ハム星の華麗なる生活

06


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「……」
見事な三白眼をしたこの御仁は何方ですか?
お願いしますから真顔で見つめるのは止めて頂きませんかね?勘弁してください。
そう願っても視線はなくならないので箱の隅から布の下へと潜り込むことにする。
えっ!ちょっ!人のお尻を掴まないでっ!
「窒息するぞ」
ああ、親切心なんですか。箱の真ん中に存外に優しい手付きで下ろされた。
「シュラ、お前は朝っぱらからハムスターを見に来たのか?」
「そうだが?」
デスマスクの言葉に真顔で答える三白眼ことシュラ、理由があろうとも乙女のお尻を掴んだ輩は呼び捨て対象である。
「興味があるのならお前が飼えよ」
おやおや飼われて次の日に飼い主変更ですか? デスマスクとタイプは違えど強面顔なので私の興味はないんだけど。
「アテナに命じられたのはお前だろう」
ちょいちょいと人の鼻先をシュラが指で触ってくる。
止めて下さいねっと片手でその指をぐいぐいと押す。
シュラが笑みを浮かべると柔和な顔つきになるらしい。強面だけどイケメンなんだと確認できた。
デスマスクも顔のパーツ自体は悪くないはずなのにそれらが集まるとチンピラ風味なのは何故?雰囲気?
「連れてくるんじゃなかった。サガには文句を言われるしよ」
うざい。小動物に文句を言うな。私は一言も連れて行けとは言ってない。助かったけどなっ!
私を見ながら文句を言うデスマスクを睨みつけていると頭をシュラの指が撫で。
「ハムスターに言ったところで意味はない」
「人の言葉を理解するハムスターだぞっ!」
元人間ですからね。神様のイタズラのせいなのかミスなのかは知らないけどハムスターになっちゃった哀れな存在ですよ。ケッ。
「アテナは悪しきモノではないと仰られていた。お前もそう思うからこそ飼う気になったのではないのか?」
アテナちゃんが言っていたって、それで納得するんだ。
サガという青年と違った意味で面倒臭そうな青年だな。シュラは。
「俺は命じられたから仕方が無くだ」
「そういうことにしておいてやろう」
「偉そうだな。おい」
女としては面倒な男同士のじゃれ合い的な会話に呆れた眼差しを向けていると。
「俺はそろそろ行く、ではな」
「キュッ」(じゃあね)
話を切り上げたシュラは私の頭を撫でると去っていってしまう。
それを舌打ちで見送るデスマスクの態度は大変に悪いので不肖な飼い主のために飼いハムスターである私は見送ってあげた。
しかし、顔はいいがいい歳した輩が若い女の子、それも可愛い子の下にいるっぽいのはどんな理由だろう?
サガやシュラだけなら宗教な気もするが、デスマスクも加わるとなるとちょっと違う気もする。
「クソッ」
まぁ、お下品。
「そもそもお前のせいなんだぞ」
私は被害者です。神様のせいだし、ここに来たのはあんたのせいでしょ。
「あぁぁっ!久方ぶりの休暇なのにお前の世話とか面倒くせぇっ!」
「ヂュゥ」(うるさい)
頭を掻き毟り奇声を上げはじめたデスマスクに注意する。
どっか行きたいならいけ。遺跡らしいあそこでは飲まず食わずで過ごしてしてたから放っておいて大丈夫なんだよ。
言葉が通じない不便さに八つ当たり気味に壁、石の箱にあたって後ろ足でキックする。ゲシゲシ。
あれ、何か感触が……うえええっ!どうしてハムスターのキックで石が壊れてんだよ。どんだけもろいんだよこの大理石っぽい石。
やばいやばい女神のお名前を持つ天使なアフロディーテさんから頂いた物なのにっ!
両手でかけた石、人間にとっては塵のにも等しい大きさのものを持って陥没したそこに押し付けてみる。うん、パラパラと落ちますよね。
どうしよう貰ってすぐに壊す子とか幻滅されてしまう。失礼な野郎共には何と思われようとどうでもいいが美人に嫌われるとかやだなぁ。
「キュッ」(あっ)
お願い事が妙な感じで叶っているのなら、もしかしたらアレが出来るのではないだろうか?
ものは試しということで私は欠けた石達をなるべくちょっと陥没している部分の近くに集めてみる。
両手を合わせて、はい壁タッチ。錬金って出来るわけ……って、出来てるっ!出来てるよっ!
あわあわわ、マジで?マジですか?先ほどまでは陥没していたあたりのに手をはわせるがヒビのようなものは感じない。
「何してんだ?」
首根っこを掴まれて持ち上げられるが今はそれどころじゃない。
別に捕まえる気はなかったのか石から離れたところへと置かれる。
「キュウ?キュウ?」(見た?見た?)
錬金してしまったほうとデスマスクを交互に見て思わず訊ねる。
「外に出たいのか?ハムスターのお前が壊せねぇよ」
ああ、そうなの。見てないの。私の特殊能力初披露だったのに……いやいや、妙なハムスターと思われるよりはよいか。
そう考えると先ほどまで騒いでいたのが馬鹿らしくなって横になる。
「壊すの諦めたのか?ついでに外に出るのも諦めとけ」
諦めるというかどっちも簡単に出来るようになったよ。
錬金して穴作って直しとけば簡単だよ。もうちょちょいのちょいだよ。チートハムスターだよ。なんかアンニュイな気分だわ。
人間もしくはそれに類似した存在だったら最強主人公目指してたかもしんないからハムスターでよかったのかもしんないけど。
デスマスクの気配が離れるのを感じつつ私は色々と面倒になったので寝ることにした。不貞寝である。

