さんで。
「流石です!謙信様」
胸の前で手を組んで頬を染めて身体をくねらせている様子はちょっと怖い。
よほど彼のことを好きなのか敬愛だか何だかかが高すぎるみたいだ。
「くぅん」
「じぼ、どうかなさいましたか?」
ついていけない雰囲気に情けない声をあげるとこちらへとけんしん様が柳眉な眉を下げて心配そうにきいてくれる。
特に何があったというわけではなく、私自身の心情なので何もないという意味をこめて首を振った。
「もんだいはないのですね?」
そう言いながらも様子の変わらない相手にどうしようかと悩んでいるとキュルルルゥと間の抜けた音が鳴った。
音は私の腹からでお腹がすいたというわかりやすい自己主張だ。狼になったとはいえ元は人、聞こえていなければいいと思っていたのに。
「おや」
「腹が減っているのか?」
美人さん達に私の腹の虫の音はばっちりと聞かれてしまったらしい。
元は人間だったので羞恥心はもちろんあるので私はうな垂れてしまう。外見は子狼なので赤面しても気づかれはしないだろうけどさ。
「かすが、じぼにおしょくじを」
ありがとうございます。ありがたくいただきます。そう心の中で感謝する。羞恥心を感じはしても、お腹が膨れる機会は逃しません。
「はい」
返事をした次の瞬間には姿を消すかすがさんは人間離れした身体能力をお持ちのようです。
それとも、この世界はちょっと頑張れば彼女ぐらい動けるようになるんだろうか?何それ、怖い。
かすがさん並の人ばかりの世界とか見習い神様な私には色々と無理っぽいんですけど。
「じぼ、くうふくじにはよいかんがえはうかびませんよ」
先行きに不安を感じていると柔らかな声が降ってきた。
「わんっ!」(はいっ!)
私よりもよほど神仏ではないかと思える穏やかな表情を浮かべた彼に元気よく返事をした。
微笑んでくれたことに嬉しくなって尻尾をぱたぱたと振ってしまう。
「おげんきになられましたね」
ご飯を食べさせてくれるし、本当に良い人っ!


ごはんはスタッフ(私)が美味しくいただきました。





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