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07


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不貞寝から目が覚めたら近くに人の気配はしなかった。デスマスクはどこかに出かけでもしたらしい。
さて、どうしようか?すぐに出れるようになったのなら慌てることもな……あっ、一度だけだと勘違いということもあるか。
念のために確認のために使ってみよう。手と手を合わせて……はい。ぱっちん。見事に穴が開いてその分はスロープとなって外にでやすくなっている。
自分でやっときながら凄い手だと小さな両手ニギニギとしてみる。
「キュウゥ」(できたなぁ)
外見はハムスターであるが、とんだチートをゲットしてきたものだ。そんなものより私は人間として生まれかわりたかったんだけどね。
他人が願っていた願い事だが、それを叶えることができたあの神様はかなりすごいんじゃないだろうか?
ただ神にとって私達のような人間を個として認識していなかったのかもしれないという問題はあるけど、強者に弱者が何かを訴えたところで、慈悲にすがるしかない。
私が出会ったあの神様から感じたことからするとそんなものを期待するだけ無駄だろう。
生きているだけ幸運だと思って、充実した人生ではなくハムスター生をおくろうではないかっ!
まずはせっかく穴をあけたんだし脱走してみよう。スロープを使って難なく箱の外へと繰り出しこの状況がバレると面倒な気がするので、ないないしましょうねーっと内心で呟きながら元に戻すことで証拠隠滅。
さすりさすりっと触ってみても一度穴があったところだとは思えないほど綺麗である。あらためて凄い能力だと感心した後に周囲の観察をする。
私の箱が置かれていたのはベットのサイドテーブルであったようだ。一般的なハムスターではないが、これは色々な面でダメだろう。
まず衛生面が問題だし、小動物にとって人の気配が常に近くにあるとか心休まらないはずだしとデスマスクの小動物に対する扱いのなってなさに首を振ってしまう。やれやれである。
彼との出会いからして期待したところで無意味だと思うし、下手に改善されてペットコーナーとかで見かけたハムスター用フードなるものを持ってこられても困るのはこちらだ。
不思議なことに彼の扱いを受けても命の危険を感じたことはないので、この肉体はチートであるだろう。ハムスターチートとか誰得だけど。少なくとも私は得じゃないよ。
サイドテーブルの端によって下を見ると高さ的には降りれそうだ。遺跡で移動していた頃にはもっと高いところから落ちたりしても無傷だったし、いけるいける。
気合いを入れて飛ぶぜっ!と、身を空中に躍らせ。
「何してんだよ」
ぐえっ。声もなく息だけが口から漏れる。空中でガッツリとデスマスクの手に掴まれてしまった。
近くにいた気配はなかったのに、一体全体何が起きたの?
「逃げんなって言っただろうが」
「ぢゅっ!」(知らんなっ!)
「何を言っているかわかんねぇがむかつく」
わからんのに指の力を入れるんじゃないっ!
握りつぶす気はないようで、ちょっと苦しいといったところでデスマスクの手は止まった。
ちょっととはいえ苦しいのは変わらないので、足ですき間を空けようとデスマスクの手を押す。
「暴れるな」
締め付けがきつくなる。うう、放す気はないようなのでここは諦めておこう。
……っと、見せかけての大脱出っ!
したと一瞬思ったけど、先程より締め付けがきつくなっているでござる。解せぬ。
「……」
効果音的にはぎゅむぎゅむだろうか。無言のデスマスクに両手で掴まれてる。ちょっと怖い。
目にも留まらぬ早業だ。そういや、神様だったらしい蛇の時に目にも留まらぬ速さで何かしてたな。
何が出来たとしても速く動けるらしいデスマスクのチートには叶わなさそうだ。あまりチート使えないや。これが種族格差というものか。
デスマスクの癖に、デスマスクの癖にっ!無言のデスマスクの怖さなど気にするものか連続キックしてやる。
「脱出されたんだったらもっと深い箱のほうがいいか」
アフロディーテさんから頂いた箱でなくなるとっ!
これは脱出しなかったほうがよかったのでは?
「何か適当な箱を捜しに行くか」
うぐぅ、またも揺すられて気持ち悪くなるのか。
「大人しくここに入ってろよ」
そう言って入れられたのはデスマスクの赤い柄シャツの胸ポケットだった。
ふむ。デスマスクの人肌だと思うと微妙な気持ちになるけど手で握られてるよりはマシだ。
ポケットの端に手をかけて外を覗いて見ようとすると頭を指で押さえつけられた。
「大人しくしてろって言ってるだろ」
結構な力なので手を離してしまいポケットの奥へと押し込められるが外を見たいので挑戦あるのみっ!
それを幾度、数えるのも面倒なほど繰る返してみたら。
「そこから出たら手足縛るからな」
不吉な言葉と共にではあるが、外を見る権利を手に入れることが出来たのだった。

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08


